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特集:満足度・利用度No.1をめざして
    挑戦するJA共済事業

安心して暮らせる地域社会の実現めざして
ルポ 高齢者福祉事業に取り組むJA

JAくにびき(島根県)
「組合員のための事業」を第一 福祉事業では先駆的な実践

 島根県のJAくにびきは、合併実現以来、「農業振興」「地域づくり」「経営改革」を事業方針の3本柱としてきた。なかでも地域づくりの具体的テーマを「安心して暮らせる地域社会の実現」とし、高齢化の進行のなかで県内でもいち早く組合員・地域住民のニーズに応えた共済推進体制の構築や高齢者福祉事業の充実に取り組んできた。ここではこれまでの同JAの共済推進の取り組みや高齢者福祉事業の成果などについて伊藤利治常務理事に聞いた。

◆高齢者福祉の期待に応え
  地域に増えたJAのファン

JAくにびき本店
松江市のJAくにびき本店

 JAくにびき(太田紀道組合長)は、島根県の県庁所在地、松江市とその周辺の7町1村(鹿島町、島根町、美保関町、東出雲町、玉湯町、宍道町、八束町、八雲村)を管内として平成5年に誕生した。
 合併以来、伊藤常務は「一人ひとりの職員が組合員と向き合うこと」を重視してきた。組合員のニーズは多様化しているといわれているが、なかには「極端に言えば、JAの存在価値そのものを問う声すら地域内にはあること」に気づいたという。
 そうであれば逆に「JAとは何か、何をすべきか」を自ら問うことも大切な時代だということになる。「やはりJAの事業の基本は、組合員のためになるのかどうかを第一に考えるべき」だと伊藤常務は強調する。
 そのもっとも典型的な事業が高齢者福祉事業への取り組みだろう。
 旧JA八束郡時代の平成4年からホームヘルパー育成に取り組んだ。高齢者福祉の大切さを訴える女性組合員たちの意欲も強かったからだ。
 その後、研修を終えたヘルパーらの間から、実際にJAが事業として福祉を展開できないかという気運が出てきて助け合い組織「ひまわりの会」が発足、その組織をもとに平成7年に登録ヘルパーによる有償在宅福祉サービス「シルバーシッター制度」を発足させる。
 内容は、身体介護と家事援助。当時、JAの福祉事業に周囲はそれほど理解を示さず、「福祉は行政や関係団体の役割。なぜ、JAが」という声も多かった。実際にこのサービスがスタートしてしばらくは依頼もごくわずかだったという。
 ところが一度サービスを受けた家庭からは、「JAのヘルパーは暖かみがある」「話をきちんと聞いてくれる」などの評価が上がりそれが口コミで広がって地域や行政から信頼されるようになった。
 そして、大きく進展したのが平成9年。玉湯町とホームヘルパー派遣受託契約を結んだことだ。以来、管内9市町村のうち5市町村と同種の契約を結んだ。JAが高齢者福祉の担い手として大きく期待されたのである。
 その後、託老所の開設、デイサービスセンター「ひまわりの家」を開設し、在宅だけでなく通所でのサービスへと幅を広げていき、平成12年の介護保険制度のスタートでは「訪問介護事業」、「通所介護事業」の事業者として指定を受けた。
レクリエーションの様子
行政との連携で地域福祉に貢献。写真は「サン・エールたまゆ」のショートステイ利用者のレクリエーション。
 介護保険スタートにあたって、玉湯町は総合福祉施設「サン・エールたまゆ」の訪問介護、通所介護、短期入所生活介護(ショートステイ)をJAに委託した。行政にとってもJAの福祉事業が地域になくてはならない存在となった証といえるだろう。
 これらのサービスの利用者には痴呆の高齢者も含まれている。JAの福祉事業としてこれだけ幅広く手がけているところは全国的にもまだ少なく、先駆けといえる。これまでJAは、福祉職員の採用とボランティア体制の整備でこの事業を充実させてきた。登録ヘルパーは現在350名を超え、最近はサービスの質の向上、均一化のために年に数回の研修にも力を入れている。
 「最初、福祉事業は長年JAを支えてくれた高齢者への恩返しと考えていたが、始めてみると家族の負担の軽減など組合員のみならず地域住民全体にとっての願いが強い分野だということが分かった。JAを知らなかった人にもJAを理解してもらえるようになったと思う。JAの事業基盤の強化にもつながる」と伊藤常務は福祉事業の意義を話す。
 今年の5月1日には、新たなデイサービスセンター「やわらぎ」がオープンした。松江市内の木造一階建て民家を改造したユニークな施設である。庭も付いた落ち着いた環境だ。受け入れ人数は10名程度と小規模なものだが、この施設にはこれまでの実践から得た方針が現れている。それは「家庭の延長で介護サービスを行う」というもの。家族とともに過ごす自然な雰囲気を維持することが高齢者にとって大切、そのためには小さな施設で、という考えだ。
 「福祉施設に通う、というよりも、ちょっとJAに行って来る、という感覚で利用してもらいたい。われわれとしても、おじいちゃん、おばあちゃんにたまにはJAに顔を見せて下さい、と言えるような施設づくりをしながら、こうしたデイサービスセンターを広げていきたい」。今後はさらに3つ程度施設を増やす方針だ。この施設はこれからのJA福祉事業の参考になるのは間違いなくその成果を期待したい。
 事業計画の柱に「安心して暮らせる地域社会実現の取り組み」を大きく掲げるJAくにびき。
 「地域に信頼されるJAをどう築くか。そのためには組合員や地域のみなさんが暮らしのなかで必要としていることの実現に努力すること。それに尽きると思う」と伊藤常務は話している。

◆機構改革で恒常推進体制を構築

伊藤利治常務
伊藤利治常務

 大型合併JAになっても、高齢者福祉のようなJAらしい事業の展開が期待されるが、同時に地域の信頼を獲得するには、効率的な事業運営と経営基盤をいかに強化するかが課題である。そのため同JAも合併から5年後の平成10年に大幅な機構改革を行った。
 本店にJA改革推進室を設置し、本店の企画管理部門機能の強化を図る一方、支店の業務は信用、共済事業に特化した。また、営農部門は9市町村それぞれをカバーする営農センターに集約、購買事業施設も各種のセンターとして設置し効率化を図ることにした。
 こうした機構改革のなかで共済事業として掲げた課題は、ライフアドバイザー(LA)を増員し恒常推進体制をつくりあげることだった。
 合併以来、JA共済の普及は全職員によるいわゆる一斉推進体制による実績が大きなウエートを占めていた。
 「しかし、商品も複雑化、さらに組合員のニーズも多様化するという時代になり、一斉推進体制だけでは組合員や地域住民にJA共済の優位性、役割を十分に理解してもらえないのでは、と考えた」と伊藤利治常務は話す。
 このような考え方のもと平成10年にLAを従来の8名から29名に増員して本格的な恒常推進体制をスタートさせた。島根県では初めてのケースで、LAは、経済事業部門の見直しなど機構改革によって確保した。
 その後も、LAを徐々に増員し現在では36名となっている。最近の共済実績の内訳をみると、LAによる恒常推進が45%、一斉推進が55%となっている。「LAによる実績が50%を超す」ことが当面の目標だという。
 その理由は、恒常推進体制が数字的な目標達成に有効だというだけではなく、「組合員のニーズをしっかり捉え、JAのファンという底辺を広げることができるから」だと伊藤常務は考えている。
 「パンフレットに頼った説明ではなく、専門知識を持った職員による相談、提案といった機能が発揮できる。こうした体制によって、組合員、利用者に納得して加入してもらえる。それが顧客満足(CS)を向上させ実績にもつながっていると思う」。
 事実、全国的にも新契約実績は伸びても保有契約の純減という悩みを抱えるJAが多いなかで、同JAでは長期共済保有高で2年連続前年比純増という成果を挙げている。

◆LAは一斉推進のプランナー

 CS向上は大きな課題だが、そのためにはなによりも組合員のニーズが把握できなければならない。その情報をきめ細かく集めることができるようになったのもLA制度導入の効果だ。
 同JAはLA制度の本格的な導入にあたって、LAを本店ではなく支店配置としたことも特徴である。それによってLAに「組合員の生の声」が集まるようになった。地域の事情、各家庭の情報など、ときにはJAに対する苦言も含めて職員が肌で感じることになった。「大型合併JAだからこそ、組合員と向きあわなければならない。言ってみれば、JA職員が自分を売り込むこと。これが渉外体制のポイントだと思っています」。
 月に1回、全支店で組合員世帯を回るふれあい訪問日を設けているが、一般職員が得た情報がLAにも届く。それをもとにLAが恒常的な推進方策や対応を考えるという流れも生まれてきた。
 こうした体制のなかで、さらに注目されるのはLAが支店での一斉推進のプランナー、指導役をも果たすという取り組みまで実現していることだ。伊藤常務は、一斉推進を決して否定的には捉えておらず、「むしろ他の会社では考えられないJAの強み」だと考えている。ただ、問題は「“数字”だけが目標なのではなくCS向上など“内容”にどれだけ目が行き届いているか」である。
 LAが一斉推進のプランナーになることで、たとえば、一般職員からの情報に基づいて同行推進したり、あるいは一斉推進期間が終わってからのフォローも可能になったという。こうした取り組みのなかで、これまで比較的JAとのつながりが薄かった若年層など次世代の理解が深まったり、さらには員外対策も充実させることができるようになったという。
 また、昨年からはLAを統括するマネージャー制度も導入した。現在は5名。支店を大きくブロック単位に括り、全体目標の管理、LAの相談相手、さらに支店、支所長との連絡などパイプ役を担っている。支店長の業務は幅広く、共済部門にだけ目を配っているわけにはいかない。そこをマネージャーが共済推進の現場とつないで円滑に業務を進行させる。すなわち、「支店長と現場の潤滑油的な役割を期待」しての導入で、今後の増員も検討している。


<JAくにびきの概要>
◎組合員戸数−1万9815戸(うち正組合員戸数1万268戸)
◎長期共済保有契約実績−6万8692件、8175億円(14年3月末)
◎年金共済保有契約実績−4776件、22億5500万円(同)
◎短期共済契約実績−7万157件、11億4800万円
◎信用事業−貯金1001億7854万円、貸出金436億4100万円
◎購買事業−93億1242万円
◎販売事業‐28億7221万円
◎おもな農産物−米、野菜、畜産
◎職員数−396人(うち共済担当職員63人)


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