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特集:改正農薬取締法施行
    ――国産農産物の信頼回復のために

消費者が生産者に望むこと
消費者との対話で安心な農産物生産を

渡邉秀一 日本生協連安全政策推進室長

◆問われる生産者のモラル

渡邉秀一氏

 昨年起きた無登録農薬問題は、消費者としては非常にショックでした。
 昨年は、輸入ほうれん草が残留農薬基準をオーバーしているという問題がありました。輸入品は以前からポストハーベスト問題とかあり、生産現場から遠く離れているので、どのように農薬が使われているのか分からないという不安がありました。そして残留基準をオーバーしていることが分かりましたから、輸入はちょっと敬遠しておこう、出所が確かな国内農産物を利用しようという意識でいましたし、期待をしていましたが、国内農産物でも無登録農薬を不正に使っていたということが分かったわけです。消費者にすれば「国産もやはり裏切るのか」ということだったと思います。
 それから、国内の農薬が高いためか、インターネットを活用したり、買出しツアーと称して生産者が個人輸入するという問題とか、非農耕地用と称してホームセンターなどで売られていて、それが安いからということで使われていたケースもあると聞いています。
 生産者のモラルというか、農薬の使用ルールにどれくらいの重みがあるのか。食の安全を守ることについてキチンと生産者の段階での意識づけができていたのか、という疑問があります。生産者が法に違反した農薬を一切使わなければ、市場がなくなるわけですから、不正な輸入などが起きないわけです。無登録農薬問題は、国内農産物の信用を落とし、大きなダメージを与えたわけですから「一部の不心得者」がということではすまないと思います。

◆欠落していた農薬の社会的なシステム

 生産者のモラルと同時に、法律上や制度上の不備があり、登録が失効した農薬の情報や規制がどうなっているのか、どこをみても分からないという行政の対応の拙さもあったと思います。毒性が問題で登録失効しても回収させなかったり、販売や使用を禁止する措置がなかなかとられないということも、背景にはあったのではないかと思います。
 無登録農薬問題が判明して、全国的に調査をせざるをえなくなって、初めて登録失効した農薬のリストが公開されるなどの措置がとられましたが、それ以前は情報の透明性が欠落していて、どこに正確な情報があるのか生産者には分からなかったという面もあったと思います。
 これは行政がやるべきことではあるけれど、生産者の組織であり、全体としてみれば農薬販売の最大手である農協が率先してそういう情報を整理して、分かりやすく生産者・使用者に伝えていくことも欠けていたと思います。
 つまり、農薬にかかわる社会的なシステムが欠落していたと指摘せざるをえないです。今回の法改正、そして改正の第2弾として計画されている回収措置などによって、こうした点がどこまでカバーできるのか、注目しています。

◆適正な農薬使用へ 分かりやすい情報を提供

 大事なことは、食の安全を守るために、行政と生産現場が、重いウェイトをもっているということを、自覚していただくことです。
 行政は、農薬の専門家として世界的な情報をもっているはずですし、世界の規制の動向をつかんでいるわけですから、それにしたがって食の安全を確保するためにはこういう施策をとる必要があるということを、省庁の垣根を超え、生産振興を最優先にしないで、消費者の安全、健康を最優先にして組み直さなければいけないと思います。
 そして、生産者に対してもキチンと情報が開示され、こういう適切な使い方をしないと消費者の健康は守れないという教育をしていかなければいけないと思います。何で使用基準があるのかといえば、食品の安全や消費者の健康と同時に、生産者自身の健康を守ることであり、環境を守ることでもあるということを、農協組織がキチンと教育して欲しいと思います。
 この機会に、農協組織自身が率先して教育をし、適正な農薬使用についての専門的な情報を分かりやすく、利用しやすく提供し、生産者が適切な対応ができるよう指導していく体制を整えていく必要があるのではないでしょうか。

◆農業を守り、信頼回復のキーワードは「消費者」

 日本の農業を守り、信頼を勝ち取るためのキーワードは「消費者」だと思います。これは世界的な流れだといえます。そして、信頼は、生産者が消費者に、誠実に正直に対応してくれるのかどうかで決まると思います。農業の置かれている環境が厳しいからこそ消費者の信頼を得ることが大事ではないでしょうか。
 産直など生協の取引先については、そういう話をさせていただいています。生産者と話をして、こういう農薬を適正に使うという約束をしているということを、生協組合員に情報提供し、結集して欲しいと訴えているわけで、これは産直の生命線です。そしてできないことは、できないとハッキリいってもらうことも大事です。そのことで、どういう手だてをとれば、実現できるかを考える出発点にすることができます。
 食と農が分離しているといわれますが、生協は生産者と対話をすることで一緒に商品づくりをすることができるパートナーだと考えています。より安心できるものを、一緒になってつくりあげていくことが大事だと思っています。 (談) (2003.4.2)


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