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特集:改正農薬取締法施行
    ――国産農産物の信頼回復のために

現地ルポ
いま生産現場では
独自の栽培記録簿で安全を徹底

JAふかや(埼玉県)

◆作物別・ほ場別に農薬使用を記録

馬場由見氏
馬場由見 JAふかや 営農指導センター所長

 埼玉県北部に位置し、北に利根川、南は荒川と日本を代表する河川が流れるJAふかや管内(深谷市・岡部町・寄居町・川本町)は、北の沖積土壌、南の関東ローム層の火山灰地からなる2つの優良な農地に恵まれた国内屈指の農業地帯だ。
 コメ、野菜類、花き、畜産と多彩な農畜産物を生産し、首都圏の重要な食料供給基地となっている。とくに、深谷ネギをはじめホウレン草、キュウリ、チューリップは、全国で1、2位を誇る産地として知られている。
 昨年の無登録農薬問題では、「プリクトラン」を群馬県の業者から購入しヤマトイモに使用していた生産者がいることが分かり、無登録農薬を保有または使用した生産者のヤマトイモをすべて焼却。その後、JAはヤマトイモ生産者だけではなく全生産者に無登録農薬不使用の確約書を提出してもらった。さらにJAでは、改正農薬取締法の施行へ向けて、作物ごとに使用できる登録農薬のリストを作成し、市場や仲卸に送付し、この農薬リストから使用農薬を選定して、作物ごとに「JAふかや栽培記録簿」を作成した。

JAふかや栽培記録簿(部分)
JAふかや栽培記録簿(部分)

 A3判の栽培記録簿の上部には、生産者名・使用資材(肥料・堆肥など)・ほ場所在地・面積・品種・播種日・定植・収穫日・収量の記載欄があり、その下に、害虫・病気などに区分されて、使用農薬(対象病害虫・有効成分系列・薬剤名・使用量または希釈倍率)、使用基準(収穫前日数・回数)が印刷されている。そしてその右に使用月日記入欄があり、使用した月日を記入し、該当する農薬欄に○印を記入できるようになっている。この記録簿は1ほ場ごとに記録することになっているので、例えばレタスを2つのほ場で生産する生産者は、2枚の記録簿を作成することになる。収穫が終わればJAが回収し、必要に応じて情報開示できるようになっている。

◆使用農薬は部会で決定 違反すれば出荷停止

 選定した農薬は、有効成分系列が同じものが複数あったりするが、実際にどの農薬を使用するかは、各生産部会で協議し決められる。部会で必要ないと判断された農薬は消されてから生産者に記録簿が配布される。また、記載されていない農薬を使いたい人は、部会には仮承認されれば使用することができるが、承認されなければ使うことはできない。そして、部会で承認された内容を守るという誓約書を個々の生産者はJAに提出し、これに反した場合には、JAでは取り扱わない。
 この記録簿の実施にあたっては、改正農薬取締法への対応とあわせて、部会ごとに説明会を行った。生産者からはいろいろな意見が出たが「いままで、農薬の使用基準を守ってやってきたことに、記帳が加わるだけ」だと説明したと馬場由見営農指導センター所長。

◆残留基準が国の10分の1以下という「安全・安心野菜」も

安全・安心野菜システムの残留農薬分析結果の画面(デモ画面)
安全・安心野菜システムの残留農薬分析結果の画面(デモ画面)

 同JAでは、これ以前に、急増する「輸入ネギに対抗するために深谷ネギの生産・販売戦略を樹立」することを目的に、11年夏の国内・輸入動向調査から始まり、3年かけて準備し、14年10月から稼動している「JAふかや安全・安心野菜システム」がある。
 このシステムは、(1)埼玉県特別栽培農産物(減農薬・減化学肥料栽培)の認証を受けた上で、(2)生産集団、自主グループが自主的・主体的に栽培法、農薬、肥料の種類を統一していることが条件となっている。県認証を受けても、(2)の条件が満たされなければ参加することはできない。そして、(3)集団やグループの生産者個々とJAが協定を締結し、栽培法、残留農薬の分析と分析データの情報公開を行う。(4)安全・安心野菜の残留基準は、食品衛生法基準の10分の1以下の独自基準を設定し出荷する。(5)検証は、支店担当者が現地確認し、営農指導センターが検体チェックをする。
 そして、現在このシステムで出荷しているネギ(5件116アール)とホウレン草(47件873アール)の結束用テープ(赤色)に、JAホームページ(HP)アドレスと生産者コードを印字し、それによって、消費者がHP上で栽培法、残留分析データを確認できる。

◆生産者自らが考える時代 行政・JAはそれを支援

 このシステムは、(1)平等原則から公平原則へ、(2)全体責任の原則から自己責任の原則へ、(3)市場中心主義から消費者へ軸足を、基本的な考え方によっている。
 具体的には、これからの生産者の発想は「作れば売れる時代から、消費者が求める野菜作りへ軸足を」移し、「作ること以上に“売れる物”をどのように作るかの視点」に転換する必要がある。その「対応を怠ると産地は衰退する」。そして「いつ、どこで、どのようにして作ったか」は「消費者がもっとも求めている情報」だから「積極的に産地・生産者情報を開示、提供」する。そのことが「産地・生産者と消費者の相互理解と信頼を築くことにつながる」ということだ。
 公開されるのは、生産者個々の情報であり、問題が起これば、当然、その生産者の責任が問われる。そういうことも含めて「生産者自らが、何をどのように作るのか考え、行政やJAはそれを支援する」ことが役割だと馬場所長。
 条件に違いはあるが、基本的な考え方は「安全・安心野菜システム」も「記録簿」も同じだ。そして安全・安心だけではなく「被覆資材などを防除技術として活用するなど栽培方法を工夫し、農薬使用回数を減らすことでコストの削減をはかる」こともできると、馬場所長は考えている。 (2003.4.2)


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