農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:改正農薬取締法施行
    ――国産農産物の信頼回復のために

インタビュー
改正農薬取締法と全農の対応について

宮崎 光男 JA全農 肥料農薬部農薬技術普及課長

◆新たに農薬使用基準の遵守が義務化

 ―農薬取締法が改正されましたが、農家にとってどのような影響があるのですか。

宮崎 光男氏

 宮崎 3月から施行された改正農薬取締法では、無登録農薬の販売のみならず輸入・製造、使用面にも規制の枠がひろがり、登録のない農薬を使用した場合はもちろん、登録があってもその農薬に定められた使用基準を守らなければ罰則の対象となる。農薬の使用基準については、農水省・環境省令第5号「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」の第2条に定められているが、使用者は農薬ごとの「適用作物・使用量・希釈倍率・使用時期・総使用回数」を守ることが義務化されている。罰則規定が農家にも及ぶことから、本会は農水省・全中とともにタブロイド版「分かりやすい農薬取締法改正の手引」を監修し、全農家に改正内容の周知徹底を図った。また、消費者からの信頼を回復するためにもトレーサビリティにつながる「生産履歴記帳運動」や「防除日誌記帳運動」に取組んでいる。農薬の使用記録は、消費者に対する安全の証明になるばかりでなく、使用量の確認によるコスト低減の目安にも活用できる。
 一方、生産現場で問題になっているのは、地域特産農作物、いわゆるマイナー作物の登録農薬の数が限られていることだ。国としてもこれまで作物のグループ化による緊急登録と経過措置を設定して使用できる農薬が一定程度確保されてきているが、現場の要望を満たすにはまだまだ不十分な状態だ。本会としては、引き続き登録が促進されるよう国に働きかけるが、産地では県の指導機関に依頼して、地域特産農作物に使用できる農薬の登録のための試験に取組んでもらうことが重要な課題となっている。

◆マイナー作物の緊急登録拡大

 ―改正農薬取締法への対応で課題点はありますか。

 宮崎 作物に適用のない農薬を使えば罰則の対象となるため、マイナー作物の防除が課題となる。これは、地域の農業にとって重要な位置を占めておりながら、栽培面積が少ないこともあり、農薬メーカーにとって登録に必要なデータ作成等に要する経費の回収が困難なことから、農薬の適用拡大に消極的にならざるを得ない状況があり、防除薬剤の整備が追いつかなかったのが現状。農薬の適用拡大のためには薬効試験・薬害試験・作物残留試験(残留農薬分析)の各データが必要で、多種多様なマイナー作物でその試験を実施するには、経費は膨大なものとなるので適用拡大がすすんでいない。
 そこで、農水省は改正農薬取締法の施行にあたりマイナー作物を中心とした農薬の緊急登録を3月に行った。今回の適用拡大に当たっては、昨年秋に行政ルートでとりまとめた要望調査に加え、全農が系統ルートでとりまとめた産地の要望を踏まえて取組まれた。安全性に問題がなく登録が可能なものを適用拡大したもので、その数は延べ600件となっている。全農と農薬工業会では今回の緊急登録の内容を冊子にまとめ指導機関・JA等に配布しているのでご活用願いたい。また、農水省のホームページの「農薬コーナー」にも内容が公表されている。農薬を使用する際には常に最新の登録情報を確認しておく必要がある。
 今回緊急登録になったものは、(1)適用作物のグループ化による登録(2)作物分類の分割化による登録(3)基準設定を不要とする農薬の大分類による登録(4)非食用作物のグループ化による登録だ。
 (1)の「適用作物のグループ化」については、別表1のとおり形態的に残留性を近似する農作物がグループ化され、代表する試験成績が使用できる場合にはグループ化が採用されることとなった。しかし、作物群としての適用拡大がなければ、これまでどおり、ラベルに記載されている個別の作物にしか使用できないので注意しなければならない。
 (2)の「作物分類の分割化」については、近年の育種技術の発展、海外からの農作物の導入等による農作物の形態の多様化への対応として、農薬の作物残留性に基づいて別表2のとおり細分化がなされた。ここで注意することは、例えばミニトマトに登録がなければ従来トマトに登録のある農薬でもミニトマトには使用できない点だ。使用者は何が分離されているのか、また分離された作物に登録のある農薬はどれか、使用時期の変更はないか等を調べてから使用しなければならない。
 (3)の「基準設定を不要とする農薬の大分類」については、生物農薬や硫黄等のように、残留基準の設定を要しない農薬については、「野菜類」「果樹類」等の作物分類として登録することができるようになった。
 (4)の「非食用作物のグループ化」については、別表3のような作物分類としても登録することができるようになった。しかし花き類は、農薬使用による薬害が発生する場合があり、薬害の注意事項を付してあるものの、使用者において事前に薬害の有無を十分確認してから使用することを徹底したい。

◆適用拡大のための試験への取組み

 ―マイナー作物に対する今後の方向性は。

 宮崎 農水省では都道府県と連携を図り、登録に必要なデータ等の整備を支援し、マイナー作物の生産に必要な農薬の適用拡大登録の円滑化を図っていくこととしている。データ整備がおこなわれるまでの当分の間、安全な使用方法を都道府県が指導することを前提として、都道府県知事から要望された農薬と作物の組み合わせについて、農水大臣が承認する仕組みを「経過措置」として設けた。
 経過措置は県別に承認されているが、実際に使用できるのは産地ごとになる。県知事は当該農薬の使用方法の指導や残留農薬調査を行うことになっており、この安全確保措置の対象範囲となる農家に限定せざるをえないからだ。農家は、経過措置で県が定めた使用方法を必ず守らなければならない。
 この経過措置を申請した県では、農薬の適用拡大をすすめるために必要な作物残留試験、薬効・薬害試験を実施することとなっている。短期間に多くのデータを効率的に作成するには、データ作成の主体となる都道府県レベルでの体制の構築、地域ブロック内の調整を行うための地方農政局レベルでの体制構築、また中央段階では農水省・関係団体で構成するマイナー作物登録推進協議会がそれぞれ設置されている。
 また、本会は国の臨時予算措置により、1県1〜2件の試験課題で残留農薬分析経費を支援することに取組んでいる。この取組みの中で、各県から提出していただいた試験課題を見てわかったことは、防除剤が不足しているのはマイナー作物だけではなく、メジャー作物であっても特定の病害虫では使用できる薬剤が不足していること。また、分析しにくい薬剤については、分析経費が通常の分析の何倍もかかるものがあることだ。このような問題に直面すると農薬登録の難しさが実感として分かった。
 
◆安全防除運動と防除日誌の記帳

 ―これらの現況に対する全農の取組みは。

 宮崎 全農では、昭和46年から30年間余に亘って、農産物・農家・環境の3つの安全を守るために「安全防除運動」を展開している。主な取組みは以下の通り。
 「安全な農産物づくり」
 (1)全中の「生産履歴記帳運動」に基づき、JA・作物部会を通じて防除日誌の記帳を推進し、農薬の適正使用を徹底する。また啓発資材として毎年広報資材を作成し農家に配布している。(2)「安全防除宣言JA」(後述)をモデルとして、安全使用研修会・防除日誌記帳・残留農薬分析に取組む。(3)残留農薬の分析体制を拡充するとともに、簡易分析(イムノアッセイ)手法を確立し普及する。
 「環境保全型農業の推進」
 (1)フェロモン剤の技術確立と普及をはかる。(2)環境に配慮した技術(滴下マン等)の開発普及をすすめる。(3)臭化メチルの代替対策(ガスタード微粒剤等)を積極的にすすめる。
 「農薬の安全使用対策」
 (1)保護具(カッパ天国・マスク・手袋・メガネ)の着用を推進する。(2)農薬中毒の症状・治療法の情報収集と提供を行う。(3)空容器の適正処理マニュアルを作成し、適正処理を推進する。(4)種子消毒廃液の適正処理をすすめる。

◆安全防除宣言JAの取組み

 ―安全防除宣言JAを公募されていますね。

 宮崎 15年度は全国50JAの作物部会を公募している。その趣旨としては、JAが防除日誌記帳など農薬の適正使用を徹底し、全農は残留農薬を分析して、農作物の安全性を確認するという取組みである。現在も応募受付中であり、詳細については全農まで問合せして頂きたい(先着50JAで締切り)。
 登録JAの実施事項としては、(1)農家を対象とした安全防除研修会を実施し、運動の主旨を徹底する。(2)農家巡回を実施し、防除日誌記帳を推進する。(3)収穫始期〜盛期の農産物を全農へ送付する。(4)農産物の残留農薬分析結果が出たあと、防除日誌の点検結果など農家を対象とした研修会を実施し、次年度の取組みを深める。
 また、全農・経済連の実施事項としては、(1)JAが農家に対して実施する農薬安全使用研修会の支援をおこなう。(2)JAの防除暦作成の指導・助言を行う。(3)記帳された防除日誌のチェックをおこなう。(4)農産物の残留農薬分析を実施する(分析サンプル数は1JA当たり5サンプル)。
 なお、いままで取組んだJAの作物では、トレーサビリティ・システムである全農安心システムへ発展したものもある。農産物の一層の安全性が求められる昨今、運動に取組むJAの応募を歓迎している。

 ―ありがとうございました。 (2003.5.9)

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