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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

現地ルポ 1歩踏み出す先発JA
JA山形おきたま(山形県)
全国の大型JAと業務提携
従来の体制に風穴を

 大型合併JA山形おきたまの挑戦は非常に多面的だ。物流合理化では生産資材の支所在庫をなくし、代わりに設けた9カ所のグリーンセンターでは簡単な営農指導ができるようにし、安売り店との差別化を図った。また出荷先市場を130から一挙に17に絞って効率化した。一方、購買事業を次々に協同会社化し、小回りが利くようにした。さらには合併による遊休施設を活用してセブンイレブンとの提携によるコンビニ事業へと参入し、業績を挙げている。そして今、全国の大型JAとの事業提携を着々と進めている。

◆買うものは安く 売るものは高く

 全国には販売事業で200億円以上を扱うJAが41ある。大半は先進の広域合併JAだ。その販売高総額は約1兆6000万円。JA全農の販売シェアのざっと半分になる。そうした大型JA代表が昨年10月に山形で「200億円超JAサミット」を開いた。このサミット会議は、すでに11年前から各JAの持ち回り主催で開いている。
 そこでの議論の行き着く先は非常に単純で「合併JAの組合員は『買うものは安く、売るものは高く』と求めており、これにどう応えるかということだ」とJA山形おきたまの工藤誠司参事は説明する。
 このため各JAは様々な取り組みを展開中だ。しかし、それは価格競争となって、組合員との消耗戦の様相さえ帯びてくる。
 そこでサミットの議論では、単位JAの力には限界があるとし、そこからJAと連合会の間に目を向け、そこには競争原理が働いているのかどうかという疑問を投げかけた。
 また経済連と全農が合併したメリットが出ていないなどの実情も出し、その結果、系統の閉塞的なシステムに風穴を開けようという申し合わせになった。
 12月19日のサミット幹事会は、その具体策として協同組合間提携を協議した。サミット参加JAは中部から西日本に多い。特産品には例えばミカンやお茶がある。しかしリンゴなどは作れない。だが東北では、それらが特産だ。そこでJA同士の横の提携で、特産品などの直接取引をやろうというわけだ。これは全農を通さない流通となる。
 すでにJA山形おきたまは一定の品目で実施しているが、提携を全国的に広げる手法としては見本市のようなイベントを開催するかどうかなどを検討する。
 「産地間競争だけでよいのか。大規模JAとしては協調販売も大切だ」という意見も、おきたまの櫻井重恭副参事から出た。
 管内はブドウのデラウェアでは日本一の産地だが、やがて山梨や長野の産地とバッティングしそうだ。そこを組合間提携で生産や市場出荷の調整をし、有利販売を目ざしたいという。
 一方、管内のコメ集荷量は100万俵。ちょっとした県域や県連の集荷量よりも多い。JAは販促に時間とカネをかけ専従職員も配置している。産地間競争のしわ寄せだ。切実におコメの協調販売が求められる。リベート商法などを根絶するために…。
 このためサミットでは生産県と消費県のJAの相対取引で流通マージンを下げようとの提起があった。これも、おきたまは少量ながら、すでに実施している。ただ伝票が全農経由であるため余りメリットがない。そこで来年産からは計画外流通での販売を検討中だ。
 サミットの12月幹事会は、生産資材の低コスト化も協議した結果、大規模JAが集まって「協同仕入れ機構」をつくる申し合わせを再確認した。
 実現すれば、全農の購買事業に影響し、系統システムを壊しかねない試みとなる。しかし「協同組合主義は大事だ。系統を壊さないようにしたい。現場の苦しみを理解してもらう程度のレベルで従来型体制に風穴を開けるようにしたい」と工藤参事は説明する。
 JAが供給する園芸農産物の出荷用段ボールは、地域の個人業者よりも高いという批判が、全国的に出ている。そこで41JAが研究して、規格をすべて統一し、大量発注でコストを引き下げる方針だ。
 品目別には印刷を変えるくらいでよい、基本的には規格が統一できるという結論で具体化を検討中だ。
 おきたまは「6年前の合併後、資材コスト引き下げの合理化を進め、内部改革などで合併メリットを組合員に還元してきた」と鈴木雄蔵・資材部長は語る。
 さらに経済連と全農の統合によるメリットの上乗せが出るだろうと期待していたが、「20%下げ」の構想はあるものの、現実には目に見える効果は出ていない。協同仕入れ機構の設立申し合わせには、そうした背景が横たわっている。

◆数々の事業・組織改革を重ねる

 話をおきたま内部に限ると、数々の事業・組織改革を重ねた。振り返れば、購買事業では、物流合理化で生産資材の配送センターを2カ所に集約した。
 ここで組合員約3万人の受注をさばき、午前中の受注分は、その日の午後に配送し、午後の受注分は翌日午前中に届ける体制だ。
 合併前は3市5町にまたがる9総合JAと1専門JAに配送センターがあり、それに、各支所へ組合員が当用買いにきても、品ぞろえは少ないし、情報や商品知識にも乏しく、とてもディスカウント店に太刀打ちできない体制だった。管内には安売り店が多い。
 そこで支所の在庫をなくし、事務処理もやめ、その代わり行政区ごとに9カ所のグリーンセンターを設置し、簡単な営農指導もできるようにした。これで安売店との差別化を図った。
 こうして各支所での業務を省き、人手を浮かせて職員の再配置を可能にした。グリーンセンターでの販売価格も引き下げた。
 一方、販売事業では、合併後、ブドウの出荷先市場を130から一挙に17に集約した。市場側にとっては出荷打ち切りになってはセリが成り立たないし、目を向くような改革だった。
 その後は、情報をよこす市場が増え、また価格もキロ300円ほど上がった。
 これが生産者の励みになって、いいものを作ろうという意識が向上し、生産組織も一本化。こうして生産も組織も底上げされ、ロットの拡大で流通経費も下がった。こうした市場集約は他の品目にも広げている。
 一方、協同会社化も早かった。ガソリンスタンド、整備工場、Aコープ、葬祭センターなどと矢継ぎ早に協同会社化してJA本体から切り離した。本体で経営していると、例えば店のピーク時に職員が「今日は信用事業や共済事業の一斉推進だから」などといって不在だったり、専門知識の不足から、失敗なども起こしがちとなる。
 これは「総合事業の弱点だ」と工藤参事はいう。総合JAの強みはあるが「みんなでやろう」だけでは競争に勝てない。このため職員を本来の業務に専念させようと、おきたまは一斉推進を基本的にやらない。
 協同会社化のねらいは小回りを利かせて、有利な仕入れをすることにもある。

◆コンビニ事業へ参入し業績挙げる

JA山形おきたまが契約出店したセブンイレブン店舗
おきたまセブンイレブンの全景

 おきたまには、もっと大きな特徴がある。流通業界の雄「セブンイレブン」とと契約したコンビニ事業への参入だ。「これは合併による遊休施設の活用に迫られたからだ」と須藤彰・総務課長は説明する。
 今は1店だが、今年中には2店舗にする計画だ。セブンイレブン全国8000店のうちJA組織との契約はまだ、おきたまだけだ。
 ファミリーマートなど他のコンビニとの契約店は他県のJAにもある。セブンイレブンとしては置賜地域での出店第1号がJAとの契約店となった。
 JAのねらいは同チェーンにコメを納入したいという戦略があった。昨年産からは全国の同コンビニ店で販売するおにぎりや弁当に使用されるコメは山形産の「はえぬき」になった。
 「次に職員教育と、ネット取引など流通最先端のノウハウ吸収もねらった」と須藤課長は明かした。
 チェーンにはパートやバイトに接客業務を教育する先端的なノウハウがある。その点でJAとの違いをはっきり知りたいという。
 さらに、系統では信用、共済、全農とそれぞれにシステム投資をし、合計すれば2000億円くらいになる。だがセブンは約650億円で構築している。こうした違いはどこにあるのかという検証も目ざした。
 その結果、商系システムを目の当りにして内部改革をもっと進めなければという部分もかなり出てきた。商人的な、自分で店づくりをしようという考え方も出てきたという。確かにグリーンセンターの経営などにも、その影響が出てきた。
 農協が初めてセブンイレブンの店を開くというインパクトで、地域住民のJAに対するイメージチェンジを図るねらいもあった。
 契約前まで、セブン側は農協を行政組織以上に硬直した融通の効かない組織だとみていたようだ。しかし面接テストのくり返しの結果、おきたまの決断は早くて、機敏な判断をするなどの評価を得たらしい。
 ほかのJAでは、組織的にもたつき、コンビニチェーン参入の面接テストをパスできなかったところも、かなりあるのが現実だ。
 おきたまの第1号店は開店当初に1日680万円を売り上げた。これは、それまでの同チェーン店舗の売上げでは最高記録だった。
 昨年の毎月の売上げでも前年同月比で約10%増を続けている。今後の多店舗展開で4店ほどに増やせばJA本体の経常利益や剰余金を抜く可能性がある。
 連結決算になると「本体への戻しも大きい」と須藤課長の意気は高い。

◆JA出資の生産法人の立ち上げ

JA山形おきたまのJA出資法人による大豆刈り取り作業

 おきたまの挑戦は非常に多面的だ。6000ヘクタールにのぼる転作田で作る麦、大豆、トウモロコシなどを原料にした飼料工場を建設するプロジェクトも発足した。米沢牛の飼料を自給する構想だ。
 学校や病院、介護老人などへの給食センターをつくる新規事業計画もある。
 地域農業戦略では12年から6年間の「農業振興計画」がある。これにもとづき、昨年は「農業支援対策室」を設置した。JA離れの原因を究明して歯止めをかけ、意欲的な担い手と法人を支援する部署だ。
 支援対策はJAの各部門にわたる総合的な内容となるため各部門のスタッフなどで構成するプロジェクトも設置し、対策室の活動をサポートしている。
 そして昨年は2つのJA出資農業生産法人を立ち上げた。
 1つはJA出資85%、JA派遣役員2人の有限会社だ。「ジェイファームおぐに」という。
 中山間地の小国町は水田約1000ヘクタールの3分の1を24人の認定農業者で耕作している。しかし条件不利地が多いことなどから、これ以上の集積は困難だ。このため新会社が集積の調整に当たる。
 JAの農地保有合理化事業を活用するが、調整ができない場合は新会社自らが耕作をする。また会社経営の確立を図って転作地には収益性の高い山菜を作り、山間地の立地を生かす。将来は農業後継者の育成なども計画している。
 もう1つは農事組合法人「ドリームファクトリー」で、JA出資は40%、派遣役員は1人だ。平坦地の米沢市では水田での本作として大豆作付が300ヘクタールに及んでいるため、その半分を法人が担う。
 一方、既存の大規模農家と法人への支援も積極的に実施する。すでに大規模農家約120戸をピックアップして現状と課題、要求などを調査し、これをもとに施策を進めていく。


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