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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

現地ルポ 1歩踏み出す先発JA
JA甘楽富岡(群馬県)
多様な担い手が活性化の歯車回す
農業所得向上こそ第一

 JAが経営する地元農産物の直売所。新鮮な野菜が並んだその光景を見た大手量販店の担当者の頭に閃いたのは「これをそのまま都会のスーパーに持っていけないか」だった。群馬県の中山間地域にあるJA甘楽富岡が量販店に朝穫り野菜を届けるインショップ形態の直売事業のきっかけだという。今年で5年目を迎え店舗数も26に増えた。農産物販売額が100億円を突破するまでに地域農業を再建した同JAを、今回はインショップへの取り組みを中心にレポートする。

◆多様な担い手の代表は高齢者や女性

 営農事業本部のJAの出荷センター。午前7時15分になると、野菜を積んだ生産者の車が集まりはじめた。
 ネギ、白菜、ハウストマト、ナス、花、卵、いちご、キノコ類……。実に多彩な野菜や果物が生産者名が記された通い箱(コンテナ)から降ろされ、出荷先別に分けられたパレットに並べられていく。
 1点1点に、バーコード、商品名、価格、そして生産者名が印刷されたシールが貼ってある。
 JA甘楽富岡の朝穫り野菜販売のインショップは、県内3店舗のほか、西友の12店舗をはじめ、コープとうきょう、高島屋、東急ストアなど東京、千葉に合わせて26店舗になった。
 午前8時過ぎまでに荷物を積み終えたトラック8台が東京方面に向けて出発した。店舗に到着するのは、10時から11時半ごろだという。その日の朝収穫した群馬県の野菜が東京でお昼までに買うことができる。
朝の出荷風景。
多彩な農産物が午前中には東京に着く
 80アールの畑とハウスで野菜と種子生産を長い間続けてきたHさん。この日は白菜を出荷した。1個180円。
 「1年中仕事があって、連日連夜の忙しさ」と笑う。市場出荷では相手が値段をつけたが、「インショップ販売はある程度自分で値段を決めることができる。買い取りが原則だから安心感もあります」と話す。
 訪れたのは昨年12月。正月用にと生産してきた八つ頭の出荷時期や価格について生産者がJA職員に相談する光景もあった。生産者同士の会話もある。朝の出荷は情報交換の場にもなっているようだ。

 ☆危機進行を前に計画がスタート
 
 ここで改めてJA甘楽富岡の農業再生の戦略と、これまでの軌跡を整理しておこう。
 同JAの管内は標高945メートルの山岳地帯も含む中山間地域である。急峻な農地と山林が多い。
 長年、農業の基幹作物は養蚕とこんにゃくだった。1984年では地域の農産物販売額84億円のうち、この2品目が95%を占めた。
周年出荷する高齢者、
女性も増えた
 しかし、輸入自由化の影響で生産は減少し、一時、この2品目の販売額は6億円台にまで落ち込んだ。
 基幹農業が崩壊するなかで、働く場を求めて人口は流出し、農地の荒廃が進んだ。残されたのは、労働弱者としての転職できない中高年や女性たちであった。
 しかし、地域社会の危機の進行を前に、1994年のJA合併を機にして、県や市町村との合意のもと「農業による地域経済の再生」を軸にした地域づくり計画がスタートする。
 その農業振興計画は、多様な生産者が多様な販売チャネルによって所得を上げ、地域を活性化させようという戦略を持っていることに特徴があった。
 品目についても、条件が不利とされる中山間地域を逆に“標高差があるからバラエティーに富む農産物ができる”と捉え直した。
 実際、現在では100品目以上もの農産物がJAから出荷されるようになっている。
 多様な担い手の活用の代表例は技術力がさほどない高齢者や女性だ。農業に取り組んで所得を得るために、きちんと販売先を確保した。そのためにファーマーズマーケット「食彩館」をオープン。
JA本店の敷地内にある「食彩館」。
JAではプロ農家をめざす
トレーニングセンターと位置づけた
 しかも、そこで地元の人たちに販売できさえすればいいと考えるのではなく、さらに技術力を磨きプロ農家をめざすトレーニングセンターとして位置づけた。少量多品目での周年生産を実現する生産者も増えていった。
 一方、農業のプロ集団は、養蚕・こんにゃくに替わる周年野菜づくりを基幹とすることをめざし、販売も市場出荷だけでなく、量販店や生協との作付け面積予約による契約販売が実現できるところまでレベルアップをめざした。
 この2つの集団の中間に位置する生産者が、今回焦点を当てるインショップで販売する生産者ということになる。いわば、プロとアマの中間、セミプロ集団ということになる。「食彩館」への出荷でトレーニングを積んだうえでグループに参加できることになっている。

◆評価は産地へダイレクトに

 インショップの第1号店は東京・練馬区にある(株)西友の「リヴィン光が丘店」。1997年10月にオープンした。
 西友は、JA甘楽富岡と30年以上前から生シイタケの産直で取引きしてきた。そのため現地にバイヤーが商談に行くことも多かった。そのうち「食彩館をそのままうちの店舗になんとか持ってこれないか」とJA側に相談したことが実現のきっかけになったという。
 量販店として消費者に「価格」で訴えることは求められるが、一方で「鮮度」を含め質のいい食品で消費者を惹きつけることも求められていた。実際に同社の方針は、通常野菜の販売でも練馬区内の店舗なら練馬区内の野菜を、埼玉県内の店舗ならそこの地元のものをできるだけそろえ、鮮度のいいものを販売することにも取り組んできたという。
 「群馬県の朝穫り野菜が当日、店頭に並ぶ。そのメリットを最大限活かした青果売場をつくろうと考えました」と同社の野菜担当チーフバイヤー、大谷信一氏は語る。
 もっとも実現までの課題はいくつかあった。ひとつは、予約買い取りシステムである。
 買い取り販売は、冒頭で紹介した橋本さんが言うように、生産者にとっては確かに安心である。
 しかも、市場出荷と違って、大きさにも規格は設けず、JAでは「自分で買いたくないものを除き、できる限りいいものを出す」という緩やかな基準を示している。
 しかし、「最初は、品質のよくないものまで仕入れたのでは、との不安もありました。しかし、これは生産者との話し合いで信頼関係を築くしかないことでした」と大谷氏は話す。
 現在では、店の担当者の判断で、あまりに品質に問題があればその生産者に出荷の停止を申し出ることができるようになっている。シールに生産者名が記されているのだから、厳しいがダイレクトに名指しでの評価が産地にフィードバックされることになる。

◆売場の信頼高まりイメージアップに

生産者名を明記したシール。
この“名前”を頼りに購入する消費者も。
評価は生産者にダイレクトに

 もうひとつの課題は量だった。西友ではインショップのある店舗の担当者が1週間単位でJAに注文を出している。旬の野菜が売り物だが、消費者の求める量と供給量がかみ合わないこともしばしばだった。ただ、平均して供給不足のことが多く、過剰で売れ残るという点のギャップは少ないようだ。
 とくにスタート当初は、正月の出荷がなかった。そのため、その日にはインショップに品物がないという状態だったが、一昨年、運営委員会で正月も出荷することを決めたため、現在はその問題は解消された。生産者と販売側の意識のギャップも取り組みを進めるにつれて埋まってきた。
 さらに気になったのが、野菜の到着時間である。量販店の開店時間を考えると、午前10時から11時の到着で問題がないのだろうか。
 「実は、最初からこの点は私たちが求めなかったことです。必ず何時までに持ってきてください、という事業にしなければならなかったら、成立しなかったと思います」と大谷氏は語る。
 つまり、西友では、開店からしばらくの時間、JA甘楽富岡のコーナーは商品がない状態でもいいというわけである。
 その理由を「逆に、群馬の新鮮な野菜がただいま到着しました、と店にいるお客さんにアピールできる。つまり、到着時間に幅があることを販売促進策として捉え直せばいい問題だと考えたのです」。
 生産者との反省会に年に2回ほど出席し、消費者の動向を伝える努力もしてきた。
 おくらの花、はやとうりなど珍しい野菜が届くと、「初めて見た。調理法も教えてほしい」と消費者から声が上がることなども伝えている。それに応じて生産者のなかには、簡単なメモを商品に添えて出荷する人も出てきた。
 光が丘店の高橋秀夫青果マネジャーは「生産者の名前を指定して買い求めるお客さんが増えましたね。○○さんの野菜がないから今日は買わない(笑)なんてことも。青果売場全体の信頼度が高まり、イメージアップに確実になっています」という。
 西友では、甘楽富岡のコーナーの売上げは、青果売場全体の10〜15%を占めるという。ちなみに青果売場の品目別の売上では、たとえば、キノコ類の売上げは全体の8%〜12%だという。主要品目の売り上げに匹敵する実績を上げていることになる。「この取り組みは、私たちとJA甘楽富岡の30年にわたる集大成として、消費者には産地づくり、売場づくり全体をアピールしていきたいと考えています」と大谷氏は語っている。

◆都会で朝穫り野菜が珍しくない日も来る

 JA甘楽富岡のインショップ販売全体の売上げは、13年度は6億円の見込み。登録している生産者は300名に上る。ただし、周年で出荷しているのは80名程度。それらの生産者の販売額は、年間平均400万円ほどだが、13年度は2000万円に達する生産者もいるという。
 先にも触れたように店舗が拡大したためにオーダー通りに供給できず不足しがちなことが課題となっている。うれしい悲鳴ともいえるが、生産者への一層の参加も呼びかけるとともに「安定して出荷できる栽培体系、地域での生産分担の構築などが課題」と同JAの佐藤守・直販センターインショップ係長は話す。
 100を超える品目のそれぞれに生産者の名前が記されている。しかし、「都会で朝穫り野菜が珍しくなくなる日も来る」(佐藤係長)とも。そこを見据えて安定供給体制を作り、地域活性化を揺るぎないものにしていこうとしている。


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