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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

現地ルポ 1歩踏み出す先発JA
JAふくおか八女(福岡県)
リスクあっても動き出すとき
具体的な情報を掴む

 JAふくおか八女は、東京事務所を開設し直販事業を展開。消費側ニーズをリアルタイムに把握し、それに的確にきめ細かに応えるためにパッケージセンターもつくった。高級茶である八女茶では、全農安心システムの認証を受け、飲料茶「安心栽培緑茶」をつくり、「安心・安全」ニーズに応えた産地をアピール。武泉種大量生産する広域JAのマーケティング活動の先発事例といえる。

◆東京営業所開設で独自の直販事業開始

 福岡県南部、熊本・大分両県と県境を接し、矢部川下流の平坦部から標高5〜600メートルの中山間部まで変化に富んだ自然条件のなかにJAふくおか八女(福岡八女農業協同組合、牛島登組合長)はある。
 同JAは、平成8年に八女市・筑後市・立花町・広川町・星野村・上陽町・矢部村・黒木町の8つのJAが合併して誕生した全国でも屈指の大型JAだ。
 農業の特徴は、主力品目であるイチゴが星野村以外の全地域で、八女茶が全地域で、電照菊が星野村以外の全地域で生産されているように、平坦部から山間部までという地形を活かし、同じ品目でも長期間生産できることにある。また、合併前から各JAが農業振興に力をいれ各地の土壌を活かした特産品を生産してきた。とくにブドウ、お茶、ナシ、イチゴ、い草が「天皇杯」を受賞するなどその栽培技術は高く評価されている。
 こうした特徴を活かした販売事業は、イチゴ69億円強、荒茶41億円強、施設菊(電照菊)36億円弱、ブドウ24億円強、ミカン22億円弱、ナス16億円強、コメ15億円強などを中心にして、300億4200万円(12年度)。合併当初には325億円程度あったが、農産物価格の下落の影響によって金額は低下傾向にある。

 ☆マーケット情報がリアルタイムで
 
 合併について当初は「うまくいくのだろうか」という不安感があったが、「研究する中で理解が深まり、合併2年前くらいから、本格的に目標を定めて走り出した」と合併事務局を務めた水田親雄常務はふりかえる。とくに地元農業をどう振興するのか、販売をどうするのかについて関心が高かったという。
 当時、市場外流通や市場であっても予約相対取引が注目されていた。従来の系統共販による市場流通が崩れるとは思わないが、新しい流通形態についてキチンと情報をつかみ、的確に対応できるようにするために、販売の半分近くを依存する東京に事務所を設けて取組む必要性があると考え、合併構想にそのことを織り込んだ。
 そして合併直後の8年8月8日、東京営業所が開設されJA独自の直販事業が開始された。当初は「いままで来ていた量が少なくなる」と市場から文句をいわれたり、「系統共販を抜かして自分たちで売るとはどういうことなのか」などの意見があり、担当者は相当に苦労した。しかし、「多品目大量生産するJAにとって、いつでも受け入れてくれる市場を無視することはできない」と青果物販売金額の20%に目標を見直したりすることで落ち着いてきた。
 12年度には市場の動向や情報を得るために太田市場のJAふくおか購販連事務所内に東京事務所を開設し、市場そして市場外のマーケット情報がリアルタイムでJAに伝えられる体制を整え、13年11月には両事務所を統一し、現在、2名の職員が東京で活躍している。

 ☆ニーズに応えた具体的な提案が

 スタート当時は年間3億円程度だったが、全農と連携することで12年度は27億円にまで増え、JAの果樹・野菜販売高の15%を占めるまでになってきている。
 東京に事務所をもつと人件費や経費がかかるが「それくらいは稼いでくれていますよ」と水田常務。そして何よりも大きいのは情報の質が違うことだという。
 一般的な情報を集めるだけなら、系統組織や新聞などでも事足りるが、彼らが送ってくるのは取引先との営業活動や商談のなかで得られた○○生協は「どういう商品を、どれくらいの量目で、何円で欲しい」というように常に具体的だ。「単なる情報ではなく最終的な荷姿まで考えた、ものを売るという感覚で提案」されるので、消費サイドのニーズをより早く具体的に知ることができ「仕事としてやっていけるかどうか」を判断しやすいことが、大きいという。

 ☆センター開設で生産活動がさらに

イチゴのパッケージセンター

 そうした情報をもとにつくられたのが、イチゴのパッケージセンターだ。取材に訪れたときにはクリスマスケーキに添えるイチゴが5個ずつパッケージされていた。市場出荷は統一された規格で出荷されるが、ここでは取引先のニーズに合わせたパッケージ(パックのグラム数、ギフト仕様など)ができ、付加価値を付けて出荷できる。
 通常、生産者は収穫し、パック詰をしてから箱詰めして集荷場に出荷するが、センター利用者は収穫したイチゴをそのままセンターに出荷すればいいことになる。
 そのことで、JAとしてはさまざまな仕様による商品提案を消費サイドにできるようになった。
 そして生産者は、作業を軽減化できた余力を規模拡大につなげ、所得向上をはかることが可能になったり、高齢者は負担となるパック詰作業がなくなるため、生産活動の維持推進につながるという効果を生み出し、好評だ。

◆「安心・安全」提供し安定的販売をめざす

 全農安心システムで認証された「安心栽培緑茶」が昨年7月に全農直販から発売されたが、これも直販事業活動によって得られた大きな成果だ。
 お茶については後述するが、栽培履歴をすべて記帳し要望があればいつでもその情報を開示できるこのシステムは、BSE(牛海綿状脳症)問題の発生で食品の安全性に不安をもつ消費者に「安心・安全」を具体的に提供できるものであり、輸入農産物に対抗する有効な手段だとJAでは考えている。「これをやりきれば、3年後、5年後に産地較差が出る。価格が変わらなくても八女のものは安定的に売れるようにするためには、この考えで農業を構築する必要がある」と末崎照男農産部長は言い切る。
 JAでは他の品目にもこれを広げていくことを考えており、首都圏コープとイチゴで安心システムでの取組み準備を始めている。

◆生産法人と話し合い「連絡協議会」立上げ

 生産法人との関係は多くのJAで課題となっているが、同JA管内には茶関係を中心に22の法人組織がある。茶については、荒茶製造工場の設置・改修に数億円の資金が必要で個人では負担しきれないため、法人化による工場再編をJAも参加して進めるなどの取り組みを行ってきている。
 しかし、JAとしてもっと積極的に支援できることはないかということで、12年に茶関係法人を中心に「連絡協議会」を立ち上げた。これは「JAが大上段にふりかぶり、あれこれと一人よがりで考えるより、JAへの意見や要望を聞き、これはJAがやりましょうとか、それは一緒にやりましょうと、話し合いの場をつくり、協調して前進していきたい」。「従来は事業ごとに縦割りだった窓口を一本化する」ことで互いの関係を密にしていこうということだと水田常務。

◆輸入緑茶に対抗し生産者所得を守る

「環境にやさしい八女茶」を育てる茶畑

 「八女茶」は、栽培面積1500ヘクタール強、生産量(荒茶)2000トンと静岡や鹿児島に比べれば大きくはないが、全国一の生産量をもつ玉露や、かぶせ茶、高級煎茶を中心に良質茶産地として全国で高い評価を受けている。しかし、2番茶、3番茶など下級茶は輸入茶が急増しておりこれにどう対抗するかが課題となってきている。
 平成元年には2800トン程度だった輸入緑茶は、年々増加し12年には1万4327トンとなり、13年は10月までにこれを上回る1万4966トンが輸入されている。輸入緑茶がどのように流通しているのか詳細は不明だが、缶茶・ペットボトル茶の原料として使われるもの、国産下級茶とブレンドされ低価格茶として販売されるものなどが想定されている。
 「高級茶については、JAの茶業振興によって工場の集約化や規模拡大をすることで他産地に負けないものができる」が、「2番茶、3番茶は他産地と競合するし、価格が下がれば輸入茶との競合問題がでてくる」。こうした茶についてもJAが責任を持って販売していくにはどうしたらいいかと模索しているときに全農安心システムの話が全農直販からあり、「下級茶でも八女茶というブランド化をすることで、将来的に八女茶の発展につながる」と判断した。

◆本物を提供して味わってもらう

 お茶の場合には高級茶もとれるが、その後に摘む2番茶、3番茶まで含めてトータルで生産者の所得を考えなければならないから、こうしたお茶の販売までを含めてJAは考えなければならないということだ。
 お茶はかつて窒素肥料の過剰施肥が環境問題として問題化したことがあるが、八女では「環境にやさしい八女茶」をめざして年々窒素肥料の施肥量を減らすよう栽培基準を設定してきていた。現在の施肥量は10アール当たり55キロ程度で、もっとも多かった時期の半分以下になっている。また施肥方法としては、緩行性被覆肥料を使用することをすすめるなど、基準は厳しくなってきている。
 そのため、安心システム導入にあたっても「今までの基準どおりやっていけばよかった」と安心栽培緑茶の生産者・今福製茶協同組合長でJA茶業部会長でもある松延利博さんはいう。栽培履歴の記帳についても、従来から農業日誌をつけており特に問題はなかったと、システム導入はスムーズに進んだという。
 松延さんは「いま出ている飲料茶は本物のお茶でないものが多い。本物を提供し本物の味を味わってもらえる足がかりになれば」と参加した動機を語ってくれた。そして「消費者には安心して飲んでもらえるし、生産者は自信をもって出荷することができる」と安心システムを評価し、これからはこういう方向でいかなければいけないという。
 同じく安心栽培緑茶に参加した農事組合法人彩香代表の桐明靖広さんは「価格面などでプラスはないが、安心なお茶として八女茶の知名度をあげ浸透する」ことが大事だという。
 BSE問題で安全性に対する関心が高まるなかで、国産農産物の信頼を高めるのは「栽培履歴を明らかにするトレーサビリティしかないです」と松延昭一JA農産部グリーンファーム課長。そして、その信頼は、生産者とJAと全農直販がそれぞれの立場で「キチンとやり、信頼関係を構築」していくことだとも。
 「安心栽培緑茶」は昨年7月から西日本で販売されているが、これはいわばテスト期間で、今年春からは全国で本格的に展開される予定になっている。

 ☆具体的な行動で信頼が深まる
 
 合併して5年、生産部会の統一も終わり、JAは活性化し青果物や花きのJAへの集荷率は90%を超えている。JAへの結集率が高いのは、消費地の多様なニーズを的確に把握するために東京事務所を設け、その情報を生産者にフィードバックして消費サイドの要求に応える体制をつくってきたこと。将来にわたって産地・八女を発展させるために「全農安心システム」に代表されるトレーサビリティの思想をいち早く取り入れ、生産者を含めて意思統一が進んでいることがあげられる。
 昨年8月には、インターネットのプロバイダー事業も立ち上げた。収益はあがらないかもしれないが、各地域の情報や農業情報を提供することで、広域化し疎遠になりがちな組合員の相互理解を深めることが目的だ。
 水田常務は、リスクはあっても「いまは守ることではなく、動くこと、何かをするべきときだ」という。JAががんばっている姿を具体的に示すことで、組合員の信頼が深まるからだ。事実、JAふくおか八女では、購買事業も金融共済も合併以後、着実に伸びており、その言葉を裏付けている。


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