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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

ルポ 地域を変えたおんなたち
明日の豊かさにチャレンジ

年間100万点の商品創る「地物直売」コーナー


Aコープ松代店

 生産者の顔が見え、安心な国産農産物をという「地産地消」に期待する消費者が増えている。そうした消費者の期待に応えるのは、地域に密着した「農協の店」・Aコープだと、全国のAコープで地元野菜の直売コーナー設置など「地産地消」への取組みが活発になってきている。「地物直売」コーナーを看板に、地元消費者の圧倒的な支持を受けているAコープ松代店(長野市)を中心に、その実情をみてみた。

◆“地域起こし”で生産者を元気に

Aコープ松代店の外観

 朝10時、長野市郊外にあるAコープ松代店が「おはようございます」という放送と同時にオープンする。開店前から広い駐車場で待っていたお客が急ぎ足で店内に入り、入口近くの「地物直売」コーナーに向かう。1つひとつ生産者の名前・品名・値段が明示された商品を吟味し、これはと思えば籠に入れていく。まずこのコーナーを一回りしてから一般野菜売場や精肉、鮮魚などの売場へいくのが、お客さんたちの日課だ。
 同じような光景は、(株)エーコープ神奈川の中田店(横浜市)でも見られる。ここでは、JA横浜南中田支所の生産者の「穫れたて地場野菜」が直売され、近隣の人たちに人気だ。エーコープ神奈川では、各店舗の地元の生産者を組織して地場農産物の販売に力を入れることで「JAらしさ」を出し、差別化をはかってきている。昨年12月には、全国Aコープチェーンで取組んでいる「地産地消」運動の一環として、全店で全国に先駆けて「地産地消キャンペーン」を実施した。八木下一雄営業部長は「本当の地場野菜で、JAグループらしい商品と売場で消費者に地域密着型を訴えていきたい」という。
 いま全国の多くのAコープ店で、地場野菜を中心とした「地産地消」を進める動きが活発化している。自らも全農実践店舗のAコープ入間店店長時代に地場野菜コーナーを経験している指田和人全農生活部チェーン運営課長は、「ただ作るだけではなく、自分で作ったものに値段をつけて、自分で売れる場を作り、農業に生きがいを持ってもらうことで、地域の農業を振興し、生産者に元気になってもらう“地域起こし”です」。そして「いままでの農業は、作って、農協に出荷すれば終わりというイメージが強かったけれど、直売コーナーは多品種少量生産でも対応できるし、直接、消費者の反応が見えるので、消費者ニーズを知ることができ、勉強にもなる。そのことで、地域農業に非常に大きな影響を与える」と考えている。

◆農協らしさで差別化

 長野県Aコープ(全農長野県本部Aコープ事業部)では、県下41店舗で直売コーナーを設置し、12年度は12億円を販売した。そして「今年は13億円を超す見通し」だと内山哲雄同部生鮮グループチーフリーダー。中でもトップの実績を誇るのが松代店だ。
 松代店は11年11月9日にオープンした。その時すでに同規模の競合店が市内に13店舗あり、松代店は4店舗の食品スーパーに取り囲まれるような条件にあった。そしてJAの経営環境は厳しく生活関連事業に対する風当たりは強いので「半端な気持ちではできない」と春日勉店長は覚悟する。そして「西友などと同じやり方をしていては勝てない」。新鮮で美味しい農産物を提供する「農協らしい店に」するために「地物直売コーナー」を看板コーナーにすることを決める。幸いにも長野県Aコープには産地直売について20年の歴史とノウハウの蓄積があった。
 地元のJAグリーン長野も組合長を先頭にこれをバックアップ。組合長が各支所長と相談し、各地域で中心となる生産者を集めて主旨を説明。その生産者が地域に帰り協力者を募り「Aコープ松代店地物直売会」が組織された。「会」はキチンと規約を決め、役員を選任し100名程度でスタートしたが、現在は370名に拡大している。
 会員には3つのパターンがある。1つは専業小規模農家。2つ目は兼業で勤めていたが定年退職し年金プラスαの収入が欲しい人。3つ目がもっともパワーを発揮する女性たちだ。名義がご主人であっても実際に生産しているのは女性というケースも多く、商品を出している人の50%は女性だろうと春日店長。この3つのパターンの人たちは、農業に対する考えや技術、生活の仕方が違うから、値段のつけ方も違う。同じほうれん草でも100円の商品もあるし130円というものもある。ただし、量目は、ほうれん草は200g1パックというように品目別に決められている。市況や自分のいままでの売れ行き、消費者の評価を考えながら自分で値段を決めている。

◆生産者の自主的判断で生産

 ある程度は「こういうものを出して」と店が要望するが、ほとんどは生産者の自主的な判断で生産されている。だからといってキュウリの時期に、売場がキュウリだけになることはない。夏場のナスやキュウリの最盛期には、「趣味的につくっている人のものが出てくる」からとプロは収穫時期をずらして栽培し、この時期は他の野菜を生産する。また、一時に収穫せず、長期に収穫できるように栽培方法を工夫している。
 近くに農業試験場があり、その情報をもとに「下はアスパラで上はブロッコリー」という「スティックセニョール」などという新しい野菜を生産する人。カンレイシャをかけて虫が付かないようにし完全無農薬のキャベツを作る人。夕方になると割れてしまうほどの完熟トマトなど、市場には出ない野菜が並べられる。もともと生産技術のレベルは高かったが、直売で消費者の動向を直接知るようになってさらにレベルアップしたと内山さん。
 こうした工夫をするのは「売れている」からだ。どれくらい売れているか。
 直売の12年度売り上げは9770万円、今年度見通しは1億4〜5000億円だ。実際に1月14日現在で、昨年4月1日以降の実績は約1億2000万円・前年同期比146%、客数は25万人強・同123%。客単価477円、総買上点数82万5682点、客1人当たり点数3.3点、1点単価145円だ。
 総買上点数を営業日数で割ると1日平均3013点、3月末までには100万点を超えるだろう。いままで売られていなかった100万点の商品が作り出されてきたことに驚かされる。それだけ一般青果物売場が「食われるのでは」と心配する人もいる。だが、一般青果売場も昨年比104.35と伸びている。他の売場も伸び、全体で前年比108.84の実績と、相乗効果が発揮されている。そして、生産者の所得が増え、地域農業が活性化されているわけだ。
 野菜・果物に茸や山菜が出揃う秋のピーク時には、7000点・100万円という日もある。これだけの商品を店で用意するにはどれだけの人手がいるのか考えて欲しい。生産者が包装して店に持ち込むのだから店ではコストはかからない。
 生産者は日別・曜日別にどれくらい出すかを考えているが、雨天などには残ることもある。その時には店の判断で値段を下げ売切るようにしている。しかし土日のピーク時に売れ残るものは「はっきりいって商品ではない」と春日店長は厳しい。「ただ余ったからと商品ではないものを出せば売れない。消費者の目はすごくシビアです。消費者を騙すようなことをすると、その人のものはもう売れません。全部名前が入っているんですから」。品物が悪いと「ドンドン投書」がくる。その時は会役員を交え当人と話合う。悪質な場合には会から除名される決まりだ。

◆生産者と消費者が出会う「ステージ」

 全国のAコープチェーンでは、5〜6月、10〜11月に「地産地消キャンペーン」を実施することにしている。直売は安くて新鮮な地元の農産物を、地元の人の食卓にあげてもらうことで、生産者にも消費者にも喜んでもらうことだ。店はそのための「ステージだ」と春日店長。そのステージが成功するかどうかは、生産者・消費者そしてJAと店の信頼関係を築くことができるかどうかにかかっている。


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