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特集:21世紀の日本農業を拓くJAの挑戦

ルポ 地域を変えたおんなたち
明日の豊かさにチャレンジ

ばあちゃんから子供まで
いつでも誰でもぶらっと


新潟県・コミュニティー活動「地域のお茶の間」


◆誰でも気軽に集まれる所

上座(?)にはドーンと碁盤と将棋盤がある

 「ちょっと誰かと話をしたい」「ふっと人の温もりを感じたい」「大勢で食事をしたい」「ひとときでいい、介護から離れて出かけたい」−−だれでも気が向いた時間にふらっと立ち寄り、好きなことをしていられる空間。それが今、新潟県内で150カ所以上に広まったコミュニティー運動「地域のお茶の間」だ。
 各地で行われている元気老人対策のミニデイサービスに似ている。しかし、いわゆるミニデイが一定年齢以上のお年寄りを対象にしているのに対し、地域のお茶の間はお年寄りから子供まで、若い人も小学校の児童も、障害のある人もない人もみんなが気軽に集まれる場所だ。
 地域のお茶の間は97年、新潟市福祉公社「まごころヘルプ室」の河田珪子室長が個人で市内の山二ツで始めた。
 原則的に月1回。予約もいらない。気が向いたら来ればいい。ボランティアが運営する。「お世話する人とされる人」という関係を作らない。だからボランティアは決してエプロンをつけないのだという。なぜか。「世話する人ばかり生き生きしてしまうから」。だれもが主役であるために心にくいばかりのさりげない配慮が行き届いている。
 最初にお茶の間を始めた山二ツでは、「上座、下座」でもめた。だれも上座に座ろうとしない。一度座ったら場が硬直してしまう。まずいと思った河田さんは、翌月には上座にドーンと碁盤と将棋を並べた。もうだれも上座をうんぬんすることはなかった。ただ、碁や将棋をやりたい人だけがそこへ行くだけだ。

◆世話されるの居心地悪い

 万代シティバスセンタービル内の「地域のお茶の間」にお邪魔した。ここのお茶の間はショッピングセンターの中の多目的ホールを使用している。まごころヘルプ室と「人にやさしい街づくり」を掲げる万代シティ商工連合会商店街振興組合の青年部が開設している。運営はすべてボランティアが取り仕切る。
 ガラス張りの自動ドアが開く。名前だけ記帳して、すぐ人の和の中に溶け込んでいける。どこにもありそうな中規模な会議室が、見事にお茶の間に変身している。
 部屋の片側には、カーペットやこたつ敷きが二、三重に敷かれ、Pタイルからの冷気を遮断する。その上に置かれたこたつや座卓にはテーブルクロスがかけられ、卓上はミカンにお菓子、お茶が雑然と置かれている。麻雀にうち興じる人、碁を楽しむ人、子供とオセロをする人など落ちついた中で和やかな会話が弾む。
 真ん中にはいすとテーブル。座席の指定はない。自分の体の状況、好みでどこに座ってもだれと話をしていても構わない。まさに家庭のお茶の間の体だ。
 お茶代は200円、簡単なおにぎりとみそ汁をいただく方は500円。月1回、午前10時半から午後3時まで。この間ならだれが来てもいい。お茶も紙コップで出す。ボランティアの茶碗洗いの手間を惜しむからだ。「だれかに世話をしてもらうのって居心地が悪いじゃない」。河田さんがまた、微笑む。
 おばあちゃん、おじいちゃんに交じって小さな子供が飛び跳ねている。その子らをいとおしそうに追いかけているおじいちゃん。でも実の孫ではない。ちょっと買い物に出掛けた母親に代わって、子供と遊んでいるのだという。
 好き勝手に跳び回る子供を周囲が温かい眼差しで見守る。少しよろけようものなら、何本もの手が差し出される。
 赤間陽子さん(29)と渡辺ゆかりさん(29)は2歳前後の男の子を持つ、マタニティスイミング時代からの友人で、お茶の間の常連。この日も子供をここに預けて、20、30分で買い物を済ませてきたという。渡辺さんは「前に一時保育に預けたこともあるけれども、こっちの方がずっと安心」なのだという。保育所に預けようとすると、子供に泣き出されてしまった。「気にせず行ってくれといわれても…。ここだと、ちゃんと見てくれる人がいるし、保育所と違って、1対1以上の目が行き届いている。私自身が買い物に出かけるのも、子供の様子を見ながら抜けられる」と気取りがない茶の間の大ファンだ。

◆自分たちの茶の間だ

子供も安心して遊ぶ気取りのない茶の間

 子守り役をかって出ている長嶋繁さん(74)には孫はいない。でもどんな子でもなついてしまうのが自慢だ。
 雪松正子さん(55)は市内の別のお茶の間、山二ツを最初から手伝っている。痴呆の進んだ実母を介護している雪松さんは茶の間に救われたという。お茶の間には夫婦そろっておばあちゃんを連れてくる。月に一度、おばあちゃんから開放される。何よりみんなから声をかけられてニコニコしている母の顔を見るのがうれしい。夫は女性陣に囲まれて華やかな笑い声の中にいる。
 「お茶の間に来ると母とけんかしてしまうんです」。雪松さんが嬉しそうに話してくれた。「ほかの人にはどんどん旅行に行きなさいとか、理解のあることをいうんですけれど、私はそんな言葉かけてもらったことがなくて」。「それでいいのよ」と河田さんが微笑む。雪松さんの顔が、介護する側ではなく、母に甘える娘の顔に戻っているからだ。
 3時になる。残っていた30人もの人が一斉に片付けを始める。茶の間はあっという間にガランとした会議室に戻る。こたつ布団やテーブルかけ、遊具など全部合わせると、バンの後がいっぱいになる量の「引っ越し」だ。
 その日集まった人は100人近く。その全員が「自分たちの茶の間だ」と誇らしげに話してくれたのが印象的だった。
 子育て中の人などから、毎月といわず毎週開いてほしいという声もある。しかし「月1回くらいだからボランティアでできる。無理をしないことが大事」というのが河田さんのポリシーだ。
 新潟県内のJAでもこうした茶の間に取り組んでいるところが増えている。JA北越後の新発田市米倉でも毎月1回「地域のお茶の間」が開かれる。こちらは食事を出す関係で75歳以上限定。元々、地域活動の活発なところで、ゲートボールなどで週に3日は顔を合わすメンバーだが、みんなで会食するお茶の間は何よりの楽しみだという。

◆JAでも増える取り組み

 84歳になる助産婦の下妻文子さんは毎回みなの血圧を測る。健康管理になると好評だ。
 ここでは石木公子さん(55)が声をかけ、肥田野シヅさん(74)、下妻トイさん(68)、斎藤ひささん(73)、大倉アイさん(71)がボランティアで手作りの食事を出している。2000年の4月から始めた。
 石木さんはいう。「JAの助け合い組織活動をしている。JA全体で年一回のお楽しみ会をしても、なかなか集まってもらえないので、地域のお茶の間はどうか、と始めた。こっちの方は一集落なのにずっと集まりがいい」と感嘆する。
 人とのふれあいのありがたさ、来る人同士の思いやりが、地域のお茶の間運動の魅力だからだろう。このお茶の間は年齢制限があるなど、本来、河田さんがいう「地域のお茶の間」と少し違うかもしれない。メンバーはもっと男性にも参加してもらいたいという。幅広い人たちが気安く寄れる場作りが一つの課題かもしれない。
 帰りがけに民謡をならっているというグループが佐渡おけさを歌ってくださった。おばあちゃんたちの意外なほど澄んだ歌声が心に染みた。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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