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特集:21世紀 食料・農業・農村を拓く女性たち
――JA全国女性協創立50周年記念


農とおんなと協同組合 男女共同参画時代へ


大金義昭 (社)家の光協会編集局長

 “メダマのまっちゃん”ことJA全中・営農対策室のMさんの「大金さん、ことしも“酒と女と協同組合”でっか!?」という軽妙このうえない年(とし)の初めのユーモアのセンスに脱毛(・・)!ならぬ脱帽し、仰せのとおりの表題とさせていただきました。年(ねん)に1度の連載7回目……JA全国女性協創立50周年、本当におめでとうございます。

◆田園・生活を巨(おお)きな第4次元の芸術に

(おおがね よしあき)昭和20年8月生まれ。栃木県出身。早稲田大学法学部卒業。月刊誌『家の光』『地上』編集部、文化センターふれあい課、総合企画局事業開発室などを経て文化センター局長から現職に。この間、JA全中に2年間出向。主な著書に『野男のフォークロア−−極北の歌人・時田則雄と農をめぐる世界』(砂子屋書房)、『おんなたちのルネサンス』(富民協会)、『農とおんなと協同組合』(全国協同出版)などがあり、現在「おんなたちのルネサンスPART2」を『文化連情報』(日本文化厚生連)に連載中。「人づくり・組織づくり・地域づくり」などのテーマで、JAやJA青年・女性組織、地方自治体などに出講350回余。

 昨年秋、岩手県JAいわい東・東山中央支所長の山崎司朗さんから、次のような便りをいただきました。

  先日、盛岡へ出張した折りに、その会場で「漢詩に遊ぶ」奥瀬素玄(おくせそげん)作品展を見ました。書に全く縁がない自分にも、何かが伝わってくる作品に出会い、感動しています。
  その作品のなかに、賢治のあの有名な「まずもろともにかがやく宇宙の微塵(みじん)となりて無方の空にちらばろう」がありました。書に心得のある人が見れば、もっと理解が深まったのではないかと思いますが、小生も「書いてみるべが」と、左手で書いてみました。
  上手下手より、書く楽しみがふえました。
  『農とおんなと協同組合』(全国協同出版)を読ませていただきました。とてもすばらしい本が出来たと喜んでおります。そのなかで、大牟羅良さんの『ものいわぬ農民』(岩波新書)から引用されていた内容ですが、実は私も30年前に、大牟羅さんの講演を聞きました。「一番こまるのは、早ぐ、女(おなご)でなぐなってほしい」という農家の嫁さんの言葉だったそうです。
  夜、何もすることがないから、すぐハラんで(妊娠して)すまう。早ぐ女(おなご)を終わりたい、というものでした。20代のころに聞いた話ですが、やりきれない気持ちでした。
  草野比佐男さんの「村の女は眠れない」−−この詩を読むたびに、東北農村の貧しさが、そして人間という生(い)き物(もの)の原点を見る思いがします。いつの時代の人間も、人間の強さを表現しています。実に人間とはすばらしい生物であると感じています。
  この世のこの時代に生まれたことに感謝しているこの頃です。
 
 便りには、山崎さんの四方八方に躍(おど)るような書と素玄さんの書のコピーが添えられていました。
 山崎さんとの出会いは、4〜5年前に遡(さかのぼ)ります。宮澤賢治生誕100年の記念行事が岩手県で行われていた年に、ゆかりの花巻市や東山町を巡る有志のミニ・ツアーに参加、賢治が嘱託技師を務めた東北砕石工場などを案内してもらった時のことです。賢治命名の「炭酸石灰」を産出した砕石工場は東山町にあり、石灰岩の粉塵に埋もれ閉ざされたままの古い工場やその地下坑道を見学。町(まち)役場の裏山の中腹に佇(た)つ、賢治のあの言葉が刻まれた大きな石碑などとも対面。その石碑は、戦後の町の復興を願う青年たちによって担(かつ)ぎ上げられ、建立されたと聞かされました。
 山崎さんの便りから、賢治ワールドがふたたび蘇(よみがえ)り、今年の賀状にはあの言葉を拝借。すなわち「まずもろともにかがやく宇宙の微塵(みじん)となりて無方の空にちらばろう」をしたためた次第です。この言葉は、「農民芸術概論綱要」のなかにあります。農民芸術の「綜合(そうごう)」の項に次のくだりがあって、そのあとに続けられています。

  ……おお朋(とも)だちよ いっしょに正しい力を併せ われらのすべての田園とわれらのすべての生活を一つの巨(おお)きな第四次元の芸術に創りあげようではないか……
 
 賢治が農民の営農と生活や文化に何を託そうとしたのか、この作品はともあれ、賢治が30歳になる春、花巻農学校の退職に先立って担当した公開講座から生まれています。大正15・昭和元(1926)年のことでした。

◆広域JA時代のコミュニケーション・ツール

『家の光』最新号(右)と創刊号(左)

 その年の『家の光』には、次のような読者投稿作品が掲載されています。

 繭賣りて得たる錢かも嬉しくて數へては見つ暗き灯
(長野県 中澤苳衣)

 
 創刊されて間もない『家の光』は、その前途を危ぶまれながら、間もなくニューヨーク株式市場の大暴落に端を発した生糸相場の下落を引き金とする昭和恐慌に巻き込まれていきます。中澤さんたちの暮らしは、その後どうなったのでしょうか。
 『家の光』は「産組振興刷新運動の一環を担う組合員の教育資材」として、共存同栄の精神を普及する“通俗家庭雑誌”の道を歩み、「産組拡充五か年計画」による大普及運動に支えられ、たちまちにして100万部を達成。その後も戦中期までに150万部を臨む勢いを示しました。
 90年代不況を構造的に抱え込み、デフレ・スパイラルの様相を呈している現在と、当時の状況とがどこかで酷似しているように思えるのは、わたしひとりでしょうか。
 去る9月のニューヨーク・テロ事件以来、世界は“新しい戦争の時代”を迎えたともいわれています。国内では食料・農業・農村基本法のもと、BSEやセーフガード、水田農業対策あるいはWTO交渉などをめぐる難題を抱え、ペイオフ解禁等へ向けたJA改革2法の施行と相まって、広域合併を前提に組織・事業の整備が喫緊の課題となっています。
 新世紀の開幕早々、時代の激流に呑み込まれたJAは、協同組合の求心力をどのように再構築していけばよいのでしょうか。戦後半世紀の歴史的な全体験を賭け、根本から問われているこれが焦眉のテーマです。
 『家の光』は、そうした状況に命懸けで立ち向かい、創刊の精神に立ち返って、広域JA時代のコミュニケーション・ツールたろうと誌面の刷新に取り組み、近刊の12月号からその端緒を切り拓きました。JAグループが普及・活用する「協同組合の家庭雑誌」として、その役割と機能を明確に担い、いのちと暮らしと文化の多様性を尊重して実利・実益に富み、読んでおもしろい「食と農と協同」の“お茶の間ワイド版”として、いっそうの磨(みが)きをかけなければ、と決意を新たにしています。
 平成14年度はこのために「人が元気・組織が元気・地域が元気」キャンペーンを掲げ、愛読者の皆さんをはじめとするJAグループの皆さんとともに、全国各地で“元気スパイラル”の風を起こそうと考えています。
 かえりみれば戦後の『家の光』は、小農保護政策のもと、新しく出発したJAおよびJA女性・青年組織などの強力で広汎な支持を得て、たちまち100万部台を回復。昭和30年代半ばのピーク時には、180万部に迫る勢いを示しましたが、その後の急激な農業の後退・農村の変貌とともに、現在は100万部を割り込み、苦戦を強いられています。
 でも、ピンチはチャンス。変化とリスクに富む時代は、チャレンジ精神で切り拓くチャンスの時代です。「道に迷ったら、元の道に戻れ」とは、先人たちが残してくれた金言でした。

◆貧しくとも心豊かに生きた時代

 JA全国女性協の前身がスタートした昭和26(1951)年当時の『家の光』には、次のような作品が読者から寄せられています。
 
     まこと
 
 みにくい事はすまいと思う
 富をうらやみ
 権勢(けんせい)にこびる時代(じだい)はすぎた
 人を怨まず世にそむかず謙遜(けんそん)に
 たゞ己にりっぱであろうと思う
 人の世は
 まことあるものすべてがとり残された
 真実(しんじつ)を歩む者の何と小さな足跡(そくせき)
 でも私は自分をあざむきはすまい
 謙遜(けんそん)に
 たゞ己にりっぱであろうと思う。
(埼玉県 鈴木美津子)

 
 この作品には、貧しくとも心豊かに生きていこうと決意したこの国の人たちの戦後の清新な気分が横溢しています。首都・東京では、都心の焼け跡に野菜畑が広がり、上野の不忍池(しのばずのいけ)などが田んぼに姿を変えていたひところから、間もないころのことです。
 
 戦死せる兄の齢(よはひ)をわが越(こ)しぬ百姓を継(つ)ぎて六年(むとせ)経(へ)につゝ
(群馬県 野口瑞穂)
 

映画「荷車の歌」の上映風景

 といった作品も見かけられ、戦死者の無念に胸を焦(こ)がす人たちが多数存在していました。戦争で負(お)うた心の傷は癒(い)えがたく、近年の『家の光』にもその種の作品がいまだにあとを絶たず、反戦・平和のたいせつさを教えてくれます。
 さて、JA全国女性協の団結の歴史のなかで、戦後の一大(いちだい)金字塔は、なんといっても320万人の部員が心をひとつにして取り組んだ、あの映画『荷車の歌』自主製作特別運動でした。昨年暮れには、中井かをりさんが会長を務めるJA富山県女性組織協議会の研修会で、この映画が上映されています。先年に続く2度目の上映で、参加者の皆さんは明治・大正・昭和の3代を生きた主人公・セキの艱難(かんなん)辛苦(しんく)の人生や、この映画を作りあげた先人たちの高い志に胸を打たれ、明日を切り拓く大きな力を得ています。まさに「ふり返れば未来」といった活動です。

◆パワフルでハートフルな女性たち

天井の高い店内はゆったりした雰囲気
(母ちゃんハウスだぁすこ)

 作家として活躍する佐藤愛子さんの近著『不運は面白い 幸福は退屈だ−−人間についての断章327』(海竜社)に、次のような刺激的なメッセージがあります。
 
  −−女はもう十分に強い。ますます強くなるだろう。弱さを武器にして戦いをいどむのはもうやめよう。そろそろもう女性は強さよりも「大きくなる」ことを志向する時が来ているのではないだろうか。
 
 女性たちが十分に強くなったかどうか、異論もあるでしょうが、冒頭の山崎さんの便りに登場する戦後の女性たちの実態に比べれば、女性たちの今日の地位との間には雲泥の隔(へだ)たりがあります。女性たちは、しっかり強くなりました。この国の食料・農業・農村の現在や未来はいまや、パワフルでハートフルな女性たちの存在なしに考えられません。
 JAもまた然(しか)り。男女共同参画社会基本法の施行に伴って、正組合員加入や総代・役員会などへの参加・参画などに具体的な数値目標を掲げています。昨今、JAの女性理事などは、全国ですでに200人に迫る勢いで、その数はさらにふえていくはずですし、ふやしていかなければなりません。時代の潮流は大きなうねりとなって、今昔(こんじゃく)の感を抱かせるものがあります。
 農村の女性起業も平成13年1月現在で、7000件に近づき、例えば北見満智子さんが神奈川県横浜市内で営む「有限会社 ハム工房まいおか」などのように、経営を法人化する事例も徐々にふえてきました。農業委員などの女性の数も、年毎にふえています。
 地産地消に取り組む岩手県JAいわて花巻の「母ちゃんハウスだぁすこ」のようなファーマーズ・マーケットや、高知県JA南国市女性部が運営する「かざぐるま市」のような直売市、あるいはAコープの店舗展開、循環型農業、グリーンツーリズム、介護・福祉・たすけあいなどの世界でも、女性たちが主役となって輝くように躍り出ています。
 雪印乳業の食中毒事件では、会社の再建に参画を求めて一人100株購入運動を呼びかけ、農村女性たちの株主を誕生させた福井県三国町の畜産農家・山崎洋子さんたちの活動も生まれています。これは、戦前・戦後を通じた農村女性たちの歩みのなかでも画期的な取り組みです。市町村議会への女性の進出も、次第に目だつようになりました。
 女性たちはますます強く、そして佐藤愛子さんが唱えるように「大きくなる」ことを志向しはじめています。

◆男女共同参画でJAの求心力を再構築

 昭和60年代以降の『家の光』にも、次のような作品が読者から寄せられるようになりました。

 颯爽と社交ダンスに身を反らす昨日の野良着の嫁とは見えず
(茨城県 染野光子)

 山が好き田舎が好きと言ひくるる
 長男の嫁に定まりたる娘(こ)よ
(愛媛県 日野笑子)

 晴耕と雨カラオケで嫁元気
(愛知県 水野幸治)

 恋愛の嫁颯爽とコンバイン
(徳島県 鎌田 完)

 山里に奇蹟起りて直売店に林檎(りんご)買う客潮(うしお)の如し
(岩手県 山田長耕)

 
 最後の作品などからは、直売店を?剌(はつらつ)と切り回す女性や高齢者たちの姿が目に鮮やかに浮かんできます。JAが、行動力溢れるこうしたたくましいエネルギーを地域から掘り起こし、大きく育てていくためにも、男女共同参画は不可欠の“方策”です。
 昨年暮れにJA全国女性協やJA全中によってとりまとめられた『新たな飛躍をめざして−−JA女性組織活性化検討委員会報告書』は、そのために重要な課題を提起しています。JA女性組織をJAの組合員組織として明確に位置づけ、市町村を単位とするJA支所を活動の拠点としながら、男女共同参画を確実に実現していこう、と呼びかけています。
 女性のハートをつかむことのできない組織や団体・企業などの斜陽化は、火を見るよりも明らかです。JAは男女共同参画を率先して実現し、変革の時代のリーダーとなるべきです。チェンジ・リーダーの第一条件は、P・F・ドラッカーの言葉をかみくだけば、旧来の「やり方」を体系的に変えよ、ということでした。「やり方」はしかも、やっていることそのものよりも早く陳腐化する、というのです。
 男女共同参画は、JAの新しい「やり方」そのものです。その「やり方」に十分対応できる女性たち自身の自力や実力も問われるのですが、ここでは佐藤愛子さんの前著に収められている次の言葉を紹介しておきましょう。

  女にサービスすることを知っている男は、何らかの点ですぐれた個性を発揮している人たちであり、心の余裕を持っている人たちである。
 
 男性の一員として、忸怩(じくじ)たる思いがつのります。
 
〈参考〉『宮沢賢治万華鏡』(天沢退二郎編・新潮文庫)など。


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