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特集:農業・農村に“新風を送る”JAをめざして

元気の風

今こそ協同組合が食と農をつなぐ時機
―21世紀のJAと地域社会を考える―〈下〉

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出席者
中嶋 拡子氏(千葉県生協連元会長)
工藤 誠司氏(JA山形おきたま参事)
波多腰芳弘氏(JA松本ハイランド代表理事専務理事)
内田 正二氏(JAいずも代表理事常務)
桜井  勇氏((社)地域社会計画センター常務理事)


 座談会「21世紀のJAと地域社会を考える」(上)では、農産物の生産のあり方、流通システムについてJAや生協などが協同で新たな姿をつくるべきことが話し合われた。
 議論のなかで、千葉県生協連元会長の中嶋拡子氏は、農産物の加工に力を入れるべきだと提言。前回掲載分では、野菜の水煮や冷凍など「第一次加工素材」に着目すべきだと指摘し、そのことでゴミも減らせるなどJAらしい事業になると語った。
 今回は消費者に高まる農への関心にJAがどう応えるべきかなど、協同組合の意義、役割について議論している。

中嶋 拡子氏

なかじま・ひろこ
昭和3年東京生まれ。36年登戸生協・43年専務理事、50年千葉県生協連専務理事、60年会長理事、平成元年顧問、現在千葉県畜産会・非常勤コンサルタント、千葉県環境衛生分野調整事業協議会委員。著書に『いのちの糧に なにを求めるか』(家の光)など。

 中嶋 つまり、加工といっても第一次加工した素材を提供するというふうに考えていただいたほうが現実的だと思いますね。第一次加工してあれば、割合手軽に自分の味付けが楽しめますから、もう一回調理が復活することにもなると思います。
 この問題を食文化の後退と捉えないで、新たな前進として、加工素材もなるべく多品目にすることを考えていけばいいと思います。

 内田 私たちのJAの店舗でも惣菜部門の売り上げがどんどん伸びていますね。組合員や地域の住民のみなさんがそれだけ求めているということですから、JAとしてこれからの考え方をしっかりさせておかなくてはいけないと思います。安ければ買うという時代ではなく、安心とか、正直に生産されているというものであれば、少しは高くても買うということだと思いますから、加工品にしてもどういう農産物を使うのかといったことをきちんと考える必要があると思いますね。

 中嶋 利便性というと、すごく悪い意味で捉えられていますが、利便性だって十分なニーズなんです。産地や生産者が分かっている地元の里芋が冷凍してあって、ゴミも出ないし自分なりの味付けもできるというのは、農協や生協らしい事業だと思うんですね。
 私は生協で筍の水煮を買っていますが、みんな中国産ですよ。千葉県なんか竹がはびこって困っているというのに、筍を商品化しようとしない。たとえば、高齢者に筍を取ってきてもらって、それを農協が水煮にして真空パックにすれば一年間、素材として販売できる。こういう発想をすれば農協としても展望の持てる分野がもっとできてくると思います。
 それに山間地の高齢者でも彼らの条件に合わせれば無理なく働いてもらうことができる。参加型の協同というのはみんなで寄ってたかって盛り上げていくことで、農協や生協はその仕組みを提供したり、道筋を着けるのが組織の仕事じゃないかと思います。

◆高まる「農」への関心知ってもらう取組を

 桜井 消費者に軸足を置いた農政への転換が言われていますが、同時に農への関心の高まりということもあります。市民農園などで非農家のみなさんにより農業を知ってもらうということが大事になるわけですが、その点での取り組みについてお話いただけますか。

◆新規の就農者公募に26件も

波多腰 芳弘氏

はたこし・よしひろ
昭和15年長野県生まれ。長野県園芸試験場(現農業大学校)卒。平成2年松本平農協地域開発次長、11年松本ハイランド農協金融部長、12年同副参事兼金融部長、12年同参事、14年同代表理事専務。

 波多腰 現場の実態は専業農家ですら農地が余っているといいますか維持できないということがあります。その流動化も必要ですが、新しい試みとして組合員ということにこだわらず、農業を新しく取り組みたいという人には農業をやらせる機会をJAがつくるべきではないかということで、行政と一体となって新規就農者育成事業というのを始めたんです。
 これは地区内外を問わず広く公募して、夫婦でもいいし、単身でもいいんですが、取り組みたい品目を選んで、3年間、JAが機械装備の支援や技術援助もし、栽培ノウハウを教えて、理想は自立した農業者を育てたいということです。
 それで一般公募しましたら、6家族の枠に26件の応募がありました。私たちも面接したんですが、まったく今まで農業をやっていない人の発想というのは私たちでは考えられないようなこともありますが、とにかく意欲は高かったです。非常に関心が高くて今年もまた募集します。農業をまったくやったことがない人が土になじみたいという気持ちは強いようですね。
 それともうひとつは、定年で会社を退職した人たちの農業に対する関心も高いことです。それで熟年農業者大学をやっていますが、非常に関心が高いです。
 ですから、そういう人たちの支援をしていきたいと思いますし、今後は農地つき分譲住宅も実施できるようになればより多くの人が農業への関心が高まることになると感じています。

◆定年帰農進むパワーは凄い

工藤 誠司氏

くどう・せいし
昭和30年山形県生まれ。51年米沢市農協入組、平成2年上郷支店長、4年合併事務局出向(参事付部長)、6年山形おきたま農協に合併・総務部長、8年山形おきたま農協金融部長、10年同参事。

 工藤 農業を取り巻く問題を光と陰に分けるとすると、この問題は間違いなく光の部分だと思います。農村でも昔のような土地に対する執着は少なくなっていますし、あるいは不況の影響もあって農業が見直されている面もあるかもしれませんが、確実に価値観の変化もあります。この光の部分をどうわれわれが取り込んでいくかですね。
 私の地域でも定年帰農はたしかに進んでおり、そういう人たちのパワーにはすごいものがある。その役目は大事にすべきだと思いますね。
 法人や大規模農家が、10ヘクタール程度の田んぼのなかで、ただ一人で農作業するくらいわびしいことはないです。水管理や草刈りなどの軽作業は、やはり高齢者のほうがずっと慣れているし、そういう仕事をする人までも大規模化と称して隅に追いやるのはいかがなものかと思いますね。
 高齢者には何も農業の最前線に立ってもらうのではなく、少なくなった若年農業者たちの精神的支えになってもらう面もある。若い人もそれを望んでいますから、今後は新規就農者対策とともに高齢者層へのバックアップも力を入れなくてはいけない問題だと思っています。

◆農地流動化でマップ化へ

 内田 私たちの地域では、農地の流動化について、行政と一緒になってマップ化に取り組んでいます。そのマップに基づいて作るべき作物の検討や、農地の集約化を考えるということですね。その実態をみると集落営農は進めていきながら、将来は農業法人化する方向に進めていかないと地域農業は維持できないと思っています。
 そこで、新規就農対策ですが、私は、毎年、JAが採用する若者から3人なり5人なり、本人の意向で農業をやりたければ研修を受けてもらう仕組みもできないかと考えています。そうすると毎年、4、5名の農業後継者が育っていくわけですね。
 今の若い人たちは農業に対する価値観も変わってきていて、若い人たちが中心の集落営農組織などを見ていると、みな我先にと機械に乗り込んで仕事する。気持ちが変わってきていると思います。
 ですから、今までとは違って、農業で食える、生活ができるということになっていかないとだめですね。
 たとえば、ブドウの栽培では10アール60本のウイルスフリー苗の植え付けを推奨しています。これは密植栽培で、2年めにもうブドウをならせるわけです。そして1トンぐらいできるとそこそこの収益が出てくる。その後、60本植えでは2トンは収穫があるようになる。こういう進んでいる技術を活用して今までのやり方を根本から見直すことも必要ですね。

◆逆風を順風に変える
  協同組合の意義見直して

内田 正二氏

うちだ・まさつぐ
昭和15年島根県生まれ。島根協同組合学校卒。41年出雲市農協入組、51年総務部人事課長、60年生産部長、平成4年参事兼企画管理部長、8年いずも農協(合併)同年参事兼総務部長、12年代表理事常務。

 桜井 最後に今後行政の場でも議論されるJA改革の問題も含めた、今後のJAのあり方について総括的なまとめをみなさんからお願いします。

 工藤 JA改革の議論で問題なのは、合併したJAが生き残りをかけてすべての事業を展開して他業態が入れない、だから、解体しろ、という捉え方です。これはまったくの間違いであることを強調したいですね。
 実際、経済合理性を追求する分野では徹底的にやらなくてはいけないわけですが、一方、集落というのは地域のそしてJAの生命線であるということは分かり切ったことです。それは各JAとも程度の差はあれ小集団か、支店レベルでそこをいかに活性化するかということを重視して事業を展開していると思います。
 さらにはわれわれ職員は地域のコーディネーターとして営農指導を中心に取り組まなければいけないと思っていますが、その体制をつくって成功している支店もあります。
 経営問題では組合員の高齢化や農協からの脱退などの問題もありますが、将来を考えた対応を精一杯やっていかなくてはなりません。ところが、いかんせんこの経済の低迷が農協への出資金まで及んでいることすらあります。家族がリストラにあって借金の返済に出資金を充てなくてはならないなど、厳しい現実が農村にあります。
 こういう状況では、私は協同組合原則のみを金科玉条にしていたのではいろんな問題は解決し得ないと思っています。協同組合は大事ですが、今の農村の不況なり、個人の経済的苦境をいかに乗り切るかということです。農業を中心に生活を営むことには変わりはありませんが、JAとして打てる手は何でも打たなくてはならないわけです。
 にもかかわらず、前大臣が農協を問題視し解体すべきなどと発言を繰り返したものだから、組合員にも、さもわれわれJAがターゲットにされたかのように受け取られて混乱している。 そうではなくて、この問題はわがJAグループに改めるべき点があるなら大胆に改めるべきだということだと思います。つまり、全国連、県連も協同組合の一員という認識をしっかりもって改めるべきは改めるという考えを持っていただきたいと私は思っています。

 波多腰 県連、全国連はJAを補完するという機能を見失って、上部団体だけが一人歩きをしたことが不祥事を起こして非難を浴びたということだと思います。
 末端のJAも自己責任を果たすということが求められていますが、私も系統組織という護送船団方式でやってきたことについて、改革すべき点は改革しなくてはならないと思います。
 また、改革といってもやはり日本農業には長い歴史があるわけですね。現在の問題ばかりに目を向け長い歴史を横に寄せておいて議論するのはいかがなものか。狭い国土で日本農業を支えてきた原点はどこにあるのかしっかり見極める必要があると思います。
 それからJAは一方では土地持ち集団という側面もあります。この農地について、私たちのJAでは、これは先祖から預かったものではない、むしろ次世代の子どもや孫たちから預かっているという感覚を持たなければいけないと言っています。われわれも限られた日本の貴重な国土を保全しながら生産性を高めるということを日夜やっているわけですから、それを企業にやらせればいいというのはまったく短絡的なことであると思います。
 それと、これだけいろいろ問題を起こしたことについて反省しなければならないのは、役職員も含めた組合員の教育ということだと思いますね。私たちのJAの場合、常勤役員5人のうち3人は、青年部委員長経験者などの組織代表です。しかし、JAのあり方を論ずるとき、大規模JAではそういう組織代表が経営陣にいたのではこれからはやっていけないという間違った感覚があるものですから、方向がおかしくなったのだと思います。
 私たちのJAでは自分たちの農協だから農業に精通した人がJAを支えるという考え方があります。今回初めて学経役員も導入しましたが、農協の姿として、現場の本当の考え方、苦しみというものは現場にいた人間がいちばんよく分かっていてそれが協同組合組織を運営するということを忘れてはまずいということです。この部分については教育という面も大事になることだと思います。
 とくに感じているのは、永年農協を支えてくれた昭和ヒトケタ以前の方々がここでリタイアしていることです。そこで世代が代わるわけですが、次の世代は農業をやっていない人も多い。そういう人たちに農業、農協についてどう理解してもらうか、それを怠ってはいけないと思っています。

桜井 勇氏

さくらい・いさむ
昭和23年岐阜県生まれ。名古屋大学農学部卒。JA全中生活部生活課長、同部地域振興課長、地域協同対策部次長、、平成8年地域振興部長を経て14年(社)地域社会計画センター常務理事。

 内田 JAに効率的な経営が求められるのは当然で、たとえば事業を分社化するというのは組合員の側から考えるとやらなければいけないことだと思います。
 しかし、協同組合本体、全体を株式会社化するというのは協同組合の理念からしておかしいことになると思う。したがって、JAの解体論などを主張する人はまったく協同組合の理念を分からない人だと思います。
 ただ、われわれとして問題にすべきなのは国際協同組合同盟(ICA)の協同組合の原則をもう一度考えることです。今日も議論になりましたが、「正直」というのはこの原則に示されていますし、情報の公開、社会的責任、他人への配慮などもあります。こういう原則、理念と事業をどう組み合わせて改めて協同組合を作り上げていくかが求められていることだと思います。
 そこを地域のみなさんや消費者のみなさんにも分かってもらう。本来、協同組合があるべき姿はどういう姿かについて掘り下げて、本当に協同組合の行く道はどこにあるのかを考える。21世紀の100年間に巨大株式会社というのは崩壊するだろうとみる専門家がいますね。私も地域を支えていく協同組合とか、NPO、地域に根ざした企業など、そういうものが残っていくだろうと思っていますから、協同組合そのものが今の時代になくてはならない存在になっていかなくてはならないと思っています。

 中嶋 消費者はいわゆる身土不二というものを本能的に求めていると思います。ですから、食べ物は自然の環境と共生するなかにあるんだということをお互いの共同意識にして取り組んでいきたいと思っています。
 環境問題の深刻化から、経済効率よりも人間が生存できるかどうかという自然環境の保全問題が目の前にあるわけで、この問題に対して循環型の、経済や、人々の暮らしの仕組みを作りあげるには協同組合がふさわしいと思っています。そういう視点で地域では、農協、生協など協同組合がもっと一本化して話し合っていくことが必要だと思いますね。もう一度地域の中で自分たちでさまざまな問題を決め直すというボトムアップが求められていると思います。

 桜井 逆風を追い風にするにはある意味では良いチャンスかもしれません。それにはファーマーズ・マーケットにしろ、高齢者福祉事業にしろ、地域で取り組みを広げていくことが大切だと思います。地域と組合員に根ざす取り組みをJAがどこまでやれるか。そこに今後がかかっていると思います。長時間、ありがとうございました。


座談会を終えて

 食への不信が大きく広がっており、その対応いかんが企業や組織(JAを含む)、あるいは個人(農家を含む)の存立を揺るがす状況になっている。また、生産者と消費者の距離が広がっているなかで、この距離を縮める上で、ファーマーズマーケットやトレーサビリティ等の大切さが明らかにされた。
 同時に、協同組合原則における“誠実”の問題がいま価値を持ち始めていることが明らかにされた。この誠実の問題を、JAグループの各組織がどのように受け止めるかが課題といえよう。
 他方、JAグループでは女性組織や青年組織と連携して、地産地消の取り組みが活発に行われているが、こうした取り組みを広げるとともに、都市住民の新規就農や市民農園などへの参加を積極的に呼びかける取り組みを真剣に行うことが求められている。消費者や都市住民の農への関心が強まっているだけに、現状の逆風を順風に変えて行く、JAグループの主体的な取り組みが期待される。 (桜井)


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