農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:第25回農協人文化賞

盛大に第25回農協人文化賞表彰式
12氏が受賞の栄誉に

JA改革の先進を讃える多彩な農協運動の推進を顕彰


 農協運動の発展に献身的に尽くしてきた農協人の功績を顕彰する(社)農協協会と農業協同組合新聞の「第25回農協人文化賞」表彰式は5月30日、東京・大手町のJAビルで開き、同協会の中川敞行会長が今年の受賞者12人に表彰状と副賞を贈り、会場は盛大な拍手で、その栄誉を讃えた。今年は例年より推薦候補者が多く、一般文化部門に特別賞を設定した。

◆時代を導く先駆者の業績を讃えて

第25回農協人文化賞表彰式

 表彰式には関係者約100人が出席。中川会長は主催者あいさつで、この表彰事業を始めてから4分の1世紀を重ね、受賞者は今年で合計208人にのぼることを報告。また推薦委員会の今村奈良臣委員長(東京大学名誉教授)は「今年は25周年という節目の年にあたって多くの人を推薦した」と報告し、秋に開くJA全国大会に向け「受賞者の実践と推進力に学びながらJA改革の断行を」と今年度表彰の意義を強調した。
 来賓挨拶でも中村祐三JA全中常務がJA改革に向けた受賞者の寄与に期待を表明した。
 次いで表彰式に移り、会場はお祝いの拍手に包まれた。昨年は1氏だった経済部門の受賞が今年は2氏となり、一般文化部門特別賞の2氏と合わせ昨年より3氏多い12氏が受賞した。
 特別賞の1氏は今年2月に永眠した三輪昌男國學院大学名誉教授で、異例の故人受賞となり、榮子夫人が出席して亡き夫への表彰状を受け、会場は改めて故人の業績をしのんだ。
 このあと受賞者の貴重な体験発表があり、参加者に感銘を与えた。三輪氏については東大で同期だった梶井功東京農工大名誉教授が故人の著書を紹介。理論的にもまた現場の指導でも協同組合運動に寄与した業績を讃え、永眠を惜しんだ。
 最後に協会の佐藤喜作副会長が「日本農業が抱えている問題は深刻だが、農協は組合員の農と暮らしを守るという原点に立ち返ることが問題解決のただ1つの道だと考える。受賞者のますますのご活躍に期待する」と閉会の辞を述べた。
 表彰式に引き続き記念祝賀パーティを開き、約150人が集まって受賞者を囲む和やかな歓談が続いた。
 今年は(株)農林中金総合研究所の根岸久子副主任研究員が紅一点で受賞したことで、同研究所の栗林直幸社長が「わがことのようにうれしい」と祝辞を贈るなどパーティでもJAグループ各代表が祝辞を寄せた。

【主催者あいさつ】
 (社)農協協会 中川敞行会長

中川会長

 農協法公布30周年を記念して、この表彰事業を始めてから、4分の1世紀を重ね、今回で第25回を迎えました。献身的な活動で農協運動に多大の貢献をした隠れた人材を明らかにすることが趣旨です。受賞者は合計208人となり、主催者としては年々、我が同志が増えてくる感じで心強く思います。受賞者が、それぞれの地元で後継者を見出していただいくと、それが1つの線となり、それがつながれば面となります。そうして農協運動がますます活性化することを祈念します。

【第25回農協人文化賞 推薦経過報告】
 推薦委員会 今村奈良臣委員長(東京大学名誉教授)

今村奈良臣氏

 この賞の25周年という節目の年にあたって多くの人々を推薦申し上げました。秋に開くJA全国大会の議案に示された路線を実現するには優れた人材が欠かせません。農協は最後は人に帰するというのが私の考えです。議案に掲げた方針が絵に描いた餅にならないようにするために本日の受賞者のような方々の経験と思索の過程が生かされる大会にしていく必要があると思います。これまで農協は決議すれども実行せずと批判されてきましたが、今年の大会では、受賞者の実践と推進力に学びながらJA改革を断行していただきたいと思います。

【来賓あいさつ】
●中村祐三 JA全中常務

中村祐三 全中常務

 受賞者の方々に心からお祝いを申し上げ、敬意を表します。我々を取り巻く情勢は、どちらを向いても逆風が吹いているという苦しい状況です。そうした中で受賞者には、長年培われてきた蓄積によって我々をご支援いただきたいと思います。JAグループは様々な課題を抱えていますが、うち3点を挙げますと、(1)WTO農業交渉(2)コメ政策改革(3)JA改革です。とにかく厳しい改革を実行していかなければなりません。受賞者には今後とも、ご指導ご鞭撻(べんたつ)をよろしくお願い申し上げます。
 
【祝賀記念パーティでのあいさつ】

岡阿彌靖正 全農専務
●岡阿彌靖正 JA全農専務

 体験発表は教訓に満ちておりました。その業績の底辺には、環境変化に対する見方、自分に対する厳しさ、人に対する優しさ、何よりも人とはこうあるべきだという哲学、そして農民に立脚しているという農協事業のあり方に対する哲学があるということでした。農協には、そういう立派な方々を生み出す土壌が眠っていることを感じました。
●横井義則 JA共済連常務

 このところ農協バッシングというか、ひぼう中傷がどうも目につきます。体験発表からは、そういうものに毅然と立ち向かっていけという勇気を与えられました。我々も農協の本当の姿について理解を求めるために、さらに努力し、前進しなければならないと強く感じて おります。
横井義則 共済連常務
山崎直昭 農林中金常務
●山崎直昭 農林中金常務

 日本の金融システムはまだ動揺していますが、JA貯金は他の業態の水準を上回る伸び率を続け、JAに対する信用度が大変高く評価されています。信用事業が今日あるのも受賞者の功績のたまものです。我々も先人の教えを引き継いで、さらに信頼されるJAバンクを目指します。
●山本昌之 家の光協会専務

 今回は一般文化部門の受賞者が多く、これも時代的背景かなと思います。JAグループの教育文化活動をお手伝いし、支援している家の光協会は昨年から元気キャンペーンを展開していますが、今日は受賞者の発表を聞いて本当に元気をいただいたと思います。
山本昌之 家の光協会専務

●藤原林次郎 栃木県信連会長

 この賞は農協運動の隠れた功労者、縁の下の力持ちに与えられるというだけでなく、苦闘の中で経営と組織の改革をした人に贈られる賞だと思います。私も5年前にいただきましたが、そのことを心に刻んで今日までやってきました。

【受賞者のことば】

◆ 経済事業部門 ◆

●佐藤 茂氏

 ヒト、モノ、カネといわれますが、やはり人あっての組織です。先進企業はすでにヒトもカネもマスターし、モノの世界で勝負していますが、農協はまだ人づくりにあくせくしています。私は農協が大学卒の職員を採用するなんて夢だと思われていた時代から、初任給をケチるなといった考え方でやってきました。その結果、今では道内の他の農協にそうひけをとらない厚みのある人材を確保できたと思っています。
佐藤茂氏
●三嶋章生氏

 23年ほど前から食の安全に向けマニュアルを作って地産地消やトレーサビリテイに取り組んできました。理論づけたわけではなく、単純に、おいしいものを食べようという趣旨でした。それを合併農協に引き継ぎました。小さな農協の良さを合併後につないでいくことが大事です。金太郎あめのような農協でなく、個性のある農協を目指さないといけないと考えます。さらに「変える」「変わる」という勇気も必要です。
三嶋章生氏

◆ 共済事業部門 ◆

松浦茂司氏
●松浦茂司氏

 JAの組合長や専務が限られた要員の中で精いっぱい共済のライフアドバイザー(LA)を確保してくれているのだから連合会はそれ以上の努力で人づくりをすべきだと考えます。そこで共済連の職員を対象に、現場の体験を基にした提案力や相談力を持ったLAの指導体制の確立に努めてきました。一方、県下全域でJAの営業時間外の自動車事故に対応する夜間休日受付システム体制も構築し、処理に当たっています。
矢崎実氏の代読の佐久間氏
●矢崎 実氏

氏の代読をするJA共済連山梨県本部佐久間管理部次長


◆ 信用事業部門 ◆

柏淳吉氏
●柏 淳吉氏

 県信連は有価証券の運用失敗で平成4年度に損失を出し、経営改善計画に取り組んで、10年度末に前倒しで計画を終了しました。再建の説明で特に留意したのは、農協にも職員にも隠しごとをせず、すべて事実を事実としてオープンにしたことです。誠心誠意接してきたことが信頼を築く上で大きな役割を果たしたと思います。情報開示の大切さを改めて痛感し、早期に改善に取り組むことの重要性を強く感じました。
野田益嗣氏
●野田益嗣氏

 JAしみずに在職時に、山間地を平坦にして茶畑やミカン畑にする土地改良事業を実施し、重い農家負担を軽くするため高金利の公庫融資をJAが返済し、低金利のプロパー資金に借り換えてもらいました。このため悪化するJAの収益構造の改善を迫られ「地域の資金は地域で活用を」と地域住民への貸出を低金利にするなど積極化。ローン推進や市の公共事業への貸出などに努め、貯貸率はピーク時に54%に達しました。


◆ 一般文化部門 ◆

石田氏の代読の荻原氏 ●石田正人氏

氏の代読をするJA北信州みゆき・萩原総合対策部長
根岸久子氏
●根岸久子氏

 約30年前に調査マンとしてではなくて、調査部に配属され「地域経済の指標には何があるか」という議論に参加させてもらい、旅行好きの私は「民宿の入込み客数も、その一つでは?」と素人の恐いもの知らずで発言。これがきっかけで調査に関わることになりました。当時はマイナーだったグリーンツーリズムが初仕事だったわけです。前例や慣例にこだわらずに機会を与えてくれ、支援してくれた職場風土のおかげです。
八幡正則氏
●八幡正則氏

 農協金融史上最大の不祥事「鹿児島市農協事件」の後始末に捨て身で取り組み、方向づけが済んだところで退職しました。数々の体験を通して私は「分相応の暮らしと営農」を教えられました。その「生活営農」は集落のきずなで支えられています。そういう基盤があってこそ専業農家も中核農家の規模拡大も成り立っているのです。農協運動を志した時に誓った言葉は「功業不知唯尽知」。今後もそれで生きていきます。
●松下雅雄氏

 「3つの共生」運動に取り組み、特に文化活動に力を入れ、蔵書の多いJAの図書室を市民に開放しています。地域の食文化を掘り起こすために伝統的な食べ物や年中行事を冊子にまとめた出版や、また知名人による文化講演会も開いています。文化のないJAには事業の発展もないと考えます。荒廃農地をなくすために特定農地の貸付けをしています。昨秋、オープンしたファーマーズマーケットも非常に好調です。
松下雅雄氏


◆ 一般文化部門特別賞 ◆

小久保氏の代読の緑氏 ●小久保武夫氏

氏の代読をするご子息、緑氏
三輪氏の夫人の榮子氏
●故・三輪氏の夫人の榮子氏
 (梶井功・東京農工大名誉教授が業績を紹介)。
 三輪君とは大学同期の卒業です。彼の著書ではまず「協同組合の基礎理論」が代表的ですが、その後の著書では問題提起の仕方を変えています。近年では全中から出した小冊子「自由貿易主義批判」が簡潔な名論文です。その後、新自由主義(ネオリベラル)は「強きを助け、弱きをくじく」発想だと批判し、これに対抗する国際連帯の運動などを紹介した「別のダボス」(訳書)を出しています。もっと長生きをして活躍してほしかったとつくづく思います。

 

(2003.6.16)

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