農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:米改革

対 談
米改革と地域水田農業ビジョン
改革は変革へのチャンス JAの力で地域農業の展望を拓こう

山田 俊男
 JA全中専務理事
今村 奈良臣 東京大学名誉教授
 米政策改革の具体策の大枠が決まり、JAグループには水田農業の改革に向け総力をあげた実践が求められている。今号「特集・米改革」では山田俊男JA全中専務と今村奈良臣東大名誉教授に対談してもらった。
 今回の対策では、地域で使い道を決める産地づくり交付金などこれまでの政策から大きく転換する。山田専務はJAの力で水田農業ビジョンを描くことが重要と強調。今村奈良臣東大名誉教授は、地域農業全体を変えるチャンスと指摘、「改革の力量は全国のJAの双肩にかかっている」と期待を込めた。

■改革はJAにとって新たな出発点

 今村 今回の米改革について各地のJA役職員と話すと、「まあ、しょうがない。だけど困ったな」という声をわりと多く聞きます。しかし、私はこれはチャンスであり、米だけではなく地域農業全体をどう変えるかと考えるべきだし、その主体となるのがJAですからJAにとっても新しい出発点になるんだと捉えるべきだと思っています。

 山田 われわれはつい悲観論を主張しがちです。たしかに今回の改革は、米の生産調整から国がいずれ手を引くということですから、米は過剰になり米価が下落するのではないかという不安が渦巻いています。
 しかし、一方で今回、生産調整実施者へのメリット措置が現行レベルで盛り込まれましたし、産地づくり交付金は自分たちで地域の水田農業のビジョンを描き使い方を決めるということに大転換したわけですね。その意味ではご指摘のようにわれわれにとってもチャンスですし、今後は前に出ていくしかない。その際、地域農業づくりについてどういう絵を描き、どのような実践をしたのかという各地域の実力が問われると思います。

 今村 今回の改革で私が強調しているのは、米も商品になったということを胸に刻んでほしいということです。
 もちろん私も米は主食であり、日本農業の根幹であることは分かっていますが、そこをふまえても本当に売れる米をどう作るかを考えるべきだと思います。それにはリスクが伴うと言う人もいますが、リスクがあるとは損するばかりではなく、常に儲かる可能性があるということでしょう。そこをよく考えてほしいと思います。

■ 水田農業の特性ふまえて
  課題は担い手への農地利用集積

山田俊男JA全中専務理事
山田俊男JA全中専務理事

 山田 ご指摘のような展望をわれわれとしても持って取り組む覚悟が必要です。しかし、やはり野菜や畜産とは違う水田農業の特性があります。水田農業は一定の農地に依拠せざるを得ないことや年1回の作付けであること、さらに圧倒的に小規模な農家が兼業しながら支えているというのが実態です。
 こういう実態をふまえてどう構造政策をすすめるのか、とくに地域農業を支える担い手をどのように育てていくのか、そういう政策があってはじめて自覚を持った農業者も出てきますし、安全・安心な米を特定の売り先に着実に販売していくJAが存在するということになります。そのためにはやはり一定の仕組みや支援措置は必要だと考えています。改革を進めるためには一定の仕組みをつくっておかないと実現しないことも指摘しておきたいと思います。

 今村 政策的な問題ももちろん重要ですが、より具体的にこの米改革を契機に地域農業全体を変え農協自身も変わるためには、私は次の10項目を本気になって検討してほしいと提案しているんです。
 それは米も含めた地域農業を(1)だれが、(2)誰の(どの)土地で、(3)何を、(4)どれだけ、また、(5)どういう品質のものを、(6)どういう技術で、(7)いつ作り、(8)どのような方法で誰が、誰に売るのか、です。さらに(9)そのために産地づくり交付金などをどう活かし、(10)JAの営農企画、販売体制をいかに改革するか、です。

■ 誰が何をつくるのか地域で役割分担しビジョンにつなげる

今村奈良臣東京大学名誉教授
今村奈良臣
東京大学名誉教授

 今村 とくにJAについてはマーケティング機能、マネジメント機能、コンサルティング機能の3つを重視すれば大きく変わると思います。
 たとえば、誰の土地で何を作るかを考えてみると、米より儲かる作物はあるわけですね。そして今は高齢者、女性が増えていますが、そうした方々に作ってもらうものもたくさんありますから、米づくりのほうは若い担い手に任せることもできますね。誰が誰の土地で何を作るか、それを地域内でどう組み合わせるかを本気で考えてほしい。ただ、作っていればいいというのではいつまでも意識改革ができません。

 山田 今回の米政策改革にはわれわれも賛成したわけですが、その背景には今指摘された問題も含まれていると考えています。
 米の生産が過剰なのは、需要減ということもありますが、生産者にとって米が作りやすいということもあります。ただ、今後は、生産調整面積が拡大して水田面積の半分ほどになることも考えられるわけですが、今のままでは、米以外に作付けるものといえば、それなりの助成金があるからとりあえず麦・大豆を作るということでしょう。もちろん定着した地域もありますが、多くは本当に定着したかといえば必ずしも自信が持てる状況にはない。この繰り返しではもう続かないと判断したわけです。
 その一方で水田農業で何がすすんでいるかといえば、担い手が圧倒的に少なくなっている。いったいこの地域の農業をだれが支えるのかといっても、誰も自信を持ってこの人が支えますと言えなくなっている。こういう現状では仕組みを転換しなくてはいけないということだったと思います。
 そういうなかで、今回の米政策改革大綱ではじめて、担い手として集落型経営体を位置づけることができました。これは集落営農をきちんとつくりあげてそのなかで担い手に農地利用を集約していくという絵を描くというものです。それで農地利用を集約できるからこそ、麦・大豆、飼料作物も高品質なものが団地で生産されるということになる。
 集落営農を担い手として位置付けたことで、JAとしての運動を展開できる基礎が出てきたわけで、JAにとっては運動目標が定まったと思っています。

■ ピンチをチャンスに変える
  どのJAもトップになる可能性追求して

 今村 課題となっている農地の利用集積については私も先発事例を調査していますが、最近驚かされたのが、山形県酒田市の西荒瀬地区の例です。ここは542ヘクタールの農地があってほ場整備で一枚平均1ヘクタール区画に整備。それをきっかけに集落すべてで集団営農が実現しているんですね。稲、大豆は若者に任せて、農業機械も大型機械が1セットあるだけで高性能低コストです。
 では、高齢者や女性農業者は何をやっているのかといえば、集落の近所の畑やハウス団地で花や野菜を作っているわけです。そっちのほうが儲かるから水田は若者に任せておけばいいと言う。カントリー・エレベーターもつくって米はそこで全量集荷・調整しています。
 酒田市は全体として基盤整備が進んでいますが、この地区だけ大正時代からの一反区画だった。長い間、生産者のみなさんは基盤整備の合意ができず、大変たち遅れた地域だったんです。私もかつて訪ねたことがありますが当時まさかこういうことになるとは思いませんでした。それを21世紀型水田ほ場整備事業への合意ができて実現したわけですが、その合意を取りつけたのが農民塾の卒塾生の若者たちのエネルギーなんです。
 5年先、10年先を担っていこうという若者たちの意欲と高齢者と女性の元気をどう取り戻すかという仕掛けを地域でつくらなければいけないと思いますが、それをつくる核になるのは農協しかないですよ。

 山田 今のお話とも関連して感ずるのは、やはり行政によるほ場整備があって改革が始まっている。つまり、行政、JA、担い手が一体となったなかで地域の農業を変えているということですね。

 今村 その通りです。

山田俊男JA全中専務理事

 山田 JAは「食」と「農」と「地域」から離れて存在できませんから、地域水田農業ビジョンづくりに徹底して努力するということを示す例だと思います。
 そして、集落を単位とする水田営農実践組合を基本に売れる米づくりをどうするか、安全・安心をどう確保するか、あるいは他の作物をどのように導入するか、さらに地域全体の美しい環境をどう作り上げていくかも考えていく必要があります。また、高齢者が作る自家野菜も場合によっては直売所で売れるという例も多いわけですしね。
 そしてJAは、安全・安心を確保したJA米をしっかり売り込むために、コストを低廉化したカントリー・エレベーターやライスセンターの運営をきちんと図っていく。
 こうした地域づくりの取り組みにJAはおおいに関与する必要があると思います。

 今村 私はしばしば約1000あるJAのなかで、事業を積極的に展開し経営も安定しているJAが200、問題が多いJAが200、そしてその中間が600などと話していますが、考えてみると今はいちばん困っているJAが米政策改革を契機にトップに躍り出るチャンスだと思います。
 実際、先ほど話した西荒瀬地区も地域のお荷物のところだったわけですが、それがこの4、5年の間に一挙にトップに踊り出て、JA庄内みどりを変えるような原動力にもなっているんです。
 ですから、今は先発事例として立派なJAもこれから努力しなければ必ずしも立派なままではないということですし、今は問題が多いというJAもトップ・リーダーに躍り出る可能性を常に持っているわけです。
 そのためにも本当に主体性を持ち展望をはっきり明示できるJAの役員、職員が大切ですし、また、一体となって実践する行政、さらに将来を担う若者とそれを支える高齢者、あるいは女性たちを奮発させるシステムが必要で、それをJAにつくってもらいたいですね。産地づくり交付金の使い方についても本当に喧々囂々の議論をして考えてもらいたいと思います。

■自ら努力し日本農業守る国民合意を得よう

 山田 水田農業の構造改革は、今日お話したようにわれわれ自身の取り組みを強化してゆく必要があるわけですが、一方でどうしても懸念される問題もあります。
 それは最近、経済界や一般マスコミを中心にして農業批判、農協批判が渦巻いているということです。WTO(世界貿易機関)交渉もFTA(自由貿易協定)交渉も、進展しないのは農業がじゃまをしているからだとする論調が多い。米政策改革でも予算の無駄ではないか、あるいは農地は荒廃が進んでいるからそれなら株式会社に取得を認めればいいではないかという話になっている。
 そして、そういう農業批判をやるときに水田農業が果たしている多様な役割を認めているのかというと、それには一言も触れていない。しかし、先日の九州の集中豪雨や東北の地震、冷害の不安など、まさにこの国土、風土に制約されたなかでわが国の水田農業が営まれているのです。
 さらに、米以外に何を作付けるか工夫しろといっても、麦・大豆は圧倒的に海外依存の仕組みをつくってしまっているわけですよ。飼料作物も完全自由化している。飼料の輸入は畜産の発展にとっては力になったかもしれませんが、水田農業全体の生産力を高めるという面ではみなマイナスに作用してきたわけです。それなのに経済界から農業者の努力不足を非難ばかりされてもかなわない。
 そこで訴えたいのは、水田農業の構造改革にJAも行政も大きな力を発揮する努力をしなければなりませんが、一方で経済界もマスコミも消費者・国民も、わが国の制約された風土のなかで努力してそれなりの農業をつくりあげることについて温かい目で支えてもらいたいということです。必要な予算措置、必要な国境措置、これらは当然わが国の安全のためにも維持されてしかるべきだという国民合意が、われわれの努力とともに両輪となって、この国のあり方なり、政策の基本になるという姿にならなければならないと思っています。

 今村 私もほぼそのような路線をかねてから主張してきました。構造改革路線という政治状況と農業者が少なくなったなかでは、農業者側も考えるべきことがあると思います。
 たとえば農業が苦しいというなら、経営収支の公開をやることを考えるべきだと思うんです。法人のみなさんは公開しているわけですから、徹底して法人化して経営収支を公開する。そして農業は食料供給だけではなく、国土保全、環境保全、伝統文化の維持、教育力に相当の力を発揮しているのに経営としてはこういう状態ですと示す。そして経営所得安定対策をそういう実態に対して本格的に実施する。そのうえで国民は支援する義務があるのではないか、そしてわれわれとしては当然の権利があるはずだというかたちに私は早く変えたいと考えています。
 つまり、お願いするという過去の陳情形式ではなく権利として胸を張って要求していくということです。

■ 耕畜連携、農地利用
  総合的な対策で未来を拓くべき

今村奈良臣東京大学名誉教授

 山田 もうひとつ社会的な大きな課題として、農地の利用集積の問題があると思いますね。水田農業の構造改革は一定の農地が集積できた地域で進んでおり、法人化した担い手も育っているわけです。
 つまり、改革の基本となるのは農地だともいえるわけですが、農地を所有している側にすれば、人に貸したくない、どこかで高く売れれば、と思ってしまう。大事な財産なんだとどうしても考えます。そこで、所有は個人の所有だしても、しかし、利用は社会的に利用するといった転換を図ることがどうしても必要だと思っています。そのような農地の所有と利用の分離の仕組みと、農村地域の土地利用の計画づくり、担い手づくりなどの総合的改革の手を打たない限りうまく進まないと思います。

 今村 私がよく各地で強調するのは、農地は祖先から引き継いだというのは当たり前のことで、そうではなくて「子孫から借りている」という思想を持つべきだということです。
 西日本の中山間地では農地を引き継いできた長男までも都会に流出し不在地主となって耕作放棄が広がっています。これを防ぐために提唱しているのが、牛を放牧して「舌刈り」させるということです。
 放牧する牛がいなければ借りてくればいい。レンタカーならぬ「レンタカウ」です。これはかなり広がってきましたが、今後は水田でホールクロップサーレージをつくり、冬場のエサは水田でつくるということまで広げていきたいんです。そうしなければ自給率は上がりません。

 山田 今では水田地帯に牛はいなくなりました。しかし、牛がいないために耕畜連携も成功しません。ですから改めて水田地帯に牛を導入し、場合によっては水田が余っているなら団地化して牧草地化して、そこで草をはみながら新鮮な牛乳を供給するという水田酪農の姿を描く。これは非常にきれいな景観をつくりあげることにもなりますが、そこは政策としてきちんと手を打たないと実現できません。
 今回の米政策改革大綱でやはり足りないのは、そうした思い切った耕畜連携の促進策や土地利用の問題も含めた構造政策です。
 一方、WTO農業交渉がヤマ場を迎えており、もちろんわれわれは多様な農業の共存を主張し、日本提案の実現に全力を上げていきますが、しかし、国境措置にしても一定程度垣根が低くなっていくのは間違いないわけです。
 そうなったときに、このまま総合的な手だてが打たれず、市場原理と意識改革だけを叫んでいたのでは日本の自給率は一層下がるだけです。それに対応するためにはやはり思い切った総合的な政策転換が必要だと思います。

■ 消費者の支持で国際化時代に対応する実践を

 今村 最近は消費者の目が肥えてきたわけですね。安ければいいというのではなく安全かどうかにも関心が高まっている。国民の多数を占める消費者がどう判断するかということがあります。
 もうひとつは農業の応援団をつくって本当に必要な予算はきちんと手当しなければなりません。それも前回のウルグアイ・ラウンド対策のような中身ではなく本当に農業、農村にとって意味のあるものに変えていかなくては。その出発点が今度の産地づくり交付金であり、それはボトムアップ農政路線でどう農業、農村をつくるかです。その力量は934のJAのみなさんの双肩にかかっていると私は思っています。期待しています。どうもありがとうございました。

(対談を終えて)
 今回の米政策改革を「困った」「弱った」ではなく、地域農業の抜本的改革の「チャンス」が来たと受け止め、JAの全エネルギーをつぎこんで欲しい。文中で提案した(1)誰が、(2)誰の(どの)土地で、(3)何を…という10項目について、理事、総代はもちろん、組合員の多くに答案を書いてもらい、真剣な討議を踏まえて新しい路線を作り上げて欲しい。(今村)
(2003.8.8)

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