農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:米改革

対 談
担い手経営安定対策は加入要件を弾力的に
米の余剰基調克服へ

松岡利勝 衆議院議員
梶井 功 東京農工大学名誉教授
 米政策改革大綱の具体化について梶井功東京農工大学名誉教授は数々の疑問を出した。松岡利勝議員(自民党農業基本政策小委員会委員長)は「30年ぶりの大改革」になるとし、具体的な数字も挙げて与党の整理点をわかりやすく説明した。基本は、余るもの(米)にカネをかけないで、足りないもの(麦・大豆・飼料作物など)に集中的に投資して水田農業を活性化するとのことだ。生産者主体で、これに取り組み、国もこれに関与しながら国全体として推進する第一歩を踏み出したという。農地利用集積の助成は耕作者重視で進めることや、集落営農の法人化は一足飛びには進めないなどの点も明らかにした。

◆どうする?市場条件

松岡利勝氏
松岡利勝氏

 梶井 今回の米改革関係予算約3000億円については大変なお骨折りで、その点を評価した上での疑問ですが、気になるのは、平成14年の耕地面積が480万ヘクタールを切って476万ヘクタールに減ったことです。現在の食料・農業・農村基本計画を作った時には491万ヘクタール。放っておけば10年後には442万ヘクタールになってしまうのを、政策的テコ入れで470万ヘクタールに食い止めようという計画でした。しかし、476万ヘクタールになったということは、放っておけば、という、それまでの年間減少率0.9%の圧縮に成功していないことを意味します。この問題をどうお考えかおうかがいしたいと思います。
 もう1つは、今年の農業白書が、とりわけ2000年センサスの数字を克明に分析して、担い手となってもらいたい方々の規模拡大意欲が減退し、望ましい農業構造に持っていくという平成22年の目標到達は非常に困難だという認識を示している問題です。困難の要因としては、新潟県の調査数字を使ったと思いますが、1回目の調査では、農地の出し手がないから規模拡大が難しいことを挙げた。しかし2回目には農産物価格の低迷で先行き見込みのないことが規模拡大の意欲を失わせているという要因が高いという数字を白書は出しています。
 望ましい農業構造をつくっていくには、農産物価格の低迷について一体どういうテコ入れをするのか、これがやはり決め手になるだろうと思います。
 今回の政策は、担い手加算や併せて実施する支援策など、いわゆる二階建て、三階建てになっていますが、問題は、それが今いったような雰囲気を変える程度にまでなり得るのかどうか。今回の中身で、白書が問題にしたような点はカバーできるんだというご認識ですか。
 2、3階建ての部分は、すでに担い手になっている方々の経営安定には役立つとしても、問題は2、3ヘクタール経営の人たちが意欲を燃やして5ヘクタール以上になろうとする、その数を増やすというところで果たして十分なのかどうか、その辺が疑問です。

◆足りないものに投資

 松岡 今回は米改革の中身とそれを裏打ちする予算を打ち出しました。私は昨年12月の米政策改革大綱の方向を目ざし、その実現は必ずするし、できるということで今回の整理をしました。それから先生ご指摘の農地あるいは担い手の確保は大丈夫なのかという疑問については、全く大丈夫にしたいと思ってやったんです。
 とにかく米の余剰基調を何としても解決するために余ったものにはおカネをかけないようにしていく。そして足りないもの必要なものにはカネをかけ、いわば集中投資をしていくという形の中で農地も確保されていく。またそうしていきたいというのが今回の基本です。自給率を高める上では麦・大豆・飼料作物が重点3品目とされています。
 担い手についても、いろいろ中身があるんですよ。例えば担い手経営安定対策の加入要件には水田経営規模が集落営農は20ヘクタール、認定農業者は北海道10ヘクタール、都府県4ヘクタールというのがありますね。これは原則です。実際には実現可能なというか地域実態に合わせて都道府県知事の判断で担い手の規模を概ね8割の範囲に緩和して認めることになっています。幅があるわけです。
 もう1つ複合経営の担い手も柔軟に認めます。米だけなら4ヘクタールが原則ですが、例えば米は2ヘクタール以下に過ぎなくても、施設園芸も畜産も一緒にやっている場合、3つの組み合わせで認定農家になっていますから、そこは地域の実情の中で幅広く弾力性を持たせます。

◆担い手の門戸広げる

 松岡 私は今回の整理で十分に担い手を広げられると思います。これから担い手を目ざす人たちはどうするんだといわれますが、その点も今後は逆に新しく入ってくれる人たちにも幅広く門戸を広げています。それから例えば中山間地域の集落営農は20ヘクタールを半分まで緩和できるというように裾野を広げています。
 一番のポイントは集落営農です。みんなが参加すればみんなが担い手だから、個別を全体に広げて、とにかく担い手を幅広くとらえる整理も大きく進んだのではないかと思っています。
 それから、農産物の市場条件が悪くて将来展望が立たないから担い手は経営拡大に積極的じゃないとのご指摘ですが、これは大きな課題です。
 しかし農地の利用集積が進まなかった、担い手の意欲がわかなかったというのには、団地化・土地利用の集積に対する助成金が、農地の出し手である地権者にいっていたという要因もあります。そこで今回は原則として助成を耕作者重視としました。
 これについても集積を円滑にするために地域の事情によっては地権者に対する分配も判断をしてよいとしています。
 市場の問題は、例えば新潟などは気象的条件から麦はだめですね。そこで麦に代わって、そばを地域の特例作物として重点3品目の一つとすることを認めました。そばに限り新潟では三階建ての最高部分までの助成がつく形にしたので、この点も幅が広がったと思います。
 ただ特例作物の市場条件がどう推移していくか、それは、これからの課題だと思いますが、併せて今回大きく打ち出したのは3000億円の中にある本体部分とは別の関連部分でバイオマス対策などもあります。
 私は今度、農畜産物を輸出する課題について随分調べさせました。守りじゃなく攻めに転換していこうというわけです。米国あたりでは魚沼コシヒカリが一番高いのは8万8000円で販売されているといいます。

◆農畜産物輸出拡大へ

梶井功氏
梶井功氏

 梶井 党の資料には米の輸出先が出ていましたね。

 松岡 台湾でも5万円前後ですか。それから中国には日本人をしのぐ金持ちが5000万人以上もおり、高くてもよいから味の良いものをほしがっているとのことでブランド志向の流れです。また世界は今、日本食ブームだから、今後は安全安心で高品質の食料品の需要が相当出てくるだろうと思います。輸出拡大も含めて考えると、農産物の市場展望は、そんなに暗くはないと見ています。
 私は輸出面に政策的な道をしっかり開いていきたいと思っています。例えばリンゴだって今度、青森から1万トンが輸出されました。ナシの20世紀にしても世界にはないおいしさですよ。

 梶井 助成金交付の基本が地権者ではなく原則耕作者に向けられるというお話は一般紙などでは余り報道していませんね。

 松岡 耕作者に意欲を持ってもらうために今度そういうふうにしたんです。
 それから強調したいのは、米の過剰基調を変えて米以外の作物を増やすために今までの実績にプラスして1割以上転作した人には、さらに10アール当たり1万2000円の加算金というか特別推進費を出して転作にドライブをかけることにしました。
 米余りから、価格は暴落するし、在庫積み増しの経費がかさむなど弊害がいろいろ出てきます。それを解決するために生産調整をより進めた人には、それなりのメリットをつけます。

◆実現できたメリット付け

 梶井 1割上乗せには農業団体のほうも積極的に取り組む姿勢のようですね。

 松岡 今までの3階建て部分の最高の6万3000円の水準を維持し、それプラス今回の1万2000円となれば7万5000円になりますからね。メリットづけはできました。

 梶井 担い手経営安定対策の「概ね8割」はお話ですと非常に弾力的に考えているのですね。

 松岡 「概ね」の解釈がありますからね。実情に合わせていけば進むと思います。

 梶井 「有機栽培、複合経営等により相当の水準の所得を確保している経営については」知事が特認できるとなっていますが「相当の水準」とは認定農家の水準を意識しての話ですか。

 松岡 目ざす農業構造について党の農業基本政策小委員会では先に35類型を作りましたが、酪農畜産とか畑作とかいろいろあるものの、おおざっぱに平均すれば1億8000万円から2億円が農業の生涯所得で、他産業従事者と比べ6000万円から4000万円低いため、その差を補おうという基本的な方向があるわけです。他産業並みの水準が可能になるような有機農業とかを支援しようということなんですが、具体的な進め方は今の実態、また今後考えられる形をつき合わせながらやっていくと思います。今回は予算編成を通じて、そういう助成の中身をつくっていこうとしました。

◆集落営農 法人化は段階的に

 梶井 集落営農を取り込んでもらったのは大変良いことですが、20ヘクタールベースで考えていくのはきついと思います。

 松岡 だから知事の特認で半分まではよいとなっています。

 梶井 「一元的に経理を行う…」というのは、たいていの集落営農がやっているからよいのですが、といって、行政がいうようにすぐに法人化を目ざすというのは、そこに何か違和感がありますが。

 松岡 そこは徐々にですよ。最初から、こういう形でないとだめだといってしまえば、できないところが多いでしょうから、そういうことまでは求めていません。やれる範囲でということです。日本農業の米作りは昔から集落単位の「ゆい」とか「もやい」の共同作業ですからね。
 集落も今はだんだんと都会化していますから、そのきずなをもう一度強めて、一体のものにするという点でも、この対策の意義があると思います。約14万集落があるわけですが、どれだけ壊れてしまったか、どう位置づけるかなどで議論がありました。とにかくもう一度、集落機能を強めないと国土保全もできませんからね。水田が放棄されるとダムが一つ、つぶれるのと一緒ですよ。中山間の水田を守ることは非常に大事です。

◆畑地化は北海道の平地などで

 梶井 全くその通りです。しかし一方では畑地化の推進が打ち出されています。

 松岡 その対象は条件的に見たら平地ですよ。すぐに思い描かれるのは例えば北海道です。平地では畑地化したほうが将来的にも良い所がある。おそらく中山間では、畦を取り払ってしまう畑地化はむりですよ。

 梶井 私は棚田をなくすのかとびっくりしましたが。

 松岡 いやいや国土の安全はしっかり守らなくちゃ。しかしいざとなれば水田に戻せる田畑輪かんもしっかり念頭において考えます。また畑地にして本作化したほうが良いというところは思い切って畑地化してもらいます。

 梶井 集落営農の法人化などについても行政のほうは四角四面に行政が描いたかたちを求めてくるのではないかと気がかりです。

 松岡 きちんとした指導をやってくれるものと思いますし、押しつけでやっていくものではありません。

(対談を終えて)
 総額3000億円を上回る米政策改革大綱具体化予算案の取りまとめに中心的な役割を果たされた議員は、この予算で“米政策改革大綱の方向を目指し、その実現は必ずするし、できる”と自信をもって言われた。自民党でこの案の決着がついた時、全中会長は“厳しい財政状況であるにもかかわらず、米改革の具体策における我々の考えを実現していただき、これから各地域、各産地が改革に向けて取り組むスタートの環境が整備できたと考える”と談話を発表した。期待以上のものがあったからだろう。
 二階建て、三階建ての仕組みは相当なものである。しかも議員が強調されるところでは、各県の実情に応じてかなり弾力的な取り扱いもできるという。この議員の発言は貴重である。現地での施策の具体化に当たっては、担い手限定に走りがちな行政に振り回されることのないように取り組んでほしいものである。(梶井)
(2003.8.13)

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