農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

インタビュー JAグループに期待すること
女性の力を取り込み違う目線で考えることも

永田 宏 三井物産(株)代表取締役副社長
聞き手:坂田 正通 本紙論説委員

 フランスで三井物産に入社し、ヨーロッパ、アメリカで活躍されてきた永田宏三井物産(株)副社長に、ヨーロッパと日本の農業の違い、商社の仕事を通じてどのように日本農業やJAをみているのか、そしてJAグループに何を期待するのかなどを忌憚なく語ってもらった。聞き手は本紙論説委員の坂田正通。

◆農業を早く変えようとは考えていないEU諸国

永田 宏氏
 ながた ひろし
 昭和16年生まれ。早稲田大学第一法学部卒業。昭和45年 三井物産フランス(株)入社。46年三井物産(株)本店業務部へ。57年4月 米国三井物産(株)ニューヨーク本店肥料部長。61年 三井物産本店肥料部輸入第一室長。平成3年 同社無機・肥料本部肥料部長。6年 同社無機・肥料本部長。8年 同社取締役無機・肥料本部長。11年 同社常務取締役、欧州三井物産(株)社長兼英国三井物産(株)社長兼欧州三井物産インターナショナル(有)会長。13年 同社代表取締役専務取締役。14年 同社代表取締役副社長執行役員(化学品、アジア担当)に就任し現在に至る。

 坂田 欧州三井物産(株)の社長をされておられましたが、ヨーロッパ全体をみておられたのですか。

 永田 西欧、中欧そしてアフリカの地域をみていました。

 坂田 ヨーロッパの農業をご覧になった印象はどうですか。

 永田 一言でEUといっても国ごとに特色があります。例えば英国では、製造業はGDPの20%を切っています。農業に関しては、気候が良くないこともあって、牧草地が多く、牧畜業に根強いものがありますね。その他、小麦、養鶏も多いですね。
 農業生産をあげて農業を守っていくというよりも、国自身の中に農業が文化として構成要因として入り込んでいると思います。都会に住んでいる人も、できれば都会に家があってなおかつ地方に家を持ち、自然の中で土地柄の農産物をつくり、牧場を持ちたいというコンセプトがあるわけです。
 だから農業を捨てるということは、彼らの人間性を捨てることになるわけです。生活が、農業とか自然と密着型になっていると思いますね。
 フランスは地方地方の特色があって、地方に行けば行くほどその地方の産物とか特産品とかが尊重され、それを求めて人が来たり、そういうものがあるからセカンドハウスを持っていたりしていますね。だから、金曜日の午後になると都市からの大脱出が始まりますよ。

 坂田 フランスが平気でアメリカの方針を批判できるのは、農業基盤がしっかりしているからではないかと思いますね。

 永田 フランスは農業だけではなく、工業品を含めて自給自足率が高いですね。食料品では大豆とかなたねなど油脂原料の輸入をしていますが、フランスパンを作るには自国の小麦が一番だと思っているように、自国産の農産物を大事にしますね。

 坂田 ドイツはどうですか。

 永田 気候的な問題もあって加工食品は輸入が多いですね。小麦と馬鈴薯が基本的な作物で南のほうでブドウやリンゴなどの果樹をつくっていますね。

 坂田 ヨーロッパは、ゆっくりしている感じですね。

 永田 農業に関しては早く変えようとか、特産品を努力をしてつくっていこうという考えはないんですね。いい意味で旧態依然としていることを良いこととしているわけです。

 坂田 そこに人が集まってくるわけですね。

◆日本人の優れた味覚がある間は日本の農業はなくならない

 坂田 日本から農業がなくなると困るんじゃありませんか。

永田 宏氏

 永田 マクロでみると、日本が経済成長を続けていっても、現在の日本の人口は増えません。それにあわせて変わっていける農業ということで価値がでてくると思います。工業も発展途上国に比べればコストが高いので、汎用品は海外から取り入れたうえで付加価値の高いものをつくっていかざるをえない。そして第3次産業がどんどん増えてくる。第3次産業とは何かといえば、外食とか掃除の産業だったり、老人介護サービスだったりするわけです。そこに何を求めているのかといえば、自分自身がやるよりも安くて手に入れられるものということでもあります。そこに日本がいま直面している問題があると思いますね。
 農産物も輸入品でも安くて品質が同じならいいということで入ってくる。しかし、成人した日本人は世界でも優れた味覚を持っていると思いますから、これが将来にわたってなくならないという前提に立てば、日本の農業はなくならないと思います。ところが、外食に慣れて育った子どもたちが、それが日本の食文化だと思ってしまうと、それは日本の農産物をベースにしたものではありませんから、日本の食品加工業は守れなくなるかもしれませんね。

◆農業を守るには、食文化にもとづく消費者教育が

 坂田 フランスなどではどうなんでしょうね。

 永田 フランスはものすごく頑固で、この国のこの産地でとれたものが世界で一番いいものだといいますよ。そしてこれを食べるからシーズン性があるとか、カチッとした食文化の枠組みを持っていますね。

 坂田 最近の日本はどこに行っても同じ料理が出てきたりしますね。

 永田 日本の農業を守るには日本の消費者を教育していかなければいけないんですね。消費者教育は、消費者が安ければなんでもいいとか、健康にいいからといって食べるのではなく、日本の持っている食文化は違うんだという考え方。そして、この地方に行って初めて味わうことができる。味わうためにそこに行く、ということが育っていく文化が必要だと思いますね。

 坂田 JAが消費者教育するには難しい面もありますよ。

 永田 組織全体でやるのは難しいかもしれませんが、個々のJAがここにくればこういうモノがあるということを前面にだせば一つのいい動きになるんじゃないですか。そのJAに対抗して篤農家が仲間と特産品をつくって出していくことがあってもいいですね。互いに刺激になりますしね。

◆ボトムベースでは満足度は低くなる

 坂田 JAの経済事業改革についてはどうみておられますか。

坂田 正通氏

坂田 正通氏

 永田 組合員がJAに栽培指導を受けたいと希望しているのか、資材を買いに来るのか、トータルで来るのか、人によって違うと思います。そのときに、全農を含めてJAグループがどういう機能を売りにするのかですが、いろいろいる組合員に均質に対応するために、弱者に視線を落として経営されていると思います。
 ところが私たちの商売では、強い人、大きい人、たくさん買う人には自ずから価格も違います。これは当たり前の話です。JAのメンバーのなかでは、その差別がつけられないところが問題ですね。それをどう内部で解決するのか…。
 いいお客のところには、金融でも資材でもいろいろなところが刺さりこんできますから、これとどう戦うのか。商系はいい客だけをセレクトしますしね。
 ボトムをベースとして経営すると、組織内での全体的満足度が低くなってしまうと思いますね。

 坂田 これからの農業の姿といいますかあり方についてはどう考えておられますか。

 永田 農業と環境がいままでは全然違うものとして論じられてきましたが、環境を守るために農業が果たす役割はものすごく大きなものがあります。環境がクリエイトしていく需要は、これから大きく世界を変えていくと思います。そのときに農業が環境に対して果たせる役割がいろいろとでてきます。21世紀は水の時代といわれていますが、日本はこれまで完璧に治水をやってきましたが、治水と農業がいかに環境に貢献できるかとか、地域と水とか、空気もそうですね。そういうものをすべて有効利用して観光・農業・自然がパッケージになってくるべきと思いますね。

 坂田 グリーンツーリズムですね。

 永田 ヨーロッパでは盛んですね。 

◆経済大国として譲るべき点を明確にしないと進まないWTO交渉

 坂田 今回のWTO交渉についてどうお考えですか。

対談風景

 永田 国の文化とか産業構造を国が変えようという意識がないと、自分にデメリットのあるものはやらないでいこうという保身主義になります。発展途上国はそういうことがないから、攻めまくればいいわけですよ。WTOもFTAもその構造のなかで進められているわけです。
 日本が経済大国として、日本だけが反対してまとまらないというわけにはいきませんから、EUと協調していかざるをえないと思います。そうすると何かで譲らないといけない。
 それはこの国の10年後、20年後をイメージし、そのイメージの中でどこまで譲ったら受け入れられるかということになるんだと思います。こちらの希望したスキームとタイムテーブルの中で譲っていったにしても、農業ができなくなることはないと思います。日本の農業人口が減ってきているその角度との相関関係でどこかで妥協すればいいんだと思いますけれどね。
 WTO加盟国の大半が発展途上国ですから、この人たちを納得させるためには、大国としての大御心を開かねばいけないようなところに追い詰められているような感じですね。

 坂田 たくさん開いてきているんじゃないですか。

 永田 これ以上開かなくてもいいというなら、守らなければいけない2、3点に絞って具体的にいわないと進まないと思いますよ。

◆農業を立ち上げたい若い人を支援する仕組みづくりを

 坂田 最後に、商社の立場からJAグループに期待することはなんでしょうか。

 永田 農業人口が減り高齢化するなかで、企業家としての農業を立ち上げたい若い人に、農業を魅力あるものにしていって欲しいですね。これは商人ではできないことですから…。そして、そういう人を農業ベンチャーとして、どうヘルプしサポートしていくか。国、地方自治体そしてJAが仕組みづくりに力を貸してもらいたいと思います。
 もう一つは、特色ある地方をつくるために、そのツールとしての地方産品とか産品の確保にいままで以上に注力していっていただきたいと思います。それをやるためには女性の力が大きいと思います。もっと女性の力をJAに取り込んだほうがいいと思います。商社もそうですが、JAも男社会ですね。ところが男はこの実業の社会が本当は分かっていないのではないかと思うことがあります。女性の力を取り込み違う目線で考えると、消費者教育も産品づくりも変わるのではないでしょうか。

 坂田 お忙しいなか、ありがとうございました。
 

インタビューを終えて

 永田さんはフランス語が得意ということで、フランス三井物産に採用されたが、35年間フランス語を使う機会は少なく英語の方が多かったという。海外駐在はパリ4年、ロンドン2年、ニューヨーク6年。会合等で前夜いくら遅く帰宅しても翌朝5時には起きて1時間15分のウォーキングを毎日こなす。自分をアルク(歩く)・ホーリックと称している。コースは、自宅のある大田区南馬込周辺の起伏の多い所に決めている。インタビュー中はにこやかなヨーロッパ紳士の風貌が、仕事では厳しい正論の姿勢というのが定評。趣味のゴルフはJGA公認ハンディ13、テニスもする。出張先では、ホテルの窓からスケッチを楽しむ。世界各国の風景画がすでに500枚以上溜まっている。暇になったら、色を着けてみたいという。自然環境を守る為には農業のはたす役割は大きい、新しい需要を生み出すと主張。一男一女。息子さんは昨年司法試験に合格、弁護士志望で司法研修中、娘さんは結婚式を済ませた。夫人と2人暮らし。(坂田)

(2003.10.3)


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