農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

インタビュー
全国本部・県本部間の機能を見直し
「もっと近くに。」を実現

田林 聰 JA全農理事長
今村奈良臣 東京大学名誉教授

 第23回JA全国大会の最大の課題は、経済事業の改革をどう進めるかにあるといえる。JA全農はすでに15年度からの「中期3か年計画」を策定し事業改革に着手しているが、その基本的な方向と具体化について、農協のあり方研究会の座長でもある今村奈良臣東京大学名誉教授が田林聰JA全農理事長に聞いた。

◆JA支援体制構築が改革の基本的な方向

 今村 農協のあり方研究会で事業改革の方向が提起され、JA全国大会に向けてその実践の方向をみせていただいていますが、その基本方向の内容はどういうものでしょうか。

田林理事長
たばやし・さとし 昭和17年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。昭和41年全農入会、平成元年本所肥料農薬部農薬課長、3年大阪支所肥料農薬部長、5年本所自主流通部次長、6年本所肥料農薬部長、8年本所総合企画部長、11年常務理事、14年代表理事理事長就任。

 田林 第23回JA全国大会は、JAを取り巻く情勢とJAグループの取り組みの現状と課題を明確にした上で、JAグループとして実践する重点実施事項を4つかかげています。その1つは、安全・安心な農産物の提供と地域農業振興、2つ目は経済事業の改革、3つ目は経営の健全化、4つ目として地域の活性化です。
 これらについてはすでに組織討議を終え、現在、経済事業改革中央本部では、指針(到達目標と、それに到る工程表)の策定について協議を行っています。
 JA全農は7月に「経済事業改革の基本方向」を打ち出し、この指針に反映をさせていますが、その方向は販売事業では特に市場流通と直販事業に分けてそれぞれ販売強化をしていく。購買事業では、全農の全国本部と県本部が一体となり、多くの機能を県本部やブロックに移管し、全国本部の機能は開発とか海外対策、関連会社の管理とか代金決済という方向に特化していくことで「もっと近くに。」を実現していこうということです。

 今村 JA全国大会に向けてもその方向でだすわけですか。

今村先生
いまむら・ならおみ 昭和9年大分県生まれ。前日本女子大学教授、東京大学名誉数授。元日本農業経済学会会長。東京大学大学院博士課程修了。著書に「人を活かす地域を興す」「農業の活路を世界に見る」「補助金と農業・農村」(第20回エコノミスト賞受賞)「揺れうごく家族農業」「国際化時代の日本農業」「農政改革の世界的帰趨」(編著)など。

 田林 経済事業改革における全農の役割は、JA経済事業の支援をする体制をつくること、全農として効率的な事業のシステムをJAに提供するため、現状の事業システムを改革することですが、それを「改革の基本方向」で整理しました。
 販売では、情報の収集と提供のためのセンター設置や、販売拠点の設置による効率的運営、代金決済の集中や共計の透明化や細分化。
 購買では広域化や会社化によりJAと一体となった事業を実施し、事業2段、品目によっては事業1段の実現を目指しています。
 例えば物流については、広域物流ということで、県域で注文をとって配送し、JAは県域の物流に委託し自らは配送をしない方式にしていこうという事業システムとして提案します。実験事例でみると、肥料の場合、いまは供給価格の21%くらい物流経費がかかっていますが、この方式にすれば半分程度ですむというデータがでていますが、とりあえずの目標を6〜7%減らすということで進めていこうと考えています。

 今村 これは全中とも…

 田林 経済事業改革中央本部で協議をし、取りまとめています。

 今村 農協のあり方研究会の報告書は「全農改革の断行」として、全農の改革は「農協改革の試金石」であり、全農改革の断行を国民各層に目に見える形で提示することが必要だとして、真剣に全農改革に取り組む体制の確立など、5つの視点をだしましたが、いまのお話をお聞きすると、それらは盛り込まれているわけですね。

 田林 今、話したような内容で実践することとしています。

◆推進は現場に近づけ、全国本部は司令塔に

 今村 外部から見て多くの人には、全農の全国本部と県本部、JA、生産者という縦の関係の中で、全国本部と県本部との関係が分かりにくいと言われていますね。統合はしたけれど前と変わりがないのでは…とか。そのあたりの方向性はどうですか。

 田林 極力、推進は現場に降ろし、全国本部は、全国レベルでの価格、輸入、開発、代金決済、関連会社管理、コンプライアンスなどに特化していくという方向です。JAや担い手、大型農家への推進とか技術指導は、将来つくる広域ブロックの拠点に移していこうということです。

 今村 いうならば全国本部は司令塔になって、情報の収集や経営管理を中心にして全体をどう動かしていくかということをやり、実務的なことは、JAレベル、生産者レベルにできるだけ近づけようということですね。

◆地域実態に応じた米販売機能の構築

インタビューの様子

 田林 購買事業はそういう方向でやれますが、販売事業はブロック域にはなりにくい側面があります。販売の場合には、県産ブランドが基本ですのでそれを中心にして、市場販売でも相対取引量を多くし、量販店や生協など販売先の顔が見える売り方をめざそうと考えています。ここでは、情報が非常に大事になりますから、園芸では「JAグループ情報センター」をつくり、情報の収集・伝達の集中化をはかり生産者にフィードバックします。米穀では東西に「米穀販売センター」をつくり情報を一元化します。

 今村 青果物と米では違いますし、米でも全国ブランドの米と大都市近郊とか、同じ米でも意味が違いますが、東西パールライスに統合しながら販売戦略を立てていこうということですか。

 田林 東北・北陸を中心とした主産県。消費地近郊で基本は県内だが一部県外にだしている県。そして完全な消費地県。これらを分けた業務体制をとろうと考えています。主産県については従来の販売を継続していく。消費地近郊県については、県内販売を中心にして県外については機能のスリム化をはかっていく。そして消費地県は、東西のパールライス会社に集荷の機能を持たせて、県段階での集荷機能をこの2つの会社に集約してスリム化していこうと考えています。
 そして、精米については、各県のパールライス会社を東西の全農パールライスに集約して稼働率を上げコストを下げて販売をしていこうと思っています。さらに最近では外食・中食などが増えていますから、そうした食品加工事業の機能を東西パールライスに持たせ、米の卸会社から食品加工機能をもった食品会社化を目指し、食と農の距離を縮める。このことによって、情報も多く入ってきますし、仕事の幅も広げることができると考えています。

◆全国本部畜産販売事業は会社化で経営力を強化

 今村 畜産関係についてはどうですか。

田林理事長

 田林 飼料については、ほとんどの地域で地域別飼料会社化ができています。まだご批判はありますが、価格、サービス、指導が充実してきていますから、この路線を完結していこうと考えています。
 畜産の販売面では、全農の畜産センターが4つありますが、継続的に赤字です。これについては近い将来、牛・豚肉、鶏肉、鶏卵の畜種別販売会社化を目指し、合理化による改善をはかっていく構想です。
 それから県に第3セクターを含めて家畜センターがありますが、大きな赤字を抱えています。これについては県ごとの事情があるので、県の段階でどういう方向にいくのかよく協議してもらいます。大事なことは収支改善です。収支改善した先行例もありますから、そういうことを参考にしていただければと思いますね。

◆園芸販売事業はアウトソーシング化で

 今村 そういう方向でいくとして経営的な問題はでてきませんか。

 田林 いまの県本部を含めた全農の収支の要は、石油事業と肥料農薬、生産資材です。肥料農薬や生産資材は広域化はしますが、米穀や園芸と一緒にした耕種事業本部として組織内に残します。しかし、石油事業を会社化すると、石油事業で補填していた事業を黒字化しなければいけないという問題にたちまち迫られます。
 そのために、畜産のような赤字の事業については先ほどお話したように会社化などにより収支改善をめざします。そして園芸については、各センターは全農に残しますが、実際の仕事の多くをアウトソーシング化して、実質的に会社化していきます。

 今村 そういう方向でいくとしても部門ごとに収支のデコボコがでてくると思いますが、全体としては全農として連結決算方式でやるわけですね。

 田林 会社も含めてグループ全体が成り立っていることを示していかないと信用がなくなりますし、決算内容の情報開示も当然必要になってきますね。

 今村 そうなると、実需者や消費者にも分かりやすくなりますね。そのうえで、消費者には安全な食料を供給します。生産者には可能な限り所得があがるように資材を提供し、それをもとに単位農協は全力をあげて生産し、担い手をシッカリつくりあげ、地域農業の改革を進め、活力をもたせていく、という筋立てになるわけですね。

◆JAと一緒に実践する事業改革と大切な人材育成

 今村 そうした経済事業改革を進めるためには、人材の育成が非常に大事だと思いますが、その点はどうですか。

 田林 人材育成では、とりわけマーケティングできる専任者がJAでも少ないので、そのための教育をどうするか。これは営農事業ということになりますが、全農として必ずしも統一されていなくて、県別に開きがあります。これをどうするかは大きな課題です。

今村先生

 今村 私は「農協ほど人材を必要とする組織はない」といっています。どういう人材かというと、農協のあり方研究会報告書の核心でもある(1)マーケティング機能の充実(2)コンサルティング機能の充実(3)マネージメント機能の充実のための人材です。順番もこの順番です。つまり、自分たちが作ったものを売らなければお金が入ってこない。そのためにどういうものを作ったらいいか、どういう作り方をするかというコンサルティング、つまり営農指導・企画です。そしてJAならびに地域農業全体のマネージメントができなければいけないということです。しかし、そのための人材が不足している。
 いままでは、付加価値の序列でJAの人材配置が決まり、それで運営してきたわけですが、いまは、個別事業ごとに収支をとらなければと警鐘が鳴らされているわけです。会社化したところのトップを含めて、人材を育てるのは全農と全中の責任だといえますね。

 田林 研修会・講習会などももちろん開催しますが、年々参加者が減ってきています。マーケティングなどは短期間での習得は難しいので、長期に参加できる基盤をつくってもらわないと難しいですね。

 今村 組合長に「1ヶ月時間をやるから小売でも生協でも市場でも好きな所へ行って勉強して来い」といわないとダメだとよく言うのですが、出せるところとそうでないJAがあり、格差がますます開きますね。それが心配ですね。

 田林 JA間の格差はあると思いますが、人づくりの大切さはJA役員も十分理解していると思います。例えば、JAから全農や先進JAへの研修生の派遣などを検討することも必要ですね。経営環境が厳しくなるなかで、よりいっそう人材育成に取り組み、事業競争力の強化をはかってもらいたいと思います。また、全中や全農としても支援が必要です。

 今村 全農の場合には県本部と一体になりましたから、縦横自由に人事交流ができるわけですから。そのことを活かしていかないといけないですね。

 田林 全農の場合には、160名くらいの交流人事を行っています。140名ほどが県本部から全国本部へきて、20名が全国本部から県本部へ異動しています。来年春には支所を廃止しますから、県本部によりいっそう人事異動をしていくことになると思います。これにより、お互いの業務に精通し一体感が生まれてきます。
 それから、JAから人を出して欲しいという要望もあります。これについては、事情を勘案しながら出していく方向で考えていきます。

 今村 人材だけは、おいそれと簡単にできるわけではありませんから、できるところからやっていく必要がありますね。

◆やりがいのある経済事業改革

 今村 消費者への教育も大切ですね。

 田林 いま全農では「ふれあい懇談会」を開催していますが、なぜ農業や食料についての教育をしないのかという意見が多くあります。農業・農村へ関心を持つ人をつくっていくことも大切ですね。

 今村 JAの正・准組合員数に日本の平均標準世帯人数2.6人を掛けると2400万人になります。JA傘下にこれだけの宝の山があるわけですから、まず自分たちの地域で消費してもらえるものを作り、同じものを消費者に届ける精神をもたないといけないと思います。これを膨らませていく発想をもってもらうと意識が変わり、新しい交流の路線が生まれて来ると思いますね。それだけ農協には潜在的組織力があるということを、自覚した方がいいと考えますね。

 田林 JA米や全農安心システムなど、JAブランドの確立が大切です。また、安全・安心の裏づけをもって組織的に供給できるのは、JAグループだけだと確信しています。このことにもっと自信をもって訴えていくことだと思います。
 そういう意味で、経済事業改革はやりがいのある改革だと思っています。

 今村 今日はありがとうございました。

インタビューを終えて
 第23回JA全国大会を目前に控えて、全農・田林理事長に全農改革の基本方向についてお話をうかがうことができた。
 周知のように第23回大会は、「農」と「共生」の世紀づくりをめざして、をスローガンに「実践する大会」、「開かれた大会」を目指して、経済事業改革を中心に「改革の断行」を高らかに掲げている。
 さて、去る3月末に、私が座長をつとめた「農協のあり方についての研究会」は、委員全員の合意のもとに、JAの経済事業改革に焦点をあてた報告書「農協改革の基本方向」を農林水産大臣に提出するとともに、広く世に問うた。その報告書の1つの大きな柱に、「全農改革の断行」が提起されており、(1)真剣に全農改革に取り組む体制の確立(2)全役職員(県本部を含む)の危機感の共有と一体感の醸成(3)役員の強力なリーダーシップの発揮(4)事業部門ごとの縦割りおよび全国本部・県本部ごとの縦割りの克服(5)農業者・消費者の声に真摯に耳を傾け自らの改革につなげる姿勢等が必要だという全農の改革は「農協改革の試金石」という表現で改革の方向を示した。田林理事長のお話にある通り、全農はその改革の方向にいま具体的に取り組もうとしている。要は改革の実践と改革構想の具体的実現である。それをJA関係者ともども私としても見守りたいと思う。(今村)

(2003.10.9)


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