農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

現地ルポ
自らの手で地域農業の将来像を描こう
―JAがリードする水田農業ビジョンづくり―

JAみやぎ登米 阿部長壽代表理事組合長に聞く
地域農業の改革こそJA改革の本質

 JA改革とは農協運動を再活性化するなかで取り組むべきだと強調する阿部組合長は、地域水田農業ビジョンづくりも「本当の農協運動」として考えるべきだと話す。生産者とともにJAが打ち出した戦略は「環境保全農業の推進」。宮城県有数の食料基地として豊かな自然を守り持続的な生産をめざそうと減農薬栽培など生産基準に基づく栽培を米づくりなどで進めていこうとしている。販売戦略づくりが課題とされているが「地域農業の姿がこう変える」という姿勢が消費者に注目されることこそ販売戦略だと指摘する。

◆農協運動としてのビジョンづくり

JAみやぎ登米

 地域水田農業ビジョンづくりは本当の農協運動として考えるべきだと思っている。
 20世紀の後半には環境問題の深刻化など資本主義の限界を示したが、21世紀はその資本主義の矛盾を捉える仕組みとして協同組合が中心となった協同社会に向かわなくてはならないと思う。
 その意味で、JA改革は農協の経営改革ばかりにかたよらず、もう一度農協運動を活性化させることこそ大事だと考え、私たちは営農指導を農協の事業の主軸に据えて地域農業を改革するという視点で取り組んでいる。その合意の現れのひとつとして、今年、平成10年の広域合併以来、懸案だった営農指導事業賦課金の組合員負担が了承されたことも強調したい。

◆消費者から注目される農産物づくりへ転換

 改革にあたっては地域の特徴を改めて把握することから始めた。当JAは合併によって水稲作付け面積、大豆作付け面積、肉用牛、豚飼養頭数などで県内1位となった食料基地のなかの食料基地といえる地域。
阿部長壽 代表理事組合長
阿部長壽
代表理事組合長
管内には北上川、迫川が流れ水も豊かで土壌も良質だ。畜産も盛んなことから有機資源も豊富だし、野菜生産も盛んである。
 さらに総農家戸数は減少しているものの、平成7年から12年の5年間で専業農家は50戸増加、5ヘクタール以上の経営も同期間で236戸から284戸に増えている。
 こうした地域の特徴を今後さらに打ち出そうと掲げたのが「環境保全農業の推進」である。
 その柱は(1)主要作目の生産基準に基づく栽培と生産履歴管理の徹底、(2)環境保全米、麦、大豆、野菜などの生産の取り組み、(3)畜産環境整備と有機資源の循環活用、(4)農村の環境保全の取り組みである。
 環境保全農業への転換を決めた背景には、コメ政策改革にともなう産地間競争の激化もある。
 ただし、競争といっても市場原理に基づいた効率生産第一主義の価格競争は、すでにさまざまなひずみをもたらしてきた。効率的な生産をめざした機械化、化学肥料・農薬の普及など農業の近代化は、たしかに農作業の軽減や生産性の向上をもたらしはしたが、環境問題を生じさせもした。こうした反省に立って、農地を守り地域農業の持続的な発展を図ることへ転換する、そのことを消費者に理解してもらうことが産地として重要だと考えている。
 そのため「生産者と消費者の共生」、「地産地消」も私たちの地域農業振興策の重要な柱としている。水田農業ビジョンづくりにあたっては販売戦略の重要性が指摘されている。ただ、私たちは販売戦略とは、地域農業をこういう姿にする、生産のあり方をこう変える、という実践が消費者から注目されることが販売戦略につながると考えている。

◆16年産から全面展開へ

 米の作付け面積は約1万1000ヘクタール。16年産からはすべてを環境保全米づくりに転換する計画だ。15年産では1000ヘクタールで取り組みが行われた。
 この環境保全米の生産基準には3タイプある。Aタイプは、JAS法に基づく有機認証が取得できる完全有機栽培。15年産では350ヘクタールで栽培された。
 Bタイプは農薬と化学肥料の成分を慣行栽培の2分の1、除草剤の使用量も2分の1とする生産。15年産では150ヘクタールで栽培された。そしてCタイプは化学肥料と農薬の成分を慣行栽培の2分の1にするという生産で15年産では500ヘクタールで栽培された。
 今後はこのCタイプの栽培法をメインにして全面積での環境保全農業への転換をめざす。そのため生産基準にもとづく栽培暦を作成して農家に配布、生産履歴記帳運動と合わせて営農指導に力を入れていく。

◆確かな手応え肌で感じる生産者

 また、環境保全米づくりへ全面転換への手始めとして15年産から「水稲種籾の温湯消毒法」に取り組んだが、組合員の理解と結集で2100ヘクタールに広がった。JAとして25支所に温湯消毒器を設置し、来年は全作付け面積分に対応できる体制も整えた。
 環境保全農業への転換のためには、実はJAの役職員の意識改革も必要だった。営農指導員は全部で200人いるが、これまで近代化農法で営農を考えてきただけに意識を変えるには時間がかかった。また、理事や組合員からはこうした取り組みによってどんなメリットが得られるのか、という声もしばしば聞かれた。
 しかし、私はメリットはあくまで結果、まず取り組むことが大事と訴えてきた。というのもおそらく今後の農業生産に対して消費者は環境に配慮した、いわば当たり前の農業を求めるようになるだろうし、そのなかで生産履歴がはっきりしていることも当たり前のことになっていくと思うからである。
 このような取り組みが評価されれば、産地として完売ができ、価格の維持と生産量の維持、つまり減反面積も少なくなることにつながるだろう。
 今、管内には環境保全米づくりに取り組んだほ場にはそれを示す旗を立ている。実は今年のような不作のなか、この旗が立っているほ場にはいもち病の被害も少なく不稔割合も低いことが明らかになっている。こうした実績を目の当たりにした多くの生産者が、環境保全農業の大切さに気づき、今、組合員からJAに対して来年からの生産方針、栽培基準などについて集落説明会を開催してほしいという要望が来ている。
 また、支店ごとに設置している稲作部会の部会長には職員とともに卸や生協などに営業活動に出向いてもらってもいる。そうした体験をした組合員からは、「環境保全米の取り組みは大歓迎された。うれしかった」という声を聞いた。組合員は自分たちの取り組みの確かさを肌で感じ始めており、私も組合員の喜ぶ声を聞くのがうれしい。
 今後は生産履歴記帳運動で集積されたデータを分析し栽培技術の向上など産地全体として環境保全農業への取り組みへの議論の材料としていきたい。
 また、野菜の生産では、宮城生協と提携して店舗に旬菜市場コーナーを設けており、女性部や高齢農業者が収入を得る場として生産を奨励していく。また、畜産との連携により自然循環農業を実現することも大きな課題としている。
 JAにとって経済事業改革は大きな課題だが、単に事業が赤字か黒字か、あるいは生産資材価格が高いか、安いかという議論ではなく、今後、地域農業をどう構築するのか、そこがJAにとっての原点であることを忘れてはならないと考えている。(談)

(2003.10.17)


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