農業協同組合新聞 JACOM
   

特集「改革の風をふかそう 農と共生の世紀づくりのために」

【現地ルポ】 素速い選択と集中で全国大会決議を先取り
物流コストを大幅削減

JAあきた白神(秋田)

 JAあきた白神の経済事業改革ピッチは早い。平成13年に全農コンサルを導入し、その提言をすぐ実行に移したせいもあって、昨秋のJA全国大会が掲げた課題をたくさん先取りしている。最近ではLPガス事業から撤退した。「選択と集中」の決断が鮮やかだ。13年度決算では1億8700万円余の当年度剰余金を計上し、繰越損失金を縮小するという成果も挙げた。改革に取り組む考え方や手法は数々の示唆に富む。走り出しながら体制を整えるという同JAならではの体質も印象的だ。

  組合員に軸足置いてメリット還元を優先

◆配送拠点を集約

 JAあきた白神は、物流合理化で劇的にコストを削減した。メリット還元にも工夫して「商系の店に負けない価格の生産資材も出している」と小林一成組合長は語る。JAがいくら経済事業改革を唱えても、メリットが目に見えないと組合員には、その掛け声がぴんとこない。このため値下げを重視した。「あくまで軸足を組合員に置いている」とのことだ。
 同JAの改革実績は、昨秋のJA全国大会決議を先取りした部分が多い。例えば1昨年4月から12支店の在庫をなくし、生産資材の配送拠点を能代港の倉庫に集約した。肥料などは、この拠点からの一元配送だ。
 生活資材のほうは能代と二つ井という2配送センターを拠点とした。といっても配送はしない。生活品は組合員の自己引き取りを基本としている。ただ、この2センターにも、農繁期の当用に応じる生産資材だけは用意している。いずれにしても在庫は計3個所に減った。
 受注窓口も能代配送センターに一元化した。以前は支店ごとの受注で合計36人が電話を受けていたが、今は9人(専門担当は4人)が利用者無料のフリーダイヤルで受注。農繁期は休みなしで、発注もここから。
 15時までの受注は翌日配送。以後は2日後となる。以前は即日配送があったが、今は戸配を含め運送をすべて外部委託したため、こうなった。しかし「どうしても」という緊急時には職員が資材を積んで走る。このへんがJAのつらいところだ。

◆経費倒れなくなる

 さらに各支店にいた購買担当者12人を本店の経済課に集中。推進に特化した外務として組合員巡回をしている。支店の在庫管理業務などががなくなったためだ。部制は一昨年、全体の機構改革ですべて廃止した。3事業本部制(総合企画、金融共済事業、営農経済事業)に改め、常務3人が各本部長として、それぞれの課を統括している。
 こうしたリストラの中で平成14年度は物流人件費を1億円も削減した。改善前の12年度は物流のトータルコストの中に占める人件費が68.5%だったが、それが33.5%に下がった。
 供給高は42億円台だが、従来は物流トータルコストが供給手数料を上回り、損益は2000万円前後の赤字だった。しかし14年度は5700万円の黒字に転換した。供給高に占める物流コスト比率は全国平均で約21%にも及ぶ。これを15%程度に下げようというのがJA全国大会方針だが、あきた白神では、とっくに、これをクリアした。
 もともと同JAの物流コスト比率は12年度でも14.5%と低かったが、14年度には7.7%にまで下がった。これは人件費のカウントの取り方が異なるために全国平均の数字より低すぎる水準にあるとも見られるが、とにかく改革の実績は大きい。

◆奨励措置で値引き

 そしてスピード感をもって改革の成果をメリット還元している。大口利用者重視だけでは小口農家の不満が出るため、小口にも奨励措置を広げた。
 例えば予約購買では、肥料の早取り奨励として11月から12月に引き取れば当用価格の6%引き、1月と2月は4%引きといった具合だ。総花的に各資材をわずかずつ値引きするよりも効果的に推進できる重点銘柄奨励も肥料5・農薬7・保温資材3品目で実施した。利用の伸びはさらに値下げを呼べるからだ。
専任渉外体制による組合員へのサービス提供も拡充した。
 しかし農畜産物の販売高は大幅な減少傾向にある。主産のコメは生産調整の拡大に加え、昨年の場合、秋田の作柄はまあまあとしても、系統外の業者が入り込んで集荷率が落ちている。野菜は冷夏のためミョウガの消費が伸びず、キャベツもダメ。あとは冬場のネギと山ウドに期待をかける状況だ。
 販売品と並んで「購買品の供給高も右下がりで伸びない。コストを抑える仕組みができたのだから、その効果を発揮するためにはやはり専任の推進外務が十分に機能を発揮して、事業収益を確保する体制が求められる。メリット還元で購買品値下げも進めるから収益確保は厳しい。コストダウンには限界がある」と総合企画本部長の今立裕常務は悩みや課題を挙げる。
 組合長の持論は「足を使って仕事をする」こと。「JAの窓口を農家の庭先へ」がJAの方針だ。そこで支店の購買担当者を本店に集約して巡回制の「出向くサービス」を実現した。

◆支店を「金融」に特化

 さらに昨年12月8日には、12支店1出張所を4支店に再編した。支店業務を信用と共済に特化し、金融事業の拠点とした。1支店当たり職員数は20人前後となり、ここでも金融渉外担当を増やして訪問に努めている。
 金融事業に特化したため支店ごとの損益計算もしやすくなったが、貯金ばかり集める支店の収益が悪化し、貸出を増やす支店が良くなるという格差をどうするかの課題も出てきた。
 これよりさき10月にはLPガス事業から撤退し、全農の子会社・燃料ターミナル(株)に営業権を譲渡した。もっと以前には、赤字累積のAコープ店2店を合併直後の10年と翌11年に早々と閉鎖しており、店舗は商系のスーパーに賃貸している。

◆理事の理解が「断行」の力 「委員会」設置で成功

 どこのJAでも経済事業改革の断行に当たっては非常勤役員の理解がポイントになる。あきた白神では合意形成に向け、理事と監事からなる「改革実行検討委員会」をつくったのが大きな特徴だ。委員会は「支店再編成」「営農指導体制」「経済事業」の3つで、それぞれ理事ら7人で構成。14年4月に立ち上げ、その下に課長クラスからなるプロジェクトがついた。
 支店再編成の場合、最初はプロジェクトが5支店構想を打ち出したが、委員会が4支店を主張。これが理事会を通った。地区別の議論では委員会案への反対も出たが、委員である理事たちが説明責任を担った形だ。
 普通は常勤役員が前面に立つが、ここでは非常勤役員同士の討論が活発だった。このため総論賛成・各論反対的な理事の動きは見られなかった。もちろん合意形成のためには集落座談会や女性部、生産部会など、あらゆる集まりで話し合った。
 営農指導体制では3つのセンターに分かれて駐在していた営農指導員9人を昨年4月に営農生活課に集中させた。3センターは施設管理と取り次ぎの仕事だけとした。
 改革前の業務調査では、本来の「出向く営農指導」に費やす時間が年間半分もなく、生産部会や行政の事務などに費やされていることが判明。このため拠点配置で機動力を高めた。しかし巡回訪問といっても最近は家にいない農家が増えて、カラ振り対策が重要だ。このため推進外務との連携を強めている。
今立常務
今立常務
 「改革に当たっては全農コンサルの役割が大きかった」と今立常務は振り返る。導入は13年2月。提言の中には「改革プロジェクトの構成は40歳代以下の職員とする」というのもあり、これは大当りだったという。若い世代ならではの斬新なアイデアがたくさん出たという。改革実行検討委員会の設置という手法もコンサルの助言だった。
 しかし配送拠点集約をめぐっては「余り急ぎ過ぎると、あとの支店統合にも影響するのでは?」と、かえって全農側が心配する一幕もあった。しかし「あくまで組合員に軸足を置く」という立場で改革は回転していった。


◆ガス事業撤退にはこんな事情も

 LPガスからの撤退は能代市がガス事業を民営化したことが引き金になった。秋田市のガス会社などが入り込んだが、プロパンも売っているためJAの顧客が減少した。一方、ガス事業は規制が厳しく、装備にカネがかかるため今後を展望すると経費倒れになると見て、JAは全農の燃料ターミナルに事業譲渡した。同JAの「選択と集中」の決断は早かった。

「JAとして何をなすべきか」−全農の限界も考えて−
小林一成組合長の話

小林組合長
小林組合長

 全農に資材価格の引き下げを求め続けても、そこには限界がある。単位JAとしても何をなすべきかをよく考え、やるべき改革は徹底的にやらなければいけない。私どもとしては例えば陸送より海上輸送のほうが安くつくため、ヨルダン肥料のアラジンを能代港に荷揚げしたという取り組みなどもある。
 日本全体のJAがよくならないと、抜本的な改革にはならないが、1個所だけでも体制ができれば、それに見合うメリットを組合員に還元し、ほかのJAを引っ張っていく形も良いと思う。みんなで1歩というより1JAが百歩進んで、ほかが、それに学ぶ形もある。
 どのJAにも当てはまるという文書は全農にはない。しかし限られたページ数の中にも自分のJAに当てはまる部分が必ず含まれている。そこを捉えるべきだと職員にいっている。
 昔話だが、全農の総代は施設見学が重点の研修を受ける。しかし私は見学だけでなく、若い全農職員と徹底的に議論し、その職員が提言した韓国からの肥料輸入に努め、実現した。しかし韓国も経済成長で輸入メリットはなくなり、次がヨルダン肥料の開発輸入という流れになった。それを全国で最初に買ったのはJA能代市だった。
 全農が供給する生産資材の品目は多すぎる。水田除草剤にしても高価だから良いというものではない。結局は水管理をしっかりしないと値段に見合わないと利用者から苦情がくる。そうした使い方とのバランスや使用面積もよく見極めて全農は扱い品目を絞り込むべきだ。

 JAあきた白神(秋田県能代市富町)  
JAあきた白神(秋田県能代市富町) ▽組合員数7270人(うち准組合員1597人)正組合員戸数5374戸▽販売高約62億9200万円。主産はコメ46億円、長ネギ4億7000万円、ミョウガと山ウドが2億円台▽JA貯金342億円。同貸出金109億円▽JA共済の長期共済保有高2816億円▽正職員数は合併当時の265人から15年3月末には178人。

(2003.12.25)

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