農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 第49回JA全国女性大会 農と共生の世紀づくりは私たちの手で

現地座談会 夢、知恵、元気を生み出す「JA女性大学」

JA北信州みゆき(長野)

 長野県のJA北信州みゆきでは、地域の女性リーダーや女性後継者育成のために、平成13年10月に「JA女性大学」を開講した。講義は、農業や食、子育て、地域の歴史、文化、生活設計などの幅広いテーマで、月に1回から2回開かれ、2年間で卒業を迎える。昨年9月に1期生が卒業。10月から第2期がスタートした。
 今回は1期生と2期生に集まってもらいJA女性大学について話し合ってもらった。

◆一歩踏み出す勇気を持って「女性大学」へ

――最初に女性大学に入校しようと考えたきっかけをみなさんそれぞれお聞かせください。

仙石和代さん
仙石和代さん(32歳)
第1期女性大学生。1期で運営委員を務めた。飯山市常磐在住。夫の両親と子ども2人の6人家族。最近は野菜づくりにも取り組み直売所で販売も。1期生のOB会「和み会」会長。

 仙石 JAとしても初めての試みだということでしたが、申し込み用紙を見たら2年間の講義内容がかなり詳しく載っていて、いろいろなことを学べるんだなと思いましたね。
 講師にはその分野の専門家やテレビや雑誌などで知っている有名な方もいてこれはおもしろそうだなと。そのころは本当に子育ての真っ最中で、子育てと家事に追われながら、毎日が同じリズムで終わっていくんですよね。外に出るということが少なかったので自分のために勉強に行きたいと思いました。

 石川 私はそのころあせっていたんです。子育てが一段落して、自分で何かしたいと思ってはいましたが、何がしたいのか分からないし、何ができるのかも分からなかった。同年代で自分のやりたいことを見つけてがんばっている人がいるのにという気持ちもありました。
 そんなときに新聞の折り込みチラシで女性大学のことを知ったわけです。ただ、申し込むだけの勇気がなくてカバンに入れたまま、どうしようかな、だれか一緒に入校する人はいないかなと迷っていたんですが、そこにJAから誘いの声をかけてもらったので決めました。
 やはり講座の中身が幅広いことが魅力で、そのなかから自分のやりたいことが見つかるかもしれないとわくわくして入校したんです。

――2期は昨年の10月に開校してこの1月までに5回講義がありました。2期生の松沢さん、小坂さん、入校のきっかけやこれまでの感想などを聞かせてください。

松沢美穂さん

松沢美穂さん(28歳)
第2期女性大学生。運営委員、グループ班長。飯山市秋津在住。8人家族で4歳と1歳の2人の子どもの子育て真っ最中。祖父母のアスパラづくり、米づくりを手伝うことも。

 松沢 子どもが本当に小さい時期は夢中で子育てしてきましたが、昨年、上の子どもが保育園に入ると少し時間にゆとりができました。そうなるといろいろ考えるようになって、たとえば、独身の友だちと話をすると好きなことをやっていて、自分だけ何か社会から取り残されていると考えるようになってしまった。
 でも何をしていいか分からないなと私も思っていたんですが、そのときに女性大学を知ったんです。2年間にいろいろな体験ができるというのが魅力で、入校してみて楽しく、自分がどんどん学んでいるということを実感できています。

 小坂 私は長野市から嫁いできたものですから、友だちが少ないんですね。だから、こういう場に参加すると友だちも増えるなと思いましたし、結構、話し好きなんですが、人前で改めて話をするとなると、緊張してしまうんですね。こういうことも班長になって仲間に話す機会も増えるでしょうから、少しづつ慣れていくこともできるのかなと思っています。

◆食と農、健康の大切さを実感

――とくに勉強になったなと思うことはどんなことでしょう。

小坂正美さん

小坂正美さん(35歳)
第2期女性大学生。運営委員、グループ班長。7人家族。花き、野菜栽培を手伝う。野菜の直売出荷にも取り組む。

 仙石 私がとくに勉強になったと思うのは、食品添加物のことですね。自分でも料理が好きですから、食には関心があったのですが、講義だけでなく実際に目の前で先生がオレンジジュースを作る実験をしてくれた。それで市販のジュースは本当に食品添加物がなければできないんだなということがよく分かりました。
 それから外食のファストフードなども生鮮野菜以外は輸入農産物で作られているということも教えられて、非常に強烈な印象を受けました。
 こういう話は帰ってから家族にすぐに話しましたね。その先生の言葉で覚えているのは、食べ物というのは命のあるものを食べなくてはいけない、それが自分たちの命につながることだということです。たとえば、ジュースにしても、家にあるリンゴをすり下ろしてジュースを作るほうが、たくさん命を食べていることになる、本物を食べなくてはいけないということがすごく心に残っています。

 小坂 食については私たち2期生も先日、表示についての講義があったんですが、これはみんなの関心が高かったですね。私自身もきちんと知りたいと思っていました。
 買い物に行っても食料品には輸入品が多いことは知っていましたが、ついつい輸入品も買っていました。しかし、講義を聞いて国産品の良さ、大切さを知って、安いから買う、という買い方をしなくなりましたね。食品の表示をしっかり見ていけばそこは分かるわけですから、表示を正しく読みとるというのは大変に勉強になりましたし、値段だけではなく国産品がそろっている店舗を選んで買い物に行くようになりました。

石川和美さん

石川和美さん(36歳)
第1期女性大学生。木島平村在住。夫と子ども3人の5人家族。第1期では運営委員を務めた。1期生でつくる専門コース「食と農」の班長。

 松沢 2期からは講義を聞いたあとにグループ討議をすることになっています。食品表示について学んだときは、両親が農業をしている家がほとんどなのですが、これまでは野菜がたくさん穫れすぎて余るほどになると、どうしよう、困ったな、とつい思っていたけれど、やはり自分の家で作ったものがいちばん安全なのできちんと消費できるように自分たちの家でも努力していかないといけないね、という話ができました。改めておじいちゃん、おばあちゃんの作る野菜はありがたいなと思いましたね。

 石川 私はモノをつくることが好きなんですが、フラワーアレンジメントを初めて体験できたことがよかったですね。それまではお店に売っているものを見て、あんなものは自分でできるわけがないと思っていたんですが、それができちゃった。あまりにも立派にできたものだからみんなに見せびらかしたくて職場に持っていきました(笑)。
 まさか自分で作れるなんて思ってもみなかったことが、女性大学で実際にこの手でできたということです。

 仙石 地元の大豆を使った豆腐づくりなど、自分の手でつくるという体験ができるのもいいですね。

◆地域や家族も元気に学びの体験が力に

――女性大学の体験を通じて地域や家族との関わりのなかで何か変わったことがありますか。

 小坂 たとえば、食事もいろいろ考えるようになりましたね。家では白菜やキャベツをたくさん作っていて、今はそれを雪の下に保存してあるわけです。子どもはハンバーグが大好きなんですが、ただ、ハンバーグをつくると肉だけになってしまうので、そこで家の白菜やキャベツのロール巻にして出したりするようになりました。子どもには、ハンバーグを野菜で巻いたんだよと言えば、野菜もしっかり食べる。やはりちょっとした工夫で野菜を使い子どもたちに食べてもらう、こういうことも女性大学に通って考えるようになったと思います。

 松沢 「夢をかなえるライフプラン」という講義では、今まであまり考えてこなかった将来設計のことについて考えさせられました。感想は、人生にはお金がかかる、です(笑)。10年後、と言われても最初は遠い気がしたんですが、いろいろ説明を受けていくとそれほど先のことではなく、税金や、年金、保険のことなどこれからの家族の生活設計を考えるうえでとても勉強になりました。年金のことが最近は話題になっていますが、どんな話になっているのか、どこで聞いていいのかも分かりません。それが具体的に聞けましたし、困ったときの相談窓口も教えてもらえるなど実生活にとても役立つ内容でしたね。 これから壁にぶつかったときにも役立ちそうですし、夫とも今後の生活、人生について話し合っていく材料がもらえたと思っています。

 石川 具体的にどこがどう変わったというよりも、いろいろな人と出会えたことが自分を変えてくれたんじゃないかと思っています。
 私は子どもにがんばれ、がんばれとよく言うほうなんですがそれは子どもの負担になると言われますよね。なぜ負担になるか考えたんですが、母親の自分ががんばってもいないのに、がんばれと言うからなんだと。だから、自分ががんばっていれば、ママもがんばるからあなたもがんばろうねと言えるなと思って、どんな忙しくても出席しようと考えましたね。
 やりたいことが見つかったかというとそうでもないんですが、以前は、結婚して子どもができてだんだん年をとっていくという人生なんだなと漠然と思っていましたが、それだけではない道が見えた。自分は何でもできると思えるようになりました。
 自分の住んでいる地域についても関心を持つようになりました。今、市町村合併が問題になっているんですが、以前はずっと他人事だと思っていて。だれかが問題にしてくれる、あるいはなるようにしかならないと思っていました。けれどいろいろ勉強して知るようになると、合併問題も身近な問題として考えられるようになり、今はグループをつくって行動を起こしたりなどの活動もはじめています。
 以前は、地域に対して思いはなかった。こんな田舎でこんな雪深いところに来てしまってと思った(笑)。でも、今はこっちに来てよかったなと思います。そして、地域のことも人任せではなく自分がやらなくてはいけないという気持ちになってきました。

 仙石 受講しているころは、子どもが本当に小さくて子育てのストレスも感じていました。でも、月に1回か2回の女性大学に来ると、気が晴れるという面もありました。勉強もできるし、ストレス解消にもなったということでしょうか。
 家に帰っても余裕が出る、元気が出るという感じで、家族にも優しくなれるような気がしました。おかあさんが楽しく元気でいれば、明るく楽しくなりますから。自分だけの時間を少しでも持つということが大きかったということでしょうね。

◆学ぶ、交流する、を生活の「核」にしていきたい

――1期生のなかには卒業後の学習の場をつくっていこうという話になっているようですね。

 石川 はい。自主的に勉強していこうという話が出て、それをJAがバックアップしてくれる形で専門コースというのを始めることにしたんです。
 私がまとめ役となっているグループのテーマは「食と農」です。希望者は20人を超えていて年に4、5回の活動をしていこうと考えています。
 本当は自分たちだけで自主的な活動を立ち上げ運営していくのが理想ですが、まだなかなかそこまで力がなくて。場所の確保や講師への依頼、連絡などいろいろな問題についてやはりJAのお手伝いがないとできませんね。

――学ぶという機会、仲間と交流する機会を生活の核にしていこうということですね。
 では、JAのこうした活動についてはみなさんどう思っていますか。JAへの期待や注文も含めてお聞かせください。

◆地域の未来を考えるJAに期待したい

 仙石 昔は私たちのような20代、30代の女性がJAに集まる機会というのはほとんどなかったし、つくろうと思っても難しいことだったのではないでしょうか。
 この女性大学では子ども連れで参加できる農業体験講義などもあって、子どもも含めてJAの活動を若い人に知ってもらえるという機会になっているなと思います。

 松沢 確かにJAが身近な存在になったと思います。農協といえば、おじいちゃんとおばあちゃんしか用事がない、というイメージしかなかったんですが、女性大学や女性部の活動を通してJAが身近になりましたね。

 石川 女性大学だけでなく、JAは子どもたち向けの「あぐりスクール」も開設していますが、最初は外から見てるとそういう活動がJAにとって何のメリットになるんだろうと思いましたね。
 しかも、農協だから農業のことだけ教えるのかなと思ったらそうじゃないんです。結局、いろいろな会合などに出席して分かってきたのは、JAは地域に密着して地域の人々をバックアップしてがんばっていこうとしているんだなということです。

 小坂 私も実家が農業をやっていましたからJAのことはもちろん知っていましたが、やはりお年寄りが関わるものという感じでしかなかったですね。それがこっちに住んでみると、JAが飯山地域に住む人みんなにものすごく活発に働きかけているんだなという気がしました。飯山のことを考えてくれる存在という感じがします。

――みなさんの今後の活躍に期待します。ありがとうございました。

JA北信州みゆき「女性大学」
 講義のおもな内容は▽地域とJAの人づくり・組織づくり▽食品表示を正しく読みとる▽フラワーアレンジメント体験▽わが家の生活設計▽安全な農産物と食品の選び方▽地元大豆でおししい手作り豆腐づくり▽子どもの心理と子育て▽上手な話し方など。
 農や食だけでなく暮らし全般に関わる講義が行われているのが特徴だ。
 一回の講義は2時間程度。日帰り研修もある。2年間で50時間以上出席すると卒業。講義を聞いたあとグループ討議を行い出席者で意見交換をするなど、受講生の交流にも務めている。また、子育て中でも参加できるようにJAは託児も行って若い女性を支援している。
JA北信州みゆき「女性大学」 JA北信州みゆき「女性大学」

座談会を終えて 石田正人組合長に聞く  

いつもみんなの夢がふくらむ地域にしたい

石田組合長
 石田組合長は今年のスローガンに「協同の力で元気の泉を堀立てよう」を掲げている。「ひとつひとつの元気の泉は小さくてもみんなで掘れば大きくなる」と話す。高齢者、青年農業者、そして女性と地域に暮らすすべての人々の「総参加」での協同組合づくりをめざしている。
 なかでも女性の元気がこれからの農村地域にとって重要だとして女性大学を立ち上げた。その内容も農業や食にとどまらず、健康、家族、文化など幅広い内容で、座談会の出席者のみなさんも話しているように、さまざまなことが学べる機会として評価されている。募集定員は80名だが、1期では100人、2期も90人を超えるなど若い女性たちの期待の高さが伺える。
 石田組合長は「先行きが不透明で、何をしていいのか分からなくなっている人は多い。そんななか女性大学で芽を出す基礎をつくってもらればと思う。芽を出す手伝いをJAはしたい」という。地域の将来を担う女性たちが今、さまざまに夢を育みはじめているが「夢のある農村にしたい。単に経済的に豊かというだけでなく、女性も男性も子どもも絶えず夢が膨らんでいくような地域、それがこれからの農村です」と強調した。

 

JA女性部「みゆきSUNLADY」 環境、食など中心に学習と交流

 JA北信州みゆきの女性部は、3年前に部員の公募で「みゆきSUNLADY」との名称にした。部員数は約1600人。本所、支所で学習会や交流会を持つ。
 主なテーマは環境と食。環境については「エコライフセミナー」を年に4、5回開催してきた。取材に訪れた日は「エコ帽子」の製作。鍋にかぶせることで省エネになり、保温効果も十分という生活の知恵を広めようというのが狙い。そのほかゴミ問題、自家製野菜を使ったむだの少ない料理など美しい農村環境を維持していくための実用的な知識を学習している。
 食は地域に伝統食を学んでいる。飯山地方に古くからある笹寿司や海草を使った料理、じゃがいもを使ったなますなど、今では農家でも作る人が少なくなった食を掘り起こし、作り方を身につけて次世代に伝えようという取り組みだ。
  JA女性大学の受講生は女性部員でもある。共同で講義を聞く機会も。阿部智加美女性部長は、「女性大学はJAや女性部に若い女性が関心を持つきっかけになった。いっそう部員も増えています」と話す。そしてさまざまな人との交流を通じて「人生観も変わってくる。自分を高めることができます」と組織活動の大切さを阿部部長も感じているという。
 今後は女性部として直売所を開設して女性の経済的な基盤をつくることも構想しているという。

JA北信州みゆき・SUNLADY JA北信州みゆき・SUNLADY


女性が主役の「直売所」 「農業が、生活が、変わった」

JA北信州みゆき・直売所

 JA管内には、直売所のほかAコープにも生産者が農産物や加工品などを自分で並べる直売コーナーがつくられている。現在、Aコープみゆき店の地物直売部会は220名。新鮮な地元の野菜が買えると地域の人々から支持されている。
 JAの参与でもある大熊妙子さんは「JAの店舗の特徴として直売コーナーはぜひ必要とオープン前に提案しました」と話す。実際に評判がよく、かなり遠方からも買い求めに来る人も出てきたという。
 日本一のきのこ産地だけにさまざまなきのこが並ぶが、野菜や加工品も多い。
 出荷者の一人、足立久子さんは「市場出荷できない規格外のものでも、実はとてもおいしいというものがあります。生産者だけが知るおいしさをたくさんの人に知ってもらいたい」と話す。きのこ生産農家として忙しいが、最近は畑を借りて野菜づくりも始めた。「何を作ろうかと考えるようになって農業にもっと興味が出てきた」。年間を通じて直売所に出荷してみて、並んだことがない品目に最近気づいた。「実はニラが並んだことがない。誰もやらないなら私が、と思ってます」と笑う。ほかの出荷者が出さないようなものを作ることが楽しみになってきた。

大熊妙子さん(右)と足立久子さん
大熊妙子さん(右)と足立久子さん

 大熊さんは、「最初は自家用野菜の余ったものを出荷すればいいだろうと考えていた人もいましたが、それでは売れないことに気づいた。みかけはさほど良くなくても味、品質に自信があるものを出荷しなければいけません。お客さんの反応をみて生産者の意識も変わってきましたね」という。
 なによりも女性たちが自分の財布を持つことができたことの喜びは大きく「やはり経済的な裏づけがあると、今度はこういうものをつくろうという意欲が出る。展望が持てるという楽しさは大事ですね」。
 今後、加工品をもっと増やすことも課題。「農家のかあちゃんたちは技術はいっぱいもっているんですからできるはずです」。大熊さん自身の夢は「農村らしい料理を出すかあちゃん食堂を仲間と開けないかなと考えています」と話す。 

(2004.2.3)


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