農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JAグループ 水田農業ビジョン実践強化全国運動を展開

現地ルポ  ビジョンの実践で明日の地域水田農業をつくろう

JAいわて中央――熊谷健一常務


 4月からの新たな米政策のスタートに向けて全国各地で「地域水田農業ビジョン」づくりが進んでいる。これは地域の将来の農業をどうするのか、担い手や振興作物などについて生産現場自らが考えて明日の姿を描こうというものだ。ビジョンを実現するには、その実践の基盤となる集落単位で具体的な計画を立てることが重要になっている。集落ごとにビジョンを策定した岩手県のJAにこれまでの取り組みと今後の実践に向けた課題などを取材した。

◆全員参加で合意形成組織づくり
 

  JAいわて中央は、ビジョン策定にあたっての基本方針を定めた。
 そのもっとも大きな柱が15年12月末にJA管内に205ある全集落の農家組合で「集落水田農業ビジョン」を策定することだった。
 そのうえで将来の水田農業の具体的な方向を目標として打ち出した。
 産地づくりの主要品目は「小麦」とし、転作田の50%以上を団地化、または土地利用集積する。栽培方法は減農薬とした。
 これにともなって担い手は「米と麦を主体」として育成。ビジョンは18年度まで毎年見直すことにした。
 担い手のうち法人組織を目標とする場合は、農業の多面的機能と環境を守るため集落全員参加型とすることを打ち出した。そして法人化は18年度までに全集落の20%、21年度までに50%を目標として掲げた。残りの50%はJAが担い手になる法人とする方針だ。
 また、法人化にあたってはJAが少しでも出資し、事務、経理、税務をJAが有料で担当することの方針も示した。
 そのほか、米、麦以外の作物は、複合多品目の栽培をめざし売り先はJAが決めること、小麦の後作に機械化できる作物での産地化をめざすことも目標にした。

◆土地利用集積に理解得る

 集落での説明会は昨年の6月からスタート。JAでは平成11年の合併時に集落単位で構成されている農家組合ごとに2〜4人の担当職員を配置する体制をとってきた。今回の集落での説明と話し合いを進めたのもこの担当職員だ。職員は営農部門とは限らず、信用、共済部門の職員もいる。そうした担当職員がJAの営農部門職員や、行政などビジョン策定を支援する担当者との橋渡し役を果たしたという。
 集落ビジョンが策定されるまで最低でも5、6回の話し合いの場を持った。多いところでは、20回を超えた集落もある。
 まずは、なぜ集落ビジョンの策定が必要なのか、実践の当事者となる農家に理解してもらうことが課題となった。熊谷健一常務は「いかに分かりやすく説明するかがもっとも大事。理解が進んだところほどビジョン策定も早かった」と言う。
 「改革」と一口に言ってもなかなか理解は得られない。米消費の減退など米づくりの環境が変わってきていること、国際化が進んで価格が大幅に低下することすら見込まれる状況で、個別ではなく集落全体で対応しなければ経営が成り立たないこと、などを具体的に説明しなければならないという。
 とくに集落で担い手を明確にし農地の利用集積を進める点では、農地の貸し手には小作料が支払われ、さらに水路の管理、畔の草刈りなどに協力してもらって、それに対しても労賃が支払われるなど、当面めざす集落組織のあり方について理解を得ることに務めた。
 今年1月に目標どおり全集落からビジョンが上がってきた。

◆集落型経営体を具体化

 55戸で構成されているある集落では、全員参加でビジョンに合意。75ヘクタールの農地のうち米づくりを50ヘクタール、小麦を20ヘクタール、園芸を5ヘクタールとした。ビジョン策定前よりも小麦の栽培面積を増やし園芸を少なくした。園芸ではJA出荷と直売出荷による品目を検討中で栽培は集団管理していく方針だ。
 担い手は、11人で作る農作業受委託組合とした。また、集落全体で生産資材を共同で購入する。
 農作業では稲の育苗は3年間で全面積分の管理を受委託組合が担うことを目標とし、収穫作業では、麦は全面受託しているが今後は米も面積を拡大していく。それまでは、この組合が個別農家に農作業料金を支払う形で収穫を行う。
 こうした農地利用や農作業について契約を結ぶ形での法人を考えている。集落の構成員全員が参加できる組織だ。経理事務などが増えることからJAは支所に担当者を置きその仕事を請け負う。
 これはある集落の例だが、基本的には集落全体で管理し収益を配分する仕組みを具体化していくのが、この地域の方向だ。
 熊谷常務は「集落で担い手を支える体制をつくるということ。また、高齢農家には環境保全からだけでなく、たとえば食農教育や都市との交流などをめざした活動を担ってもらってもいい。そうした多面的な機能が発揮できる土地利用計画も集落ビジョンづくりでは大事ではないか」と話している。 (2004.3.11)


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