農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 元気な地域づくりとJAバンクの役割

インタビュー JAバンク中期戦略の着実な実行・展開
ローン拡大と店舗再構築2本柱で中期戦略を展開
佐藤純二 農林中央金庫常務理事
インタビュアー 青柳 斉 新潟大学農学部教授

 佐藤常務理事は「JAバンク中期戦略」の具体的内容について、(1)JAバンクローンの伸長による収益力向上、(2)店舗再構築を中心とした効率化によるコスト削減を挙げ、「この2つを軸に利益目標を達成したい」と強調した。特に、住宅ローン伸長に向けた取り組みについては、全国統一の休日住宅ローン相談会を開催するとともに、「ローン営業センター」を設置する予定であることなどを紹介した。
 店舗再構築については、「組合員・顧客サービスの充実を図り、地域の理解を得ること」の重要性について議論を深めた。このほか話題は、JAバンクシステムに基づくJAのモニタリングなどにも及んだ。

◆JAバンクシステムの成果

佐藤純二氏
さとう・じゅんじ 昭和21年生まれ。上智大学法学部法律学科卒業。46年農林中央金庫入庫、平成2年青森支店長、4年組合金融第一本部推進部企画推進室長、8年大阪支店副支店長、10年秘書役、11年人事部長を経て、13年常務理事。

 青柳 約2年前に稼働したJAバンクシステムの成果について、どう評価されていますか。

 佐藤 組合員・利用者の皆さまから、まずまず評価をいただいているのではないかと思います。その証しとして、一昨年4月のペイオフ一部解禁後もJA貯金は比較的堅調に対前年比で伸びていることが挙げられます。また、平成13年3月から減少を続けていたJA貸出金も昨年11月に対前年比で増加に転じました。

 青柳 この2年間で不良債権の問題も、かなり改善されたと受け取っていいのでしようか。

 佐藤 来年4月のペイオフ全面解禁を控え、財務健全化の取り組みを進めてきました。「JAバンク基本方針」に基づく破たん未然防止の取り組みを通じ、不良債権の処理も相当進め、不良債権比率は他業態に比べ低水準にあると思っています。
 一方、地方の景気は依然として良くないし、公示地価もまだ下がっていますから、今後とも協同組織の役割、農業金融の役割を踏まえながら、一定のスピードを持って対応していく必要があると思います。

 青柳 JA貯金の伸びから判断しても、他の金融機関と比べ健闘しているように見えます。JAに対するペイオフ全面解禁の影響や今後の対応についてはいかがですか。

 佐藤 ペイオフ全面解禁については、一部に再延期論も出ているようですが、JAバンクにおいては、あくまで予定どおりの解禁を前提に準備を進める必要があります。
 JAの健全性や良質な金融サービスに対し、皆さまからご評価いただいているところではありますが、今後も引き続きその内容を高めていくことが大切です。また、経営情報のディスクローズをしっかり行い、皆さまの信頼を得ることも重要です。

◆中期戦略の実行で危機を打開

青柳 斉氏
あおやぎ・ひとし 1954年生まれ。京都大学大学院博士課程卒業。新潟大学農学部助手、助教授を経て98年より現職。近著に『農協の組織と人材形成』(全国協同出版)、『中国農村合作社の改革』(日本経済評論社)など

 青柳 JAバンク中期戦略策定の背景にある問題認識をおうかがいしたいと思います。

 佐藤 「JAバンク基本方針」は、農林中央金庫の役割として「JAバンクの総合的戦略を樹立する」ことを定めています。この中期戦略は、ここでいう総合的戦略との位置付けです。
 昨年秋のJA全国大会は、経済事業改革を柱にJAの経営全体を改革しようという大きな方針を打ち出しましたが、JAの信用事業利益をとってみても、このまま何も手を打たなかった場合、赤字に転落してしまうのではないかという強い危機感があります。中期戦略はこの危機をどう打開していくかという観点で策定しました。


◆住宅ローンは相談対応を重視

 青柳 中期戦略の最大のポイントは何ですか。

 佐藤 JAバンクローンの伸長による収益力向上と、店舗再構築を中心とした効率化によるコスト削減、この2つが軸になります。
 住宅ローン推進に重点的に取り組むほか、カード戦略や相続・遺言関連業務の検討なども行い、渉外や窓口を含めたJA全体の営業力を強化します。
 利用者から「選ばれる存在」であり続けるためにも、これらの戦略を確実に実行していきたいと思います。

 青柳 JAの貯貸率は平均30%ほどであり、運用力強化の観点からも貸出をさらに伸ばす必要があると思います。しかし住宅ローンの分野には、住宅金融公庫の廃止を控え、大手銀行だけでなく、他の業界からも参入しています。JAが住宅ローンを拡大していくには、どのような取り組みが必要ですか。

 佐藤 一つには、相談対応型のローン推進が挙げられます。JAバンクとしては初めての試みになりますが、5月および10月に全国統一の休日住宅ローン相談会を開催する予定です。また、大手住宅メーカーや地場工務店等向けの新しい営業チャネルを導入し、定着化させます。住宅ローンの大きな需要が見込まれる地域を中心に全国130箇所に「ローン営業センター」を設けることも計画しています。
 おかげさまで、長期固定金利型の住宅ローン「JAあんしん計画」は、かなりの反響をよび、平成16年2月末現在の実行金額が2307億円に達するヒット商品になっています。また、新型カードローン「JAらくらくキャッシュ」は同月末現在12,000件を超える申込件数となり、平成16年5月にはインターネットによる申込受付も開始します。
 今後も、このような競争力のある商品を開発していきたいと思います。

◆厳しい環境のなかで収支を確保

 青柳 中期戦略では、店舗の統廃合についてもふれていますが、その意義などを具体的にご説明下さい。

 佐藤 まず、JA本来の役割である、組合員や地域の農業振興に対し貢献するという目的を中心に考える必要があります。一方、現在の収支状況では、利ざやがますます縮小する中、先行きを見通すことが難しくなりつつあります。
 JA本来の使命を果たすということは、赤字を覚悟で何でもサービスするということではありません。きちんと収支を確保し、サービスを継続して提供できるだけの環境・体制を整えることが求められます。ですから、収益力向上と効率化によるコスト削減を図ることで利益目標を達成し、内部留保も積んで体質を強化し、次のステップに踏み出していきたいと考えます。その意味で、この3年間は本当に厳しいのだという認識でやっていかないと、次の3年はないと言えます。

◆組合員・利用者への配慮が必要

 青柳 都市部のJAは、支店あたりの貯金量で100億円くらいを確保していますが、地方の農村部の支店は30億円未満が大半です。店舗の統廃合は地域から見ると大きな課題です。組合員離れも心配です。そのあたりの配慮が必要ではないかと思います。

 佐藤 おっしゃるように、一部の地域の店舗では、貯金量が少なくて収益があがらないけれど、組合員との関係から店舗を閉鎖しにくいという事情もあります。店舗を閉鎖すれば、それまで利用していた組合員にとって不便になるというご心配もごもっともです。
そこで、仮に店舗が閉鎖されても代替サービスが受けられるとか、ある面では不便になったとしても、別の、より高い次元のサービスが受けられるとか、そのような配慮が必要だと思います。
 最近では、例えばある県で約400店舗のうち70店舗くらいは、組合員の理解を得て、統廃合を実現できるというところも出てきています。やはり理解を得ようとする意欲と、不退転の決意をもってやってすれば、できないことはないという期待を私は持っています。

 青柳 JAによっては、移動店舗による対応などの代替措置をとるケースもありますね。

 佐藤 もう一点申し上げますと、JAは総合事業体ですから、信用事業だけでなく、経済事業や共済事業もあわせて営む店舗があり、それぞれの事業と足並みを揃えることが不可欠です。そこはJA全中とも十分に連携しながら、検討していく必要があります。

◆統合県での取り組みについて

 青柳 現在までに、信連との統合はいくつ実現しましたか。

 佐藤 宮城・岡山・栃木・秋田・長崎・山形の6県で信連との統合が実現しています。16年度内に、さらに3県の統合を予定しています。

 青柳 統合県では、農林中央金庫が直接JAとやりとりを行うのですね。

 佐藤 そうです。これは統合県だけのことではなく、それ以外の県のJAも含まれますが、現在、JAバンクシステムの運営によってJAバンク中央本部に各JAからモニタリングの報告書が半期ごとに提出されてきます。これを分析し、各JAの経営改善などについてご意見やご提案をしているところです。このような仕組みにより、JA経営の課題なども以前に比べてよくわかるようになりました。これらを踏まえ、統合県の各JAと一緒に一層がんばりたいと思います。

 青柳 どこまでJAを指導できるかが課題となりますね。

 佐藤 県域によって状況は異なりますが、支店にJA担当を配置して、JA毎の特性に応じた対応を行っています。統合県での業務はスタートしたばかりですが、これからも業務を通じてお互いに認識を深めていくことが大事ではないかと思っています。
 また、農林中央金庫にはJAバンクシステムにおける法律上の指導責任がありますが、全中にもJAの経営指導をする仕組みがあり、さらに全中に設置された経済事業改革中央本部による指導の仕組みもあります。今後は、この3つの仕組みを事業ごとにそれぞれうまく機能させるとともに、3つを合わせて一貫性をもった対応をとることが必要です。

 青柳 統合の次に見えてくる大きな課題ですね。色々と貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて
 昨年12月に、JAバンク中央本部は3カ年の「中期戦略」によって、系統JA「一体」としての事業展開の方針や事業利益目標を提示した。今回、佐藤常務理事のインタビューによって、「中期戦略」の背景にあった厳しい現状認識や危機感、また、今後の業務改革や事業収支改善等へ並ならぬ取り組み姿勢を伺うことができた。また、常務理事がたびたび強調した「系統JA一体的展開」のなかで、農林中金の役割が大きく変わろうとしている印象を受けた。
 これまで、中金の主な役割は系統余剰資金の運用であり、系統内部の資金調整だった。それがJAバンクシステムや「中期戦略」を契機に、中金自身が単協への事業・経営指導に直接、関わっていこうとしている。信連との統合においても、従来の慎重姿勢から積極的な対応に転換したようだ。常務理事との話を通じて、農林中金が名実ともに先導的な役割を果たそうという強い意気込みを改めて感じた。(青柳)

(2004.4.9)


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