農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 絆の強化と仲間づくりで事業基盤を確立――JA共済事業のめざすもの

JA共済の諸事業

 JA共済では組合員・利用者の生活を支援するため、保障の提供にあわせて「事故の未然防止」や「事故発生後の相互扶助」などの社会福祉サービス活動を行っている。とくに、これからの最重要課題である高齢社会へ対応する介護福祉士・ホームヘルパー育成や健康・介護に関する無料相談などに力を入れている。
 さらに、交通事故被害者の社会復帰を支援する介助犬訓練事業について、介助犬を必要とする人の原因疾患の大半が交通事故による脊椎損傷であることから、自動車・自賠責共済を展開するJA共済の社会福祉サービス活動としても意義があると考え、昨年度から支援を行っている(詳細は別掲インタビューを)。
 また、心の豊かさや地域との絆づくりを進めるために、子どもたちの助けあい精神をいっそう高めるための文化活動にも長年取り組んできている。


地域や利用者との絆を強める福祉・文化活動
多彩な活動を展開


◆交通事故の未然防止からヘルパー養成まで

 交通事故を未然に防止の観点からプログラム、ミュージカル、交通安全教室の実施、春・秋の交通安全運動への協力などの活動や、交通事故被害者救援のための募金活動も各地で展開されている。
 さらに、交通事故被害者のリハビリ医療のための病院、重度身体障害者のための福祉施設、在宅身障者等のための介護施設の機能を併せ持つ総合型施設である中伊豆と別府のリハビリテーションセンターは、昨年30周年を迎えた。
 また、平成6年度から介護福祉士やホームヘルパーの養成にも取り組んでおり、15年度末で介護福祉士283名、ホームヘルパー3万1490名へ助成した。そして、在宅介護が介護の中心となるなか、高齢者や身体障害者の人たちが、家族とともに住み慣れた家で快適な生活ができるように、「JA共済くつろぎの間」を提供している。

◆4700件を超える電話相談を受付―健康・介護ほっとライン

 生活習慣病(成人病)予防、体力づくり、医療機関の情報提供、介護・リハビリなどの悩みについて専門スタッフに電話で相談できる「JA共済の健康・介護ほっとライン」では、相談件数が年々増加し4700件を超えている。また、健康情報やクッキング情報を無料で提供するFAXサービスも行っており、13年度以降増加傾向。
○JA共済の健康・介護ほっとライン
電話相談サービス フリーダイヤル(0120)481―536(利用時間/月〜金(祝日を除く)9時〜20時)
FAXサービス 03―3265―3811(情報料無料、利用時間/24時間利用可)

 健康管理活動としては、健康診断、人間ドックによる「健康管理活動」、レインボー体操による「健康増進活動」、も実施してきている。

◆今年も開催される書道・交通安全ポスターコンクール

 「文化活動」としては、小・中学生を対象に毎年開催し、今年48回目を迎える「書道コンクール」と、同33回目を迎える「交通安全ポスターコンクール」がある。
 昨年も書道コンクールには126万点、交通安全ポスターコンクールには16万点を超える応募があり、書道コンクールは全国最大級の規模だといえる。
 両コンクールとも今年も開催され、いま全国で準備されている。



介助犬訓練事業
誰にとっても暮らしやすい社会をつくること


◆ペット扱いされていた介助犬――身体障害者補助犬法の背景

 ――平成14年10月に「身体障害者補助犬法」が施行されましたが、この法律はどのようにしてつくられたのですか。

高柳友子さん
高柳友子さん
日本介助犬アカデミー専務理事
全国介助犬協会常任理事

 高柳 この法律ができて初めて盲導犬以外の聴導犬、介助犬が法的に位置づけられました。しかし、盲導犬は50年の歴史がありますが、この法律ができるまでは、道路交通法による位置づけでした。つまり、警察が社会の道路交通の安全を守るために、目の不自由な人が歩いていると危ないから白い杖か盲導犬を持てというもので、盲導犬使用者の社会的なアクセスを確保するものではありませんでした。ですから、盲導犬使用者は宿泊施設とか飲食店で「犬を置いてきてください」といわれていたのが現状です。
 盲導犬ですらそういう状況ですから、聴導犬や手や足に障害がある肢体不自由者の手足の代わりとなって日常生活動作や外出のお手伝いをする介助犬は法律的な位置づけもなく、ハッキリいえばペット扱いで、連れていることがかえって大きな社会的なハンディになっていました。
 肢体不自由者が自立と社会参加のために介助犬を持っても、行けない場所が増え、交通機関を使うにも6ヶ月前から交渉しなければならなかったし、宿泊施設を使うにもペットではないと説明しなければならないなど、大変に面倒でした。
 こうした状況を変えるためには社会基盤の整備が必要だという障害者の声を受けて、何人かの国会議員が動き出し、橋本龍太郎衆議院議員を会長に「身体障害者補助犬を推進する会」を平成11年に結成し、議員立法として平成14年に制定されたのです。法律をつくるからにはキチンとしたものをつくっていただきたいと考えて日本介助犬アカデミーが事務局としてお手伝いをしました。

◆誰でも障害者になる可能性がある

 ――この法律が果たす役割はどういうことですか。

 高柳 盲導犬は歴史もあり、いま全国に927頭いますけれども、介助犬は40頭、聴導犬は17頭しかいないのが現状です。この法律でいま恩恵を受けるのは介助犬でいえば40人しかいないということです。しかし、この人たちだけのための法律ではなく、全国民が恩恵を受けられる法律だと私たちは考えています。
 なぜなら、私たちは死ぬまでには障害者になる可能性があり、誰がいつ、盲導犬や介助犬、聴導犬の使用者になるか分かりません。補助犬が受け入れられる社会、補助犬使用者が暮らしやすい社会は、高齢者にとっても、ベビーカーを使うお母さんにとっても、誰にとっても暮らしやすい社会のはずです。

目録贈呈式の様子
昨年JA共済連は日本介助犬アカデミーに対し研究支援を行うことを決定、その目録贈呈式が昨年7月9日に行われた。

 それは、障害者を受け入れるバリアフリーの社会だからです。そういう視点で社会を見ていただきたいし、この法律は障害者のための法律だということを、広く国民のみなさんに知っていただかないと、この法律の意味がありません。
 もう一つは、障害者の自立支援には、ヘルパー派遣とかロボットとかいろいろな方向がありますが、これを契機に、補助犬という選択肢もできた、そういう法律だということです。

 ――この法律の意味あいを障害者を受け入れる側がキチンと理解しないと、せっかくできたものが役割を果たせないわけですね。

 高柳 どのような仕事であってもお客さんがいる以上、いつ補助犬使用者が訪れるか分かりませんから、この法律についてみんなが知らないといけません。いろいろな誤解もあるので、正しく理解していただくために、医療機関向けと飲食店・宿泊施設・商店など一般事業者向けのマニュアルを作成し、全自治体や保健所に配布しましたし、私たちのホームページからダウンロードできるようにしました。こういった会の活動もJA共済のご支援があったからできたといえます。

◆一人ひとりのニーズに合わせて訓練する

 ――介助犬の育成はどのように行うのですか。

 高柳 肢体不自由者の障害は、視覚障害や聴覚障害と違い、人によってかなり異なります。例えば、右半身が動かない人、関節の動きが悪い人、下半身だけが動かない人、利き腕を切断した人、原因となる病気や事故により合併症があるか、将来的に進行していく(悪くなる)病気かどうかなど人によってさまざまに異なります。介助犬は、肢体不自由者一人ひとりの障害や生活、ニーズに合わせて、オーダーメイドで育成される必要があります。つまり車椅子や杖、義足などの補装具と同じ役割をする「生きた自助具」なのです。
 ですから、リハビリテーション医療と連携して、その人の5年後、10年後を予測しながら自立支援手段として介助犬を渡していかないと、何の意味もないといえます。

 ――先ほど「補助犬が一つの選択肢」になったといわれましたが、介助犬を使わない場合もあるわけですか。

 高柳 介助犬がその人にとって良い自立支援策なのかどうかは考えなければいけません。介助犬を持つことが負担になる場合もありますから…。

 ――どういう負担ですか。

介助犬

 高柳 生き物ですから餌を与えなければなりませんし、排泄物の処理をするとか世話をしなければいけないわけです。それは体力的にも大変ですし、その人の生活のなかのかなりの部分を割かなくていけないので、どれくらいの負担をかけるとその人の生活に悪影響をおよぼすかも考えなくていけません。
 リハビリ医療が関わる意味は、介助犬を持つことを目的にするのではなく、その人がより良く自立し社会参加するための一つの選択肢として介助犬を考えることです。

◆信頼してくれる犬がいることを素晴らしいと思うか

 ――介助犬訓練事業とはどういう事業ですか。

 高柳 介助犬は、車椅子以上に自分の生活に密着してきますし、生き物に対して責任を負うということを含めた新たな生活の始まり、新たな生活構築です。
 そうすると、家族や職場、地域の理解ということを全部含めて、その人の自立支援、生活支援をしていくことが、介助犬訓練事業ということになります。介助犬におきまりの訓練をしてハイといって渡す事業ではありません。
 保護をするのは自立支援ではありません。リハビリをして、その人にとって一番いい自立支援策を選んでもらって、再び社会参加をし、仕事をして税金を払う。そこにゴールを設定していくときに、介助犬は大変に有効です。犬だから、自分自身が責任を持って自己判断し、自己管理ができるそういう存在にならなければというモチベーションになります。生き物の世話をし、責任を持ち、自分自身が常に他者に対して思いやりをもつ生活は、それがないときとは全く違いますよね。子どもをもつのと同じですね。これはロボットや人間ではできないことです。

 ――家の中だけではなく、外出してもいろいろなことが起きますね。

 高柳 家の中だけの介助なら認定を受ける必要はありませんね。社会参加するということは、外出して不特定多数の人と接することですから、面倒なことがたくさんあります。犬にとっても、いろいろな刺激がありますから、常に注意を張り巡らしたり、排泄もしますしね。1、2歳の子どもと外出するときのように計画し準備をしなければなりません。そうした面倒くささをメリットに変えられる人が、介助犬使用者として適性がある人です。
 「面倒なことはゴメンだな」と思う人は、ロボットの方がいいかもしれないし、介助犬を使わないほうがいい選択肢だと思いますね。そのことを、リハビリ医療の側が的確に情報提供しないと、犬にとっても迷惑ですし、障害者にとっても大きな負担になるだけです。
 面倒なことが多くても、自分を信頼してついてきてくれる犬がいることが、素晴らしいと思えるかどうかですね。

 ――リハビリ医療が的確に判断することが重要なのですね。

 高柳 その人の課題は何か。生活上のゴールは何か、人生のゴールは何か。何を達成したいから補助犬を求めている、介助犬を求める。そのことを評価できる人たちがリハビリテーションの専門職だと思います。ただ、いまのリハビリ側の課題は、その人に適しているかどうかの判断をする材料がまだ少ないことです。

◆JA共済の支援で全国介助犬協会を設立

 ――そうしたなかで、JA共済連と連携して全国介助犬協会が設立されたわけですね。

 高柳 私たちは、犬の健康管理も含めて、介助犬を客観的に評価・判断できる第三者機関が必要だと考えてきました。そうしたときに、JA共済連から、介助犬を必要とする人の原因疾患の大半が交通事故による脊椎損傷であることから、介助犬育成支援は自動車共済・自賠責共済を行うJA共済の社会福祉事業として意義があるとご支援をいただきました。
 そして、今後、介助犬訓練事業を普及・発展するために何が必要なのかと聞かれましたので、キチンとリハビリテーションの理念をもって介助犬訓練事業を全うしてくれる訓練事業者を立ち上げていただきたいとお願いして、この協会が設立されました。

 ――最後に今後の課題についてどう考えていますか。

 高柳 障害者は全国にいますから、全国各地で、一つでも多くのリハビリテーションセンターで介助犬訓練事業に携わっていただきたいということです。そういう展望をもって、多くのリハビリセンターが、介助犬訓練事業をやってみようかなと思えるような調査・研究をしていかなければいけないと考えています。
 一方で、継続的安定的に介助犬を提供し続ける事業展開ができる組織が、JA共済のご支援でできたわけですから、さらに人材育成や犬の安定的な供給源を確保し、規模を大きくしていきたいと考えていますので、全国のJAのみなさんのご支援をお願いしたいと考えています。
 最後に、JA共済連には、資金面だけではなく、経営面や組織運営上のソフト面で的確なアドバイスをいただいており、大変に感謝しています。 (2004.5.24)



社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。