農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 安全・安心な畜産物の生産基盤と販売事業の強化

全農安心システムの牛肉取り扱いを拡大
産直事業を伸ばすパック肉も増大
畜産販売部 狩谷哲夫部長

 安全・安心な畜産物を消費者に提供する取り組みを最重点課題として、全農安心システムの拡大で実績を挙げ、15年度は牛肉の取扱数量で目標を大きく上回った。国の法制化に先駆けてJA全農が開発した国産牛肉トレーサビリティシステムの推進も、システム導入産地が広がった。直販事業を中心とする販売力の強化では、牛肉の産直事業を拡大し、鶏卵の直販も順調に伸ばしている。パック肉の製造も増大した。


◆牛肉の需要動向は?


 ――牛肉の販売環境はいかがですか。昨年末に米国でBSEが発生しましたが。

狩谷哲夫畜産販売部長
狩谷哲夫畜産販売部長

 「まず牛肉についてですが、輸入牛肉の中で米国ものは45%を占めていましたから、輸入停止によって、外食業界などで顕著なように、かなり混乱が起きています。消費のほうも最近の総務庁家計調査では、1世帯当たり購入数量が前年同月を下回ったままです」
 「また量販店POSデータでも、1月の牛肉小売量(1人あたり)は67%にまで落ち込み、その後やや回復しましたが、まだ国内でのBSE発生前の需要水準には戻っておらず、一部消費者の牛肉離れが続いているようです」

 ――牛の品種別に見ると、どうでしょうか。

 「同じくPOSデータによりますと、輸入停止による絶対量不足で、和牛の相場が高くなり、消費が落ちています。しかし和牛より安い国産ホルスは堅調で、前年を上回る月が多くなっています」


◆国産品に追い風か?


 ――鳥インフルエンザの影響はどうですか。

 「鶏肉が消費不振に陥って量販店が特売を打ったりして来たことに加え、中国、タイ等からの輸入が停まっている上に、国内生産には増羽しないという傾向が出てきて、需給が締まってきています。
 昨年来、非常に安かった鶏卵は、生産者の供給抑制策が具体化したことに加え、鳥インフルエンザ発生による供給減や、産地での安全宣言による販売環境の好転などにより、4月以降は相場が上昇基調となっています」

 ――豚肉はどうですか。

 「豚肉の消費は前年同月比105―110%と、牛肉、鶏肉の代替需要が伸びて好調です」
 「販売環境を私どもから総括的に見ると、国産品への追い風が吹いている状況ではないかと思います」


◆産地と取引先結ぶ


 ――15年度の畜産販売部の取扱高実績はいかがでしたか。

 「当部の取扱高は3393億円で、3651億円の計画に対して93%でした。計画未達の要因は価格低迷です。卵価が安く、豚肉も年度当初は安かったうえ、肉牛の出荷減少もありました。これは、国内でBSEが発生した後、先行きを心配した農家が若い牛を早出し(出荷)してしまった反動です」

 ――BSEの後遺症ともいえそうですね。では、16年度事業方針の最重点課題である安全・安心な畜産物を消費者に提供する方針についてお話下さい。

 「1つは全農安心システムの拡大です。これは、取引先と農場の契約にもとづく生産管理を、第三者機関が認証した商品を供給するという仕組みです」
 「すでに14年度までに、このシステムにより、牛肉では北海道の宗谷岬肉牛牧場が宗谷黒牛を大阪の生協や高島屋百貨店に供給し、豚肉ではJA鹿児島いずみが福井県のスーパーに供給してきましたが、15年度は新たに北海道の宮下牧場が北大雪牛、また栃木県のJETファームが交雑牛の認証を受け、それぞれの契約先に供給を始めました」

 ――15年度は取扱数量を拡大したわけですね。


◆徹底的に情報開示


 「取扱数量の実績は牛で1615頭となり、目標を415頭も上回りました。豚は産地を増やせなかったのですが、取扱実績は1万2500頭となりました。取扱高は牛と豚の合計で10億円です。16年度は牛と豚で、さらに1産地ずつ拡大する計画です」

 ――もう少しピッチを上げられないのですか。

 「産地を増やすことは、それとセットで契約取引先も増やすということですからね。また、すでに産地指定でつながっている関係をそのまま安心システムに乗せるという方法もとりません。私どもとしては環境負荷の低減とか、例えば放牧の草地に、できるだけ農薬を使わないとか従来の飼育方法よりも進んだ契約内容を考えています」

 ――全農の安全・安心の取り組みでは、2つ目に国産牛肉トレーサビリティシステムの推進という方針もありますね。

 「国の新しい法制化に先駆けて、全農が14年度に開発したシステムです。消費者が自宅や店頭のインターネットで牛の生産履歴を確認できる仕組みで、誰が、どこの素牛を買って、どんな餌を食べさせて、いつ、どこに出荷したかといった履歴が見られます。今年3月末には19産地が導入ずみで、16年度もさらに導入産地を増やします」


◆第一号の認定取得


 「安全・安心対策の3つ目には、新しくできた牛肉の生産情報公表JAS規格に関わる第一号の認定を今年4月15日に取得したことがあります」
 「このJASマークつき牛肉を販売するためには、生産、加工、小売の計3段階が、そろって認定を受ける必要があり、全農としては中央畜産センターが『小分け業者』の認定を受け、パック加工をしています。産地では鹿児島県経済連と宮下牧場(北海道)、部分肉加工では(株)JA食肉かごしまの工場などが認定を受け、すでに大手量販店が、その商品を販売しています。認定は農水省の登録認定機関がします。全農は各産地などでの認定取得を広げていく方針です」
 「豚肉についても、同じ制度が7月下旬に施行されるので、これも認定を取得したいと思っています」

 ――鶏卵の安全・安心対策はどうですか。

 「『しんたまご』や取引先のPB卵を中心に鶏卵生産者紹介システムというのをつくりました。これはパックのラベルのコード番号を見て、パソコンや携帯電話でアクセスすると、生産者や鶏の疾病対策までがわかる仕組みです。今は19産地が導入しています」


◆事業拠点の拡大も


 ――次に品質管理についてはいかがですか。

 「15年度は鶏卵の販売所と液卵工場を中心に9事業所・工場で、品質保証の国際規格であるISO9001の認証を取得しました」
 「食肉では九州畜産センターの鳥栖のパックセンターがISOとHACCPを合体したSQF2000を今年1月に取得しました。今後もパック工場ではSQFを取得していきます」

 ――重点課題では次に直販事業を中心とした販売力の強化がありますが。

 「小売店側も、産地を明確にした販売を望んでいるため、産直事業を拡大しています。15年度は牛肉で広島の生協と北海道の農場、イオンと栃木の農場をつなげたりしました。鶏卵は全農鶏卵(株)が直販機能を担っつており、取引先の特殊卵や全農ブランド品を中心に順調に伸びてきています」
 「事業拠点の拡大では今春、近畿畜産センターの和歌山畜産駐在事務所を設置し、手薄だった南大阪から和歌山方面のエリアで事業強化を本格化します。取引先は同地方大手の量販店とAコープが中心で年間売上40億円を目指しています」

 ――量販店のバックヤード機能を担う加工事業はどういう状況ですか。

 「パック肉は全国7工場の月間製造数量が14年度は600トンでしたが、15年度は月間650トンと実績を向上させました」

 ――最後に、商品開発の取り組みはいかがですか。


◆新商品開発着実に


 「全農は、飼料等にこだわった畜産物の開発力を持っていますから、これを活かした素材面での新商品として7月には、抗菌性(抗生物質、合成抗菌剤)の飼料添加物を使わない人工乳と飼料で育てた豚肉の販売を始めました。また、パン屑を飼料に添加して育てた豚も西日本くみあい飼料(株)との連携で商品化し、中国地方の量販店などにつなげています。肉が締まっていて、おいしいと好評ですが、ゴミ減量の面からも消費者の支持を得ています」
 「以上は素材面の特徴商品ですが、一方、調理品・加工品でも、こだわりをもった素材を使って、例えばハンバーグやギョウザを出しています。また女性のライフスタイルの変化に対応した1.5次加工食材を出して売場確保に努めています」
 「1.5次加工というのは、肉などの串差し、トンカツ用などの衣つけやタレつけ、また鍋容器に野菜や肉を盛り合わせたキットなど、家庭で手軽に料理を楽しめる食材つくりです」
 「また、生産者の期待に応えるという開発コンセプトからも、例えば、産地直送事業における販売先の原料指定に合致しなかった肉でハンバーグ等の加工品を作るような事業も展開します」

(2004.7.20)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。