農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 改革の風を吹かそう、命と暮らしを守る21世紀の農業とJA全農の役割

 物流合理化を切り口に三位一体の経済事業改革を

JA全農物流改革推進グループ

 「物流改革」はJAグループ経済事業改革のもっとも重要な柱だといえる。物流の合理化は以前からいわれてきていたが、いまいわれていることは、単に物流を合理化すればいいということではなく、物流改革を一つの起爆剤として経済事業全体の改革を推進しようということだ。全農事業改革・システム推進部の物流改革推進グループはその中心的な役割を担っているといえる。そこで彼らが推進している「物流を切り口とする三位一体の経済事業改革」について、改めて考えるとともに、先進県である全農茨城県本部とJA水戸の事例を紹介する。


◆JA経営を圧迫する非効率的な物流 物流コストの7割は人件費

 第23回JA全国大会は、今後、信用・共済事業の収益低下が見込まれることから、構造的な赤字体質の経済事業の収支確立が緊急の課題であるとし、「組合員の負託に応える経済事業」を最重要事項とする大会決議を決定した。現在、全国のJAで経済事業改革が進められているが、農家戸配送を中心とする「物流改革」はその大きな柱として位置づけられている。
 JAによる肥料農薬や生産資材の農家組合員への戸配送は、JA経済事業の重要なサービス業務として組合員から高い評価を受けている。しかし、その非効率的な業務運営によって、高コストなど多くの問題点と解決しなければ課題をかかえ、物流を含む生産資材品目の事業損益が赤字となり、価格競争力が低下し、JA経営を圧迫する要因となっている。
 JAによる農家戸配送の問題点は、各支店・支所、購買店舗などの配送拠点からの多段階・分散配送をしているために、それぞれが受注頻度が低い商品を含めて在庫をもち、しかも担当者の勘に頼った精度の低い在庫管理を各在庫場所で行なっていることによる過剰在庫となっていること。分散配送や配送数量のピーク時に合わせた要員配置、電話で注文があればたとえ肥料1袋でも醤油1本でも、即時・即日に正職員が配送する多頻度・小口配送が恒常化がされるなど、要員の非効率な活用・配置による高い物流人件費比率によって、物流コストが供給高の20%前後を占め、JAの規定手数料を超える高コスト体質になっていることだ。
 とくに、物流人件費は多くのJAで、物流コストの70%前後を占めており、これが高物流コストの最大の要因となっているのが現状だ。物流コスト低減のためには、物流人件費の削減が大きな課題となっている。
 このほかにも、組合員の購買履歴などの物流情報が営農経済渉外活動に活用されていないなどの問題点があるが、効率的な配送体制の確立と物流人件費率の削減が、物流合理化の大きな柱といえる。

◆県域物流の導入でコストを削減

 JA全農は以前から物流合理化に取り組んできたが、それまでの成果と課題を整理し、JA全国大会前の15年8月の生産資材事業委員会で「事業(物流)改革構想」を決定。さらに同年12月には「県域物流マスタープランの手引き」を策定するなど、積極的に物流合理化を推進している。
 その基本的な考え方は「JAにおける物流合理化を切り口とした三位一体の経済事業改革の実施」だ。それは「物流改革」「営農経済渉外員制度の導入」「生産資材店舗の整備」に一体的に取り組むことで、(1)生産資材価格の引き下げ、(2)JA経営収支の改善、(3)組合員の利便性の確保とサービスの向上、(4)組合員利用の拡大など、JA経済事業改革を実現しようというものだ。
 「物流合理化」は、JA単独での物流合理化に比べて、(1)配送拠点の作業コスト、事務・業務コストの削減、(2)情報システム経費の削減、(3)運賃水準の引き下げなど、より大きな改革効果を実現するために、「農家戸配送業務(受注から入出庫・保管・配送まで)の連合会への委託を基本とする広域(県域・ブロック域)物流体制を構築」する。JAは連合会に物流業務を委託することで、購買店舗など一部を除いて在庫を持たなくてよいし、配送のための要員を配置する必要がなくなるので、物流コストを削減することが可能になる。
 広域物流を行なう拠点の基準は「JAグループ物流改革の実行指針」にもとづいているが、(1)配送金額・数量が17億円・1万4000トン以上、(2)1JAで1ヶ所か複数JAで1ヶ所など拠点が集約されている、(3)配送範囲が半径20キロ程度(JAの戸配送の場合は支所などから行なっているので2〜5キロ程度)、(4)配送体制は基本的に外部委託、(5)専任体制・配送のルール化・運営コストの把握など運営体制の確立、(6)受注窓口の集約・物流情報システムの導入など受注・事務体制の確立などとなっている。

◆営農経済渉外員制度と生産資材店舗の整備

 物流を県域などに委託することで、JAには余剰人員が生まれるが、この要員をリストラするのではなく、JA未利用だったり利用率の低い大規模農家や担い手農家あるいは営農集団などを訪問し、生産資材などを推進する「営農経済渉外員制度」を導入してここに配置することで、JAとの信頼関係を深め、利用の拡大をはかり収支改善の一つの方策とする。
 さらに、平日は会社などの勤めている兼業農家の土日祭日対応ニーズや専業農家の緊急時や自己取りに対応できる「生産資材店舗」を整備することで、組合員の利便性確保やサービスの向上をはかる。岐阜県のJAひがしみのでは、ホームセンターに隣接した場所に生産資材店舗を出店したが、店の規模は小さいが「農協らしさ」を出すために生産者が厳選した野菜などの苗をおいたところ、家庭菜園をする一般消費者からの評判も良く、ホームセンターが苗から撤退したという。JAらしい品揃えを充実し、利便性を確保すれば、十分にホームセンターなどと対抗できるということだろう。

◆17年度には38県150拠点が216JAに配送

 全農事業改革・システム推進部の物流改革推進グループによると、物流改革についてマスタープラン(MP)の策定を終わっているのは既存構想をMPと位置づけた3県を含めて34県、現在、策定中が6県で、全国40県域で何らかの取り組みが進んでいるという(5月18日現在)。さらに、広域拠点整備の実績と見通しをまとめたのが表だが、15年度までの累計実績で全国32県に86拠点が整備され、その対象JAは107JAとなっている。さらに今年度中に35拠点、17年度に34拠点が整備され、17年度末には、38県150拠点が整備され、対象JAは216JAにまで拡大される予定だ。今年度以降については単なる計画ではなく「具体的な名前もあがっており、ほぼ間違いなく実現できる」(道岡淳全農物流改革推進グループリーダー)という。

広域拠点整備実績と計画

◆確実に低減する物流コスト比率10%を切るJAも

 JAが物流を県域に委託することで、実際には物流コストはどれくらい軽減されるのだろうか。
 県域物流を実施し営農経済渉外員制度「ACSHチーム」を導入した栃木県のJAはが野では、1年間で物流コストが約17%削減され、物流対象供給金額に占める物流コスト比率が9.5%から7.9%に引き下げられた(本紙1901号または本紙ホームページの「特集」「改革の風をふかそう 農と共生の世紀づくりのために」を参照)。
 グラフは全農物流改革推進グループが調査した、15年度までに整備され物流コストが削減された12拠点12JAのデータだが、12JAの加重平均で物流コスト比率(戸配送対象品目の取扱金額に占める物流コスト金額の割合)は、広域物流実施前の17.4%から実施後には11.4%へと6%削減されている。
 個別にみても、当然といえば当然だが、物流コスト比率の高かったJAほど削減効果が大きくなっている。とくに注目したいのは、JA・F、H、Lでは10%を切っていることだ。全農では最終到達段階では物流コスト比率を7〜9%にしたいと考えているが、この3JAはほぼこの目標に到達していることになるからだ。県域やJAごとの事情が異なるため一概にはいえないが、県内全JAが広域物流に移行することや、JA内部に残っている物流業務の見直しをすることで、さらに物流コストを削減することは可能であり、全農の目標にさらに近づけることができるだろう。

県域物流実施12JAにおける物流コスト削減効果事例

5センターから14JAへ配送 茨城

 すでにみたようにいま全国各地域で広域(県域)物流への取り組みが進められているが、茨城県では平成5年5月に、当時の茨城経済連(現・全農茨城県本部)が「専任部署をつくらないと前に進まない」と物流対策部を設置。その年の12月に「物流対策事業基本戦略構想」を提案し、6年2月にはJAなめがたが予約肥料の県域戸配送を北浦・玉造管内で開始する。そして、7年には全国のJAでは初めて「県域戸別配送システム」を稼動させる。さらに10年10月には「新・県域戸別配送システム」が稼動する。
 この茨城県の県域物流合理化対策は、(1)生産資材を中心とした、県域物流システムによる農家組合員への戸別配送と米・麦の庭先集荷、(2)営農経済渉外員制度の導入、(3)JAグリーンショップ(農業資材店舗)の設置の3点をJAへ提案しており、全農が提案する「物流合理化を切り口とした三位一体改革の実施」とほぼ同様の内容となっている。
 現在、つくば・稲敷・県本部県南資材・県本部県西資材・くみあい流通(大洗)の5センターから14JAへ配送しているが、それは県全体の戸配送対象金額のほぼ半分を占めている。これによって、JAの在庫は30%程度圧縮されたという。

JAは高いというクレームがなくなった JA水戸

 JA水戸は11年10月から、予約当用を含めた生産資材全品目の県域戸配を管内全域で開始する。JA水戸は、平成5年に水戸市(旧常澄村)・大洗町・茨城町・内原町・常北町・桂村の1市4町1村の7JAが合併して誕生するが、合併以来の赤字体質や支店・事業所の弱体化による事業実績の低下などを解消し、経営体質の黒字化、事業実績の維持・向上、組合員・利用者サービスの向上を実現するために、支店の統廃合や事務センター設置による業務の効率化など、JA全体としての経営改革に取り組んできている。
 物流改革もその一環として取り組まれたもので「レコード盤に例えれば、A面というよりもB面という感が強い」と同JAの綿引長夫常務はいう。B面ではあっても、県域物流への委託によって、配送コストの削減、在庫の圧縮ができ、さらに営農経済渉外制度を導入(22名)したことで、組合員との営農相談機能が向上した。さらに、定期的な価格調査や渉外担当者からの迅速な情報提供をもとにした仕入担当者による全農との交渉によって迅速な価格変更ができるようになったこと。大口割引(平等から公平へ)の実施などによって、いまでは「組合員から“JAは高い”というクレームはほとんどない」という。
 もちろん「改革」は時間がかかるものであり、すべての課題が解決したわけではないが、県域物流の導入によって、組合員へのサービスが向上し、配送コストの削減、在庫の圧縮などJA経営にとってもプラスの効果が出てきていることは間違いない。

◆燃え上がる改革の炎

 去る6月23〜25日の3日間かけて茨城県水戸市で「農家配送拠点整備講習会」が開催され、全国から主催者である全農の予想を大きく上回る125名が参加し、熱心に物流改革について学んでいた。その後、物流改革推進グループには多くの問い合わせがあり、道岡リーダーをはじめメンバーは多忙な毎日をおくっているという。
 すでに取り組まれている県でも、さらに一歩進めた改革を検討しているところもあるという。外からいわれたからではなく、JAグループの内側から改革への炎が燃え上がってきている証拠だろう。「三位一体の経済事業改革」が確かな果実を手にする日は近いといえる。

(2004.8.13)


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