農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 カントリーエレベーター品質事故防止強化月間

良質で均質な米を消費者に供給する重要な施設
―地域農業を支えるCEの役割―
廣瀬竹造 全国農協カントリーエレベーター協議会会長(JA滋賀県中央会会長)に聞く

 インタビュアー:(財)農業倉庫受寄物損害補償基金指導部長 古村勝一氏


 日本に初めてカントリーエレベーター(CE)が導入されたのは、昭和39年。以後、米麦の生産流通の拠点として全国各地に建設され、現在では760余のCEがあり、その処理能力は200万トンを超えるまでになった。しかし、この40年間で米麦の生産・流通を取り巻く環境は急激に変化をした。そこで、今年30周年を迎える全国農協CE協議会会長に再選された廣瀬竹造会長に、現在の農業を取り巻く問題とこれからのCEの果たす役割について聞いた。聞き手は古村勝一農倉基金指導部長。


◆地域の実態にあった担い手づくりを


 ――いま、国は「食料・農業・農村基本計画」(基本計画)の見直しを行っていますが、その中で、従来の個々の品目ごとへの対応から、品目横断的な経営安定対策、とくに、担い手を認定農業者あるいは集落営農に絞り「直接支払い」制度を創設するようですが、このことについてどうお考えですか。

廣瀬会長

 廣瀬 JAグループは7月15日のJA全中理事会で「新たな食料・農業・農村基本法の策定に向けたJAグループの政策提言」を決定しています。そのなかで、国際化の影響を大きく受ける水田農業については、集落営農あるいは受託組織など、いまは組織的に不十分でも将来に向かってやろうという意欲的な組織も含めて、地域ごとにそれぞれの実態に合った担い手づくりを取り組み対象にすべきではないかとしています。
 国が厳しく基準を決めても、地域で取り組めないような政策ではバランスがとり難いと思いますね。とくに中山間地でも取り組めるような組織を認めていくことをお願いしたいですね。
 品目横断的な直接支払いについては、ぜひともなんとかして欲しいですね。

 ――米は直接支払いの対象にはならないようですね。

 廣瀬 そうなれば、大変なことになりますね。滋賀県の場合は県独自で、環境こだわり米についてはわずかですが直接払いをしています。


◆企業の参入は土地利用型農業には馴染まない


 ――いまのこととも関連しますが、農地法改正絡みで株式会社の農業参入が盛んに喧伝されていますが、これについてはどうお考えですか。「直接支払い」制度とこの問題は、21世紀の日本農業の「かたち」を決める大きな問題ではないかと思いますが…

 廣瀬 いま国が考えているように本当に農業にプラスになるのかといえば、現場で考える限り、集落と共存できる農業が展開されなければ、現場で混乱が起きると思いますね。畜産とかは株式会社でもできるとは思いますが、土地利用型農業は地域との共存とか環境の問題がありますから、企業が経営規模を拡大してコストを下げたような農業をしても、地域と摩擦が起きるなど、難しい問題が生じてくると思いますね。
 私は、株式会社の参入が日本農業の再生にはならないと考えています。それよりはむしろ、経営規模の拡大をする意欲のある担い手と集落が共存しながら日本農業を支えていくことだと思いますね。土地利用型農業にとっては、企業は異質だと思いますよ。
 土地の目的外使用とか、バブルのときに土地が荒廃したように、農地法の目をくぐって多目的に利用される危険が非常に高いわけですから、もしこれを許すなら相当に厳しい条件をつけてもらわないといけないと思います。そして、地域と共存するという考えをもっていただかないと、大きな摩擦が生じます。そのことが一番心配ですね。

 ――意欲的な専業農家と集落の共存が望ましいということですね。

 廣瀬 土地利用型農業では、環境保全とか集落における共同作業的な面からみても、それが望ましいですね。そこに企業が参入してもうまくいかないのではないでしょうか。
 ある農業法人を対象とした調査によると「経営的には利益がない」といいます。経営規模を拡大したら夢があるとか、経営が安定すると国はいわれますが、現在の状況では、逆だと思います。むしろコストが増大して経営を圧迫することになります。水稲は雨期を利用した農業で、田植え時期がそんなに長いわけではありませんし、全ての農地でアメリカのように機械で播種できるわけでもありませんから、日本型農業を中軸においていく方がいいと思います。


◆品質を重視した滋賀県のJAグリーン近江が 取り組んでいる「プリップリ米」づくり


 ――米政策改革の実践、改正食糧法の施行など、米麦をめぐる環境がめまぐるしく変化し「売れる米づくり」がいわれていますが、滋賀県ではどのように取り組んでおられますか。聞くところによると、JAの施肥基準と栽培指針を厳守した「プリップリ米」に取り組まれているということですが。

 廣瀬 滋賀県の場合には一時期、等級比率が悪かったんですね。これはコシヒカリ・キヌヒカリという早生品種の田植え時期が5月の初旬に集中したために、夏の高温で乳白米が生じたこと。そして成育障害で身が細かったためです。
 これでは「売れる米づくり」に遅れをとるということで、田植えは5月中旬以降にする。施肥では、できるだけ窒素をひかえて自然に近いような栽培方法を取り入れるなどの基準を生産者に示してお願いをしているわけです。
 いままでは滋賀県は多収だったと思いますが、この基準で生産することで、品質が向上し米が「プリップリ」になりました。

 ――「プリップリ米」の基準は…。

 廣瀬 仕上げ水分14.5%、タンパク6.5%以下、整粒歩合80以上の良質米ですね。

 ――「環境に配慮した米づくり」というのもありますね。

 廣瀬 これは県が、琵琶湖の汚濁防止のために、代掻きと化学農薬をできるだけひかえて水質の窒素質を抑えたいということで基準を示しています。この基準で生産すると10アール当たり、3haまで5000円、3ha以上2500円の助成をするという協定を生産者が結んで行っています。その面積は16年産米で2300haです。そして県が制定した「環境こだわり農産物」の認証マークを貼って販売しています。


◆栽培基準を守り履歴を記帳したものだけを受け入れる


 ――食に対する安全・安心志向が高まり、米についてもトレーサビリティなどの対応が求められていますが、CEではこれにどう対応すべきだとお考えですか。

 廣瀬 均質な米を提供していくためにCEを利用していますが、今後は安全・安心のために栽培基準を示し、その基準で生産されたものをCEに出荷をしてもらう。つまり、いままでは何でも出荷していたわけですが、これからは栽培履歴を記帳してもらい栽培基準を守ったものをCEに入れていくことに変わりつつあります。そうしたことを通じて、それぞれの地域、CEが特色ある米づくりに取り組まれていると思います。
 滋賀県の場合には、各JAがその地域にあった米づくりで、CEのトレーサビリティ米を販売するために播種から集荷まで栽培履歴を記帳することでやってもらっています。
 私のところのJAグリーン近江でも、17年稼動予定で、3000トンのCEを新設をしますが、サイロは50トンです。つまり、トレーサビリティを徹底するために、それぞれの条件に合った米を入れるためにサイロを小さいものにしたわけです。

 ――「こだわり米」とか別々に管理するためですね。

 廣瀬 そういうことです。いままでは、生産者の作付け体系が3〜5あり、品種が分散していますが、これからは、生産履歴やコンタミ問題がありますから、品種をできるだけ抑えて、2品種くらいにし、CEも、CEごとに当面は2品種、将来は1品種に受け入れる品種を絞らないといけないのではないかと思いますね。

 ――それはコンタミ問題への対応ですか。

 廣瀬 最近は、生産段階まで遡ってコンタミ問題がいわれますね。生産者の段階では、複数品種生産している場合、コンバインの清掃ができるかという問題がありますね。さらに、CEにおいては乾燥・調製の各段階で残留米が出る可能性があります。各段階でいくら清掃してもコンタミする可能性があるわけです。

 ――コンタミ問題は、種子管理からコンバイン、CEに入ってからの乾燥調製まで、いろいろな段階があるので「1粒たりとも」というのは難しいですね。

 廣瀬 生産者は美味しいものをつくって消費者に届けたいと思っているわけで、コンタミという流通段階での混米と生産者段階の問題は本質的に違うと思いますね。
 多品種から少品種にするとか、CEでも他品種を入れるときには、キチンと清掃するとか、最善の努力はしますが、あまり神経質に生産者にそのことを求めても難しいですね。


◆JA経営者がシッカリした戦略をたて 先頭に立って運営する


 ――さて、CEが日本に導入されて今年で40年になります。また、全国農協CE協議会も創立30周年を迎えますが、いまCE協議会の最大の課題はなんだとお考えでしょうか。

 廣瀬 CEは生産者の負担軽減と消費者に均質な米を届けるということで普及し、現在の処理能力は200万トンを超えましたし、数としてはいいところにきていると思います。
 今後は、安全・安心を提供するために、トレーサビリティシステムのなかにCEの役割をシッカリと位置づけていかなくてはいけないと思います。JA経営者が「売れる米づくり」についてシッカリと戦略を描き、そのなかで年間のCE計画を策定し、サイロに応じた生産者の品種作付けと受け入れについて考えて運営していかないとCEの利用率が低下して、大変なことになるのではないかと思っています。
 と同時に、品質事故防止のために、CE担当者任せではなく経営者自らが「事故は絶対に起こさない」ということを認識したマニュアルをつくり、先頭に立つべきだと思います。


◆国はCEの役割を考え、施設改修に助成を


 ――全国的に見ると昭和60年以前の設置CEが約280基あり老朽化してきていますね。これも問題点ではないでしょうか。

 廣瀬 いままでは米流通の近代化にとってCEは大きな役割を果たしてきました。これからのCEは、安全・安心で大量・均質な米を供給し、そのことで地域の農業を支えていく重要な施設だと思います。
 さらに、これから個々の大型農家や集落がCEを利用することは、コスト低減にもなりますから、いままで以上に米価が下がった場合に施設の果たす役割は大きいといえます。そういう意味からも、国が引き続き新設だけではなく、改修についてもみて欲しいと思います。国の予算が厳しいことは分かりますが、現場に担い手をつくっていくために個別に乾燥調製施設を持てばコストがかかり所得が減りますから、地域にあるCEを最大限活用することが重要だと思いますので、ぜひその点を考えていただきたいと思います。

 ――最後に全国の会員さんへのメッセージを…。

 廣瀬 いまの農業情勢をみるとCEの必要性と重要性がますます高まってきていると思います。グローバル化し米価が下がる時代こそ、いかに良質で均質なものをコストを抑えて消費者に供給する役割が重要になってくると思いますので、その期待に応える運営をしていただければ、社会的にもCEの評価が高まると思います。

「CE品質事故防止カレンダー」
「CE品質事故防止カレンダー」

「CE品質事故防止マニュアル」
「CE品質事故防止マニュアル」

インタビューを終えて

 全国農協カントリーエレベーター協議会は、今年、創立30周年を迎える。ちょうど10年前、協議会創立20周年を記念して、CEの母国・アメリカの農業施設研修を行ったが、そのとき、団員20数名の団長をお願いしたのが廣瀬会長との初めての出会い。
 その頃は、合併前のJAの常務さんでしたが、広域合併JA(滋賀県・JAグリーン近江)の組合長を経て、平成15年からは、昔風にいうと滋賀県の五連会長を務められている。そんなお忙しい身でありながら、今年、CE協議会の会長2期目を引き受けられた。
 滋賀県はいわばCEの老舗、会長の出身JAにも6つのCEがあり、CEがなければ日本の稲作は成り立たないという熱い思いが激務の中、協議会会長を引き受けられる理由でもあろう。米政策改革のもと「売れる米づくり」の実践が求められるが、会長は、土づくり、防除、施肥管理を徹底したほ場の米をCEで扱い、売れる米づくりを目指すという。さすが、近江商人の末裔(失礼)。
 CEは、全国309JAにおいて766施設(協議会加入施設)あるが、昭和の年代に建てられた施設が過半を占める。稼働率の向上や品質事故防止対策と併せ、これら老朽化施設の集約・整備等がこれからの大きな課題。
 これらの課題解決に、バランス感覚に優れた廣瀬会長の手腕がおおいに期待される。 (古村)

(2004.8.23)


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