農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 今尾和実JA共済連専務に聞く 「改正農協法とJA共済事業」

社会的責任を自覚し、自信を持って
「安心」と「満足」の提供を
インタビュアー 梶井功 東京農工大学名誉教授

 JA共済事業についての農協法の改正が半世紀ぶりに行われ、事業全般に抜本的な法整備が行われた。今回の改正は、資金量40兆円超、長期共済契約高380兆円というJA共済事業が社会で明確に位置づけられたものといえる。「法令遵守など一層の自覚が必要だ」と今尾専務は指摘する一方、「それだけ社会的に評価されているということ。自信をもって事業推進を」と強調する。今回の改正のポイントと今後のJA共済事業の方針などについて聞いた。聞き手は梶井功東京農工大学名誉教授。

■経営の健全性確保が契約者保護につながる

 梶井 今日は今回の農協法改正が、今後の共済事業にとってどういう意味を持つのかを中心に伺いたいと思います。共済事業についてはこれまで若干の改正はありましたが、本格的な改正となると50年ぶりということです。まずこの背景についてお聞かせください。

今尾和実JA共済連専務
いまお かずみ
昭和21年生まれ。京都大学農学部卒。昭和44年4月全国共済農業協同組合連合会入会、同制度対策部長、普及部長を経て、平成12年全国農業協同組合中央会常務理事、14年全国共済農業協同組合連合会常務理事、16年同専務理事。

 今尾 かつて、私どもは省令と通達と共済規程の比較対照表をつくったことがあります。そうするとほとんど保険業法と同じ体系に整理できることが分かりました。そこでわれわれも各部で2年ほど法的なあり方を個別に検討してきました。一方農水省もJA共済は40兆円を超える資金量と長期共済契約高で約375兆円という規模になったわけですから、通達行政ではなく、きちんとした法体系を整理しないと社会的にも責任を果たすことにならならないと判断したのです。ということでわれわれと行政の考えが一致して改正することになったわけです。

 梶井 契約者保護のポイントについて解説していただけますか。

 今尾 いかなる事態が生じても共済金をお支払いできるというのが最大の使命ですが、今回の法改正のポイントはいわゆるソルベンシーマージン基準による早期是正措置の導入だと思います。リスクに対する支払い余力を法定化し、具体的にソルベンシーマージン比率が200%を下回ったら業務改善命令が出されるという根拠規定が法律に定められました。
 また、契約条件変更もポイントです。これは大変な議論がありましたが、共済にしても生命保険にしても大変長期間のものです。たとえば、昭和40年代、50年代の予定利率というのは当時の金利水準になっています。それを遡って予定利率を下げることが可能になった。生保業界は1年前に導入しましたが、われわれとしては全体の法体系を整備する際に導入することにしていたものです。
 保険という事業のあり方としては、破綻して保険金がゼロになるより減額はするものの破綻前に契約条件を変更するほうが契約者保護としてベターと判断したということです。しかし、われわれの現在の経営内容はソルベンシーマージン、基礎利益の水準から見て、契約条件変更をする必要性は全くありませんし、今後とも予定利率の引き下げをしないように最大限の努力をしていきます。
 それからこれは法律ではありませんが、従来は契約者に対してJAが元受けとなりJA共済連に再共済するという関係だったのがJAとJA共済連の共同元受けの関係になったことも重要です。
 JAが破綻しそうな場合、総会を開いて、近隣のJAか連合会に共済契約を包括移転するなどが可能ですので、このように計画的に事業執行できるJAでは共済金不払いのリスクはないと考えています。
 しかし、突然、何か問題が発覚して実質的に破綻だとなった場合、破産管財人が乗り込んできて、再共済金請求権や解約返戻金請求権をJAが持っている財産とみなして差し押さえてしまうことも考えられます。こうなった場合、契約者とJAの間でトラブルになりかねないという懸念から、17年度から共同引き受け方式にします。これによって契約者はJA共済連に直接請求できることになりますので100%契約者保護ができると考えています。
 こうしてみると経営の健全性ということと契約者保護は、理念的には区別できますが実際はほとんどイコールだと私は思いますね。

■原則は共栄火災の業務代理JA共済の機動力を発揮を

 梶井 機動的な事業運営のための措置ということも強調していますが、具体的にはどういうことでしょうか。

今尾和実JA共済連専務(左)と梶井功東京農工大学名誉教授(右)
今尾和実JA共済連専務(左)と梶井功東京農工大学名誉教授(右)

 今尾 ひとつは自動車共済と自賠責共済についての代理店化です。今まではJAの指定修理工場やディーラーはJAへの取り次ぎ店という扱いでしかなく、掛け金の受領権がなかった。普通、契約するときは掛け金をそえて申し込むわけですが受領権がありませんから、集金のために巡回するとか、あるいは時期を決めて口座から引き落とす形になり、実際の入金が契約時期とずれる可能性があった。今回、取り次ぎ店を代理店にすることがようやく認められ、車を購入したところで車に保障をつけるということが実現できました。
 全国で2万7000店も取次店があります。すべてが代理店になるとは思いませんが、これは大きなことです。自賠責共済の6割が取次店経由ですから。また、自動車共済と自賠責共済の両方に加入した場合は自動車共済に対しての割引制度があります。ところがこれまで取り次ぎ店では、ここは自賠責しか扱っていません、自動車共済の加入は改めてJAでお願いしますということになってセット割引が活用できないことがある。ですから今回の措置は車を購入したところで自動車共済の契約ができるということと、同時に自動車、自賠責のセット割引が広範に活用できるということでもあります。
 もうひとつは子会社の共栄火災の業務代理が可能になったことです。
 これまでは代理ができなかったため、JAや連合会の協同会社が代理店となっていました。それがJAも保険会社の業務代理ができるように法改正されましたから、JAが共栄火災の業務代理ができるようになった。したがってJA共済で欠けている商品を共栄火災の商品で補うという形で組合員に提案できるわけですから、これも大変大きなことだと思っています。
 損害保険は一年ものがメインですから商品の開発も激しく、スピード、小回りがきくという点で共栄火災の商品を積極的に活用していくことが必要だと思っています。

 梶井 共栄火災以外の保険会社の商品もJAは扱うのですか。

 今尾 法律には共栄火災の代理ができる、とは書けませんから法律上は制約はないことになります。
 しかし、われわれとしては共栄火災に限定すべきであるということを基本方針としています。というのは、共栄火災は子会社ですからわれわれのルールを守ってくれることが明確だからです。他の保険会社はそれぞれの方針があるでしょうからわれわれのルールとは合わないこともあると考えられます。ここはJAにしっかりご判断いただきたいと思います。

■社会的評価の高まりと責任の重み自覚して

 梶井 今回の農協法改正について、共済事業の第一線で活躍しているLA(ライフアドバイザー)の方々に、今までとちがうのはここだよと強調すべきポイントがあるとすればどこでしょうか。

 今尾 これは心構えを厳しくしなければならなくなったんだという点を指摘しなければなりません。というのも共済事業はこれまでは農水省の通達行政でしたから、何か問題があったら行政庁の責任もありました。しかし、今回は法律に定められたわけですから、法律に盛り込まれたことに従うのは自己責任だということです。法律違反には罰則もありますから、コンプライアンスについてJAごとに自覚してもらわなければなりません。
 共済事業は個々のJA段階だけでみればそれほど規模の大きな事業ではないと思ってしまうかもしれませんが、日本全体でみれば財務内容は日本生命とほとんど同じ、資産内容は東京海上を超えるという状況ですからそれを自覚して事業を推進しなければならないということです。
 逆にいえば、社会的な評価がこれだけ高いわけですから、だから、自信を持って組合員、利用者に勧められるんだと考えてがんばっていただきたいと思います。

 梶井 競争が激しい時代ですが、JAの共済事業は組合員の相互扶助の上に成り立っているものですね。そこをLAのみなさんにも改めて教育していくことも大切になると思います。

 今尾 そのLA制度ですが、私はJAにとってこの制度が渉外革命を起こしたと思っています。教育カリキュラムも当時としてはいち早くCS(顧客満足)を使いました。これは組合員宅などを訪問するときに、商品を売り込もうとする必要はない、組合員やその家族が今何を考えているか、それを聞き出して対応すればいい、という考え方を打ち出したものです。
 現在LAは2万人を超えましたが、先端的なLAの方は、基本は組合員と話をすることだと言います。それまでのJAは店舗に座っていれば組合員や利用者が来るものと考えていたことに対して大きな革命を起こしたのではないかと自負しています。

■地域に貢献するJAとして仲間づくりの輪を広げる

 梶井 営農指導でこそやってほしいことですね。最後に「新3か年計画」のいちばんのポイントはどこでしょうか。

今尾和実JA共済連専務(左)と梶井功東京農工大学名誉教授(右)

 今尾 『絆の強化』と『仲間づくり』が柱です。
 絆の強化は、JA共済は「ひと・いえ・くるまの総合保障」を提供していることをきちんと理解して利用してもらうということです。この3つの柱を利用していただいている契約者は2割にとどまっています。残りの8割は有力な契約見込み者ですから、その方たちに全部利用してもらうよう取り組むことが絆の強化ということです。
 仲間づくりは、1300万人の今の農家人口が2020年には770万人になると予測されている状況をふまえて、やはり地域のなかでJAを利用していただく方の枠を広げていくということです。われわれはニューパートナーと言っていますが、仲間づくりという視点で簡易な商品からでもいいから枠を広げていく。ただ、これは共済事業だけでなかなか底辺は広がりませんから、JAの事業全体としてもこの視点が必要になると思います。
 JAの事業は安全・安心な食料供給が第一義だと思いますがさまざまな地域貢献活動も重要です。私はすべてのJAが「地域に貢献するJA」ということを打ち出してほしいと思っているんですね。たとえば、介護保険サービスや助け合い活動、ファーマーズ・マーケットなどの取り組みがあって初めて共済事業も広げていける。総合農協の事業として仲間づくりをしていくことが大切だと思っています。

 梶井 「仲間づくり」のお話は大賛成ですね。これだけ混住化がすすんでいるのですから農協は非農家の方々にも働きかけをしていく必要があると私も思いますね。地域の人もそれを求めている。その点では農協は職能組合から地域協同組合へと組織原理を変えていくことも視野に入れることが必要だと感じました。今日はありがとうございました。

インタビューを終えて

 農協法には、最初から“共済に関する施設”という言葉はあったが、制定当初は“農業上の災害又はその他の災害に関する施設”となっており、農業共済と区別のつかない表現になっていた。この表現が現行法のように改められるのは1954年であり、この改正でようやくJA共済事業に対する法的整備が図られた。
 共済事業を行うJAは“共済規程を定め、行政庁の承認を受けなければならない”ことが義務づけられ、通達行政のなかでJA共済は発展してきたのだが、日生、東京海上に匹敵する事業量をもつまでになった今となっては、保険業界とならぶ法的枠組みが必要になった、というのが半世紀ぶりの法改正の最大の理由といっていい。
 その事業量の拡大は、当然ながらJA正組合員の範囲を越えさせる。信用事業もそうだろう。01年農協法改正では組織論としては職能組合強化を目指したかのようにみえる。が、それでいいのかを議論する必要があろう。

(梶井)

(2004.9.21)


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