農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 米事業改革とJAグループ

インタビュー 米改革初年度、確実な集荷対策の実施を
「JA米」を核に安全、安心の提供を実践
若林一誠 JA全農米穀総合対策部長
インタビュアー:北出俊昭 明治大学教授

 米政策改革初年度の今年、JAグループの米穀事業改革も本格化した。なかでも「JA米」への理解は現場に順調に浸透し計画を上回る生産量が見込まれ今後の販売が注目される。一方、全体として供給過剰のなか集荷と適切な販売による価格の安定も求められJA全農の役割が期待されている。現在の米情勢と今後の課題についてJA全農米穀総合対策部の若林一誠部長に聞いた。聞き手は北出俊昭明治大学教授。

◆確実な実施求められる集荷円滑化対策

 北出 16年度は米政策改革の初年度です。最初に全体の情勢がどうなっているのかをお聞かせください。

 若林 16年産は豊作基調で推移してきており、先日発表された9月10日現在の作況指数は全国で101でしたから、集荷円滑化対策が発動されそうな情勢です。ただ、地域によって作柄は違いますから、正式には10月15日現在の数字で確定します。
 101という指数は平年並みということですが、やはり全体としては供給過剰になるのではないかと思っています。

 北出 全体として供給過剰でも流通制度が大きく変ったために以前の豊作時とは異なる問題、たとえば、JAへの集荷率の低下などが出てくるのではないかという見方もありますが。

 若林 たしかに13年産以降は集荷率が50%を割っていますから、JAグループには危機があります。生産者も直売などJA離れといいますか、JAに出荷することの魅力、価格や利便性などですが、そこに足りない部分があるのではないかと考えています。
 JAグループとしては売れる米づくりが課題ではありますが、まず集荷しなければ販売もできないわけですからこれは非常に大事です。また、今後の販売環境の整備については、今月はじめに種市会長名で各県の会長に集荷円滑化対策への取組みの徹底を呼びかける文書を送付しています。今まで以上に、より本腰を入れた対応をしなければならないと考えています。

 北出 集荷円滑化対策への加入状況はどうですか。

 若林 暫定値ですが、加入契約者数は137万人で15年度のとも補償加入者数との比較では79.9%です。加入者の生産確定数量は553万トンで生産目標数量の857万トンとの対比では64.4%という数字になっています。

◆加工用米の確保も課題

 北出 かなり高い加入率で、一応スタートとしては軌道に乗っているわけですから、今後は確実な実施が課題だということですね。
 同時にJAグループは最低40万トンの政府買い入れを求めています。この問題はどうお考えですか。

若林一誠氏
若林一誠
JA全農米穀総合対策部長

 若林 JAグループの要望に応えて農相も40万トンを早期に買い入れる意向を示しました。極力早く年内に買い入れが行われれば、その分が市場から隔離されるわけですからJAグループとしては非常に望ましいと思います。
 それから加工用米については需給計画では20万トンとなっていますが実際には12万トンしか生産されないことになっています。しかし、当初の計画どおり20万トンを確保しないと、不足分はMA(ミニマム・アクセス)米に置き換わってしまいかねない。これは価格にも影響します。JAグループとしては実需者の要望に応じることが役割でもあると考えています。

 北出 確保するための対策はどう考えていますか。

 若林 加工用米の必要量というのは毎年20万トンあるわけではありませんし、また、15年産の在庫も1万トン程度あります。ですから、需要量をきちんと把握して、おそらく数万トン程度だと思いますが、産地に呼びかけて確保していきたいと考えています。

 北出 もうひとつ大きな問題になっているのが卸在庫ですね。

 若林 卸在庫は通常は30万トン程度だと言われていますが、現在は40万トンから45万トンと多く、この在庫が少なくならないと買い意欲が出ないと言われています。さらに在庫を処分するために低価格で売れば16年産の価格も下がることになる。売り手にとっても厳しい状況です。
 また、15年産の販売もまだ課題を残しています。計画では273万トンの販売目標としており、9月20日現在で269万トンが契約されました。ですから、残りは4万トンです。ところが、実際に受渡し済みの量は、238万トン。つまり、これから本当に販売していかなければならない量は35万トンなんです。14年産では同じ時期で要販売数量は21万トンだったわけですから、不作だった15年産ですが実は昨年より14万トンも要販売数量が多いということです。

◆「JA米」出荷契約計画より大幅増の195万トン

北出俊昭氏
北出俊昭
明治大学教授

 北出 さて、JAグループにとっては今年は「JA米」確立の初年度でもあります。これまでの成果はいかがでしょうか。

 若林 当初の事業計画では15年産で生産履歴記帳運動に100万トン取り組み、16年産でJA米を100万トン実現し、以降、年に100万トン増やし、18年産では300万トンにしていこうと考えています。
 16年産の売渡委託予定数量でみるとJA米は約195万トンとなっています。JA米の要件を満たしているかどうかを検証しなければなりませんが、JA米でなければ売れない、当たり前の取り組み、という認識が広がってきたのではないかと考えています。
 したがって、この委託量はしっかり集荷しなければなりませんし、300万トンの計画達成を前倒しして考えていかなくてはならないと思っています。
 また、計画流通制度、あるいは自主流通米という制度がなくなった今、生産者団体の集荷業者としてやはりJA米に結集してもらいたいし、それによって消費者、実需者に間違いなく販売できるというかたちを生産者に示すために今年から腹をくくって対応しなければいけないと思っています。

◆需要の多様化にどう対応するか

 北出 需要が多様化しているといわれ、たとえば高くても味のいい米をというニーズもあれば、業務用需要のようにそこそこの値段の米をということもあるようですが、もう少し具体的に分析するとどういう状況にあるとお考えですか。

 若林 昔と違うのは、全体としての米のレベルは上がっていることだと思います。収量は別にしても食味は良くなっていてかつてほど銘柄による差がありませんね。また、保管状況も非常によくなっていますから、古米も味がそれほど落ちることはありません。
 こういうなかで銘柄や味にこだわる層とそれにはあまりこだわらずにそこそこの価格で、という層に二極化しつつあると考えています。
 とくに15年産の不作で分かったのは、新米と政府古米を使ったブレンド米が一定量売れたということです。今までブランド米を食べていた人が、ブレンド米でもいいとなったわけですね。ということは味に差がなくなってきたということと、この経済状況のなかでは価格を優先するということもあるでしょう。こういう状況ですから、米づくりも単純にコシヒカリを作付けしていればいいということではないと思いますから、今後は多収穫品種の開発などさまざまな対応をしなければならないと思いますね。

◆販売力の強化で生産者の期待に応える

 北出 では、集荷、販売を含めて今後のJAグループ米穀事業の対応についてまとめていただけますか。

 若林 集荷面ではやはり基本に立ち返るということではないかと考えています。現場のJAと県本部、経済連は大変でしょうけれども一生懸命手足でかせいでいただくことが大事だと思いますね。
 販売については県本部、経済連と全国本部が連携して、量販店、実需者などで今までの結びつきがあるところについてはその関係をより強固なものにしていくことがまず基本です。こういう取り組みを通じて、生産者の方々に間違いなく売れていくことを常にアピールしていくことが集荷率の向上にもつながっていくと思います。
 また、問題はやはり価格ですね。生産者にとってメリットが感じられる価格でなければなりませんが、流通制度が大きく変るなかJA組織にとっても、生産者にとっても今年は正念場だと思います。
 生産者にJAに出荷しようと判断してもらえるようないい判断材料を提供するよう努力しなければなりません。
 また、消費者の方々に米の生産の実態をもっと知ってもらう取り組みも重要だと考えています。

 北出 JA米については本当に確信をもった取り組みが求められているということですね。今日はありがとうございました。

インタビューを終えて

 米政策改革の初年度で、生産者や地域にはさまざまな不安がある。その上、全国的には本年産は豊作基調であり、また、多くの流通業者は昨年産米の過剰在庫をかかえているため買い意欲が弱く、米価は依然として低下している。ただ、一方では、台風で甚大な被害を受けた産地もあるので、今後の需給と価格は産地銘柄ごとに異なり、全国一律には論じられない動向も予測される。
 近年、米をめぐる情勢は困難を極めているが、それに加え、本年度はこうした複雑な状況が加わることになる。そうであればこそ、全農を中心に農協組織の米対策への取り組みが重要となる。本年産のJA米売渡委託数量が計画の2倍近くとなっているのは、生産者にもその期待が強いからである。農協本来の立場に立った米対策事業を、いまこそ強める必要があることを痛感した。

(北出)

(2004.10.5)


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