農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 農業倉庫火災盗難予防月間スタート(16年12月15日〜17年2月15日)

点検は災害防止の出発点
よりいっそうの自主管理体制の強化を

 JAグループの米販売・流通の重要拠点である農業倉庫は、いま全国に8150棟あり、その収容能力は650万トンにおよんでいる。米の販売・流通が自由化され、長年、米麦保管管理の道標であった「政府所有食糧等の保管管理要領」が昨年3月に廃止されるなど、自主保管管理体制の強化が倉庫業者としてのJAに強く求められている。
 さらに、米も一般食品と同様に安全・安心を当たり前とした品質管理が求められトレーサビリティの確立が急がれ、今後は倉庫における「保管履歴」の情報開示が必要となってきている。こうしたことから、従来にもまして火災盗難事故はもとより品質管理に細心の注意をはらわなければいけない状況となっている。
 JAグループでは毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を実施しているが、この運動の重要性が一段と大きくなっているといえる。そこで今年は、安全・安心で高品質な米を消費者に届けるために農業倉庫の指導を徹底している全農石川県本部とJA能美に取材するとともに、毎年、倉庫担当者を対象に開催される「農業倉庫保管技術研修会」の様子を紹介する。

現地ルポ
JA全農石川県本部とJA能美
安全・安心で高品質な米を消費者に届けるために

◆石川県における倉庫指導と優良農業倉庫の取り組み

 石川県には、水戸の偕楽園、岡山の後楽園とならぶ日本三大名園として、兼六園があり、また、日本海の新鮮な魚介類や野山の豊かな幸に恵まれた加賀・能登・金沢からなっている。
 今回は、全農石川県本部の東米穀園芸部長、柳生米穀課長、井出調査役に16年産米の取り組み状況や農業倉庫の重要性と指導状況などについて話を伺った。また、優良農業倉庫としてJA能美の中田営農部長から話を聞く機会を得た。

◆県産米の品質・食味向上に向けて

全農いしかわ連合倉庫
全農いしかわ連合倉庫

 16年産出荷契約米については、以下の方針により取り組んでおり、とくに「JA米」は集荷量の90%を超える取り扱いが見込まれる状況にある。また、実需者からは品質が安定していることからフレコンでの需要が伸びており、この要望に応えるべく供給の拡大をめざしている。
 16年産米の作柄は、10月15日現在、県全体で作況100となっているが、能登の海岸地帯で台風15号による塩害被害が発生し、実質的には若干下回ると見込まれる。
 出荷契約米取扱方針は、(1)「うまい・きれい石川米づくり運動」の展開(4年目)(2)消費地における石川米ブランドの浸透、新品種「ゆめみづほ」の販路拡大(3)「JA米」の取り扱い開始(4)共同乾燥調製施設における品質向上と作業工程履歴(トレーサビリティ)の徹底(5)出荷契約米集荷率の向上による安定販売体制の強化(6)バラ・フレコン流通拡大による輸送の合理化。

◆清掃の徹底など農業倉庫の保管管理指導を強化

 県内の農業倉庫は、基金登録しているもので169倉所(CEは除く)がある。現在、卸など実需者から倉庫保管中に起因する事故は少ないが、平成15年4月からの自主保管管理の徹底により、万が一事故が発生すれば全面的に倉庫業者(JA)の自己責任が問われることとなった。このため、JAは倉庫見回り、在庫確認などを強化し、盗難および品質事故などの未然防止に努めることが肝要となってきている。
 県本部としても現状をより正確に把握し、保管管理の徹底をはかるために、JA米穀倉庫の保管管理実態調査(実地棚卸)ならびに品質確認を定期的に行なうこととしており、該当JAとともに、年3回(10月末、2月末、6月末)倉庫見回りを行なっている。この見回り時には、主に倉庫内外の清掃状況や温・湿度計の適正設置状況などを確認している。とくに、今後消費地卸や量販店、生協などの産地視察も頻繁に行なわれる方向にあることから、清掃の指導に重点をおいている。
 また、収穫前の7月にはJA担当者会議を開催し、その際「在庫管理・保管管理の徹底」をはかり、(1)在庫数の適正な把握および月末時点での実地棚卸(2)出荷立会いの徹底(3)倉庫の清掃徹底などを呼びかけている。さらに、農業倉庫保管米麦の盗難防止のため、実費ではあるが、県内業者による倉庫「防犯ベル」の点検巡回を年1回実施している。

◆10万俵収容の低温連合倉庫を建設――農業倉庫の統廃合

 全農石川県本部では県内JAの農業倉庫の統廃合が進む中、広域的な集荷・保管業務を目的として、「JA全農いしかわ米穀連合倉庫」を小松市に建設した。
 この連合倉庫の特徴は、倉庫前室を広くとり、繁忙期の荷受け・検査場としての利便性をはかっている。建設面積は1158坪で収容能力は12万俵(7200トン)の低温倉庫で、国道8号線バイパスから至近にあり、入出庫に便利な場所に位置している。

◆トレース可能なラック低温倉庫を核に――JA能美

JA能美の低温倉庫・RC
JA能美の低温倉庫・RC

 能美農協は、4町合併の大型JAで、管内には九谷焼で有名な寺井町やアメリカのヤンキースで活躍している松井選手の故郷である根上町などがある。
 JAの販売事業における米のウェイトは15年度で84%を占めており、残りは青果物・林産物・生乳などである。このようなことからもとくに米には力を入れており、また、米のなかでも「コシヒカリ」の集荷が全体の82%を占めている。
 JA管内には、これまで吉田CE・辰口CE・なでしこCE・東部CEがあった。このうち吉田CEは、昭和39年度に国の実験事業として「米麦生産流通合理化モデルプラント設置運営事業」が開始され、全国3ヶ所(石川県吉田農協、秋田県高梨農協、新潟県白根農協〈当時〉)に、わが国初めてのCEが建設されたが、その1ヶ所である。
 吉田CEは建設以来40年が経過し、老朽化が進んだために再編整備の一環として平成15年度に廃棄処分して、新たに西部CEと米流通合理化施設(ラック低温倉庫)・大豆乾燥調製施設を建設した。
 これらの施設は、JA本店・自動車センター・農機具センター・育苗センターなどJA関連施設の一角に建設されており、RCおよびラック倉庫などの主な設備内容は別表の通りである。RCとラック低温倉庫は隣り合わせになっており、RCで乾燥・調製・籾摺りした玄米をコンベアで倉庫に搬送し、均質化および色彩選別された玄米をフレコン詰めして、ラック低温倉庫に保管している。また、RC・CEで色彩選別機の設置されていない施設のものについては、すべてこのラック低温倉庫に設置されている色彩選別機で処理し、より良い米に仕上げた後に低温保管している。
 また、ラック低温倉庫では、棚ごとにフレコンナンバーと検査証明書ナンバーがデータ化されており、トレースが可能な仕組みとなっている。今後は、食味値・タンパク・整粒歩留なども入力し、生産者の良い米づくりのためにフィードバックすることにしている。
 JAでは、これからのトレーサビリティ対応をはじめ、食の安全・安心と高品質な米を消費者に届けることをモットーとして施設運営をはかっており、とくにRCでは、誰がいつ見に来てもいいように、(1)毎朝、掃除(2)粗選機のゴミは1時間ごとに確認し、捨てる、ことを掲示し作業員に徹底をはかっている。
 また、米の生産から販売にいたる営農指導体制も強化して、売れる米づくりに専念したいとしている。
(森谷昌道農倉基金事務局長)

RCの主な設備内容:240ha規模 最大荷受量125.3t/日
 (1) 荷受設備:トラックスケール 6t/基×1基
 (2) 乾燥設備:循環式乾燥機 20t/基×7基
 (3) 貯留設備:貯留タンク 80t/基×7基
 (4) 籾摺設備:籾摺調整装置 4.5t/基×1基
 (5) 自主検査設備:フルオート 150口/基×1基
 (6) 籾殻粉砕設備:粉砕機 0.8t/h×1基

1.米流通合理化施設(ラック低温倉庫)の主な設備内容
 (1) 収容力:2,160t(2,000フレコン)
 (2) 自動ラック:2,000棚(8列×25連×10段)
 (3) クレーン:2基、2パレット式
 (4) 玄米選別設備(均質化・色彩選別):23,2t/日
2.大豆乾燥調製施設
 (1) 乾燥設備:総処理量202t(荷受大豆)
 (2) 選別調製設備:総処理量175t(乾燥大豆)


入庫した米の品質を保持し出庫する重要さを学ぶ
――農業倉庫保管管理技術研修会

意見交換する研修会参加者
意見交換する研修会参加者

 農業倉庫は、JAグループの米販売・流通の基盤ともいえる重要な施設だ。農業倉庫はいま全国に8000棟強あり、その収容能力は650万トンといわれる。最近は、産地において倉庫の大型化・低温化が進んでいるが、依然として小規模な常温倉庫も数多く存在している。
 一方で消費者は、米の販売・流通が自由化されたこともあり、安全・安心は当たり前のこととしたうえで、一般食品と同じ視点から高品質な米を志向する傾向が強まってきている。
 そうしたなかで、専任の倉庫担当者を設置できないなど、保管管理体制の脆弱化もみられ、自主保管管理の強化と保管管理技術の向上が、倉庫管理業務の重要課題となっている。
 そのため、全国のJA・県本部(経済連)の倉庫担当者を対象に毎年、JA全農と(財)農業倉庫受寄物損害補償基金(農倉基金)は「農業倉庫保管管理技術研修会」を全国数ヶ所で開催している。今年も4ヶ所で開催されたが、12月2日〜3日に埼玉県さいたま市で開催された関東甲信越ブロックの研修会を取材した。
 研修会の内容は、1日目は、河合利光農倉基金理事長が開会の挨拶を行なったあと、
1.米の保管と適切な管理(ビデオ)
2.農業倉庫における米麦品質管理(古村勝一・保管管理アドバイザー)
3.ネズミの生態と駆除について(松浦禎之・日本ペストコロジー学会員)
4.貯蔵穀物害虫と防除について(石向稔・国際衛生(株)技術研究所副所長)
5.JA米スタート(ビデオ)
 2日目は
1.農業倉庫業法の概要と農業倉庫の業務(飛弾三千男農倉基金指導部長)
2.農業倉庫受寄物損害補償制度について(中田隆幸農倉基金管理部長)
を研修後、参加者・講師による意見交換会が行なわれた。

◆現場の悩みで意見交換会

 意見交換会では、鳩や烏など鳥害対策をどうしたらいいのか、有機栽培米や特別栽培米の保管管理の仕方、結露やカビを発生させず品質を保持するハイ積み方法などについて、現場担当者らしい悩みが出され、それぞれについて具体的な意見交換がされた。
 その後、(株)エーコープライン(ACL)東京支店久喜営業所の6号倉庫(埼玉県久喜市)と精米工場である全農パールライス東日本(株)埼玉支店の「彩の米センター」を現地視察した。
 ACLの低温倉庫は15年9月に建設されたもので、その規模は、低温1000坪(米穀用)・常温1000坪(食品・雑貨用)という広さだ。
 低温倉庫には、全国各地から首都圏に向けて出荷された米は、産地・銘柄などに区分けされて保管されている。区分保管されてハイ積みの先頭には「現品管理カード」がつけられ、入出庫の記録と在庫数量がそのつど記載されている。
 研修会参加者のJAや県本部から出荷された米も数多く保管されており、参加者は自分のJAや県本部から出荷された米袋やフレコンを見つけ、その様子を撮影したり記録を読んでメモをとるなどしていた。
 農業倉庫から出荷されたあとの消費地で、自ら扱った米の姿を見ることはこういう機会でもなければほとんどないだろう。ある参加者は「自分のところの米が消費地の倉庫でもキチンと品質が保持されて保管管理されているのを見て嬉しかったですね。JAに帰ってもいままで以上にシッカリ保管管理しなければいけないと実感しました」と語った。
 ハードなスケジュールではあったが「農業倉庫に入庫した米を品質変化させずに保管管理することの重要性を認識した」意義のある研修会だったといえる。

農業倉庫保管管理カレンダー
農業倉庫保管管理カレンダー

(2004.12.17)



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