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特集:トレーサビリティの確立で信頼回復を
    14年度畜酪対策を考える

現地ルポ
和牛−− 岐阜県・飛騨牛
ブランド力を発揮しいち早く市況を回復

 銘柄牛の市況がいち早く回復してきた。松坂牛、神戸牛など伝統ブランドと同様、力強い値動きをしているのが、岐阜県の飛騨牛。偽表示問題が追い風となっている。A5・B5の本来の「飛騨牛」だけでなく、格下のものも高値推移しているのが特徴だ。銘柄産地牛に消費者の信頼が集まっているためだ。昨年9月10日のBSE発生報道の翌日には「肉骨粉不使用」の安全宣言を出し、知事の顔写真付きの証明書を発行するなど素早い対応にも評価が高い。

◆ブランド強し前年上回る高値

 飛騨牛銘柄推進協議会の規約では、「飛騨牛」とは岐阜県内で肥育された黒毛和種で、日本食肉格付協会またはそれに準ずる枝肉格付「A5」「B5」規格のものをさす。
 3月11日の岐阜市食肉市場。和牛去勢A5はキロ2455円と昨年を13%上回った。以来、昨年価格を上回る勢いで価格が推移している。
 「おかげ様でやっと一息つきました」。本命の市況回復で、同協議会の事務局長も務める翠博JA全農岐阜畜産部長の顔から安堵の笑みがこぼれる。
 県内統一ブランドを作ろうと同協議会が発足したのは、昭和63年のこと。7割を占めることがあるなど、名牛「安福」の下、「飛騨牛」のブランドは順調に確立していった。

◆BSE発生翌日に安全宣言

安全宣言
知事の顔写真入りの証明書も

 JA全農岐阜の消費者対応は素早かった。1頭目が報道された翌日には「肉骨紛は使用しておりません」と“安全宣言”を印刷し市場関係者に配った。チラシだけでなく小売店で掲示できるようにラミネート加工した簡単なポスターも作った。
 さらに岐阜県産子牛を県内で肥育した牛肉について、梶原拓知事の顔写真入りの「安全宣言」も発行。生産者の顔写真入りのカラーポスター、ラジオ・新聞などへの広告のほか、県の補助金で県産和牛を提供するなど、県を挙げてのPR作戦を繰り広げていった。

◆昨年からノンGMO飼料

 取材を受けたマスコミから「対応が早いですね」と誉められた。「消費者志向の販売戦略を進めてきた結果です」。JA全農岐阜の野邑仁畜産部畜産販売課長は胸を張る。平成12年10月1日から、JA全農岐阜は飼料のうち、GMO(遺伝子組換え)の可能性のあるトウモロコシと大豆かすについて、ノンGMO作物に全面的に切り換えた。昨年4月1日から消費者向けに表示を始めたところだった。もともと、肉質が低下するなどの理由から肉骨粉を使用していなかった。えさの出所には絶対の自信があった。

◆2頭目、3頭目・・・1月に暴落

 こうした努力にもかかわらず、昨年のBSE発生以来、牛肉の価格は下がり続けた。当初、比較的堅調に見えた和牛去勢A5クラスでさえ低迷。今年1月21日にはA5でキロ1760円(前年同期比73%)。A41232円(同60%)、A31022円(同60%)、すそ物A2にいたっては410円(同32%)まで落ち込んだ。
 JA、畜産農家に衝撃が走った。関市の和牛肥育農家小川義仁さん(49)は「正直、どうしようかと途方に暮れた」。割高な岐阜県産から他県産の安い子牛に切り換え、「安く買って高く売る」A4の上クラスを狙う戦略に転換、順調に経営の建て直しを図ってきた矢先の出来事だった。
 偽表示問題が顕在化するにつれて、やっと風向きが変わってきた。

◆A4、A3も堅調に推移

 現在はA4以下のものも前年実績を上回っている。3月11日は和牛去勢のA4クラスでキロ1913円と昨年同期を9%上回った。A3は1472円。A2クラスも1316円と前年同期比90%にまで回復。その後も堅調に推移している。同日の東京食肉市場ではA5がキロ1676円、A41100円、A3816円だった。

◆産地ブランドへ高い信頼が

 「これも飛騨牛というブランドのおかげ」と関係者は口をそろえる。
 牛肉の表示に対する消費者の目が厳しくなったことが、相場回復の原動力となったことは間違いない。実際に「飛騨牛」ではない格下のものまで高値取引されていることを考えると、産地ブランドに対する消費者の信頼の高さをうかがわせる。
 従来、飛騨牛以外の格下の岐阜県産和牛は「飛騨和牛」として販売されてきた。表示問題が表面化したことで、この呼称もまぎらわしいと指摘されるようになってきた。公正取引委員会によると、「優良誤認」である疑いがあるというのだ。
 翠部長は「せっかく築いてきた産地ブランド。農家の所得確保のためにもA4・A3クラスの和牛も有利販売していきたい。消費者の混乱を避け、飛騨(岐阜)の和牛であることを明確にした別称を早急に決定したい」と話している。

◆全国共進会は消費拡大に

 今年、9月26日から30日にかけて、第八回全国和牛能力共進会が県内の清見村と高山市で開かれる。県の特産品を一堂に集めて直売するコーナーや飛騨牛丸焼き、バーベキューなどイベントが目白押しだ。「BSE問題もあり、従来の生産者の祭典というだけでなく、消費者拡大のためのイベントを盛り込んだ多彩な内容になっている。ぜひ、多くの方に参加していただきたい」と翠部長は期待する。

◆最後に残る問題は「廃用牛」

和田さん一家
飛騨牛の一貫経営に取り組む和田さん一家。
愛敬さん(左)の悩みは廃用牛の問題

 市況が回復し、表情の明るい産地だが、残された最大の問題は廃用牛だ。明宝村で和牛の一貫経営に取り組む和田愛敬さんは「うちは一貫経営なので、子牛の時から一切、肉骨粉を与えていない。それははっきりしているのだが、万々が一のことを考えると出荷を見合わせてしまう。検査体制の限界から、肉用牛でさえ出荷が遅れていることもあって、当分、飼い続けなければならないだろう」と顔を曇らす。
 清美村で和牛の肥育経営をする井田畜産(有)は、高山の肉屋が「もも抜けがいい」と指名買いするほど質の高い飛騨牛を生産する。井田睦取締役は「高品質生産には岐阜産の子牛が欠かせない。廃用牛の問題は深刻。素牛生産をする農家が経営を断念するおそれがあるからだ。国や県に有効な対策を考えてほしい」と訴えている。


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