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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』−10
国内農畜産物の価値訴え「食と農」の距離を縮める


原田 典正 JA全農大消費地販売推進部長

 この連載企画では「全農マークを信頼のマークへ」とするために、消費の最前線で奮闘している全農直販グループ9社の社長に、現在の状況とこれからの課題・抱負を聞いてきた。各社とも厳しい環境下にもかかわらず、消費者の国内農畜産物への期待をフォローの風と受け止め積極的に前向きに事業に取り組んでいた。連載の最終回にあたって、全農直販グループとしての販売企画・販売促進を担うJA全農大消費地販売推進部(販推部)の原田典正部長に、現在のマーケット状況とこれからの販推部の役割について聞いた。

原田販推部長
(はらだ のりまさ)
昭和22年岡山県生まれ。愛媛大学農学部卒業。昭和45年全農入会、福岡支所園芸農産部農産課長、本所農産部特産課長、札幌支所園芸農産部長、同支所次長を経て、平成14年本所大消費地販売推進部長。

◆常に前を向いて事業を展開

 ――全農直販事業を担っている9社の社長のお話を連載してきましたが、どんな感想をお持ちになっていますか。

 原田 厳しい環境の中で、各社が創意工夫をして事業展開しており、新商品開発や新規事業を開拓されるなど前向き取り組む姿勢が強いと思いました。そういう意味では、いろいろ問題はあるにしても全農直販グループは健全だと確信しました。
 また、各社にみられる共通なことは、安心・安全をベースにして、それにプラスαをいかに付けていくかに苦心をされていると思います。プラスαは何かといえば、正直に仕事をするとか、美味しさ・新鮮さを追求するとか、どこかと連携して差別化商品をつくるなどいろいろ会社ごとに差はありますが、それぞれ工夫し頑張っていますね。

 ――全農グループに対していろいろなことが言われていますが、販売の現場の人たちは、全農マークを背負って胸を張って仕事をされていますね。

 原田 いろいろな不祥事があり御苦労されていると思いますが、これらの反省をバネとして常に前に進んでいくことが一番大切だと思います。「もうダメだ」「これでおしまいだ」と思ったら事業は止まってしまいますからね。全農直販グループが一層連携をとりながら、取引先対応することが必要だと思います。

◆個人消費の低迷、熾烈な企業間競争など厳しい市場環境

 ――「厳しい環境の中で」ということですが、現在の食品流通業界についてどのようにみておられますか。

 原田 デフレとか企業間の熾烈な競争が進む一方で、賢い消費者・もの言う消費者が増えてきていますね。そうした中で食品業界の経営者は、政府の施策や景気回復を待つのではなく、グローバルな視点とスピード感をもって、例えば高齢者を対象にした健康的な付加価値商品による市場開発など、さまざまな自助努力でこの厳しい状況を突破していくことに腐心されています。

 ――量販店や百貨店は…。

 原田 量販店では、イオンが単体営業収益でダイエーを抜いてトップになるなど、勝ち組と負け組がハッキリしてきましたが、各社ともコスト削減で生き残り競争を戦っている状況だと思います。もう一つは、外資系企業の進出もあってウォールマート・西友・住友商事グループ、イオングループ、イトーヨーカ堂グループというように業界再編が進んでいることがあります。そうしたなかでも、地域に密着した食品スーパーに元気なところが多いですね。
 百貨店関係は依然として売上げが減少していますから苦しい状況にあると思います。デパ地下はまだいいんでしょうが、より高質化・ファッション化・グルメ化した都市型ショッピングセンターやホテル・レストランがデパ地下市場に進出してきていますから、これにどう対応していくかが注目されますね。

 ――生協はどうですか。

 原田 生協は、店舗事業は伸び悩んでいますが、共同購入が前年比3%強伸び、組合員数も供給実績も伸びてきています。個別に見ても増収増益の生協が多くなっています。また、事業連帯、商品政策等の見直しの動きがみられます。

 ――CVS関係は…

 原田 売上げでみると伸びてはいますが、量販店・SM各社の営業時間延長、駅構内にさまざまな店が出てくるなど、CVS市場に進出してきていますから、今後は厳しい面があるのではないかとみています。ただ、上位3社の社長が替わりましたので、企業戦略がどのように変化するか注目されますね。

 ――外食も厳しいようですね。

 原田 個人消費が低調ですし、法人交際費も減少しているので全般的に売上げは減少しています。しかし、有職主婦の増加など社会構造の変化を考えれば2010年代のどこかで内食・外食の「内外逆転」が起きるとみられていて、業界では中期的な成長力を期待していますね。

◆「安心システム」を柱に付加価値の高い商品づくりで

 ――そうした状況のなかで直販事業を進めていくためのキーワードはなんでしょうか。
原田販推部長

 原田 お取引先様からの価格引下げの要求はきわめて強いですが、価格だけで勝負をするのではなく、互いに協力して、いかに付加価値なり差別化した独自の商品なり、仕組みをつくっていくかです。価格だけで勝負すれば、必ず価格で取返されますからね。

 ――そういう意味では「全農安心システム」が大きな柱になりますね。

 原田 「安心システム」は、あらかじめお取引先様との合意がえられた生産基準に従って生産し、独自の検査認証制度によってそれを確認された産地・加工場の商品と情報をセットで提供します、生産・加工・流通における一連の履歴情報を遡求できる仕組みづくりと情報開示によって、お客様と生産者相互の信頼関係を高める仕組みです。つまり、お取引先様と一緒になってつくりあげていく仕組みですから、価格だけにとらわれない商品の一つの方法だと考えています。現在、認証産地45産地、工場は35工場までに拡大しましたが、今後もさらに広げていきたいと推進中です。
 お取引先様と合意して生産するわけですから、販売先・売場がキチンと確保され、商品への信頼が高まりますし、差別化も可能となります。また、無登録農薬使用の未然防止、生産資材の統一化を図ることによる系統利用拡大等も期待できます。

◆蓄積されたデータを営農指導にも活用

 ――今後の展開としては何か考えられているのでしょうか。

 原田 「安心システム」で蓄えられたデータをデータベース化して、営農指導に使い始めています。肥料・農薬、飼料、土壌分析等のデータがありますから、こういう作物にはこういう資材が適していて、どのように使うことで効率化できるかというように活用することで、農家の生産ロスを減少させ収益アップに貢献しようということです。全データが入っていますから、次年度の生産基準の効率的設定や経営管理にも活用できます。
 もう一つは、環境保全型農業に進めていくために、生き物調査など環境監査に取組み始めています。この取組みは、生協や大手量販店もかなり関心を示してくれています。
 このように、生産者と消費者と流通業者がパートナーシップをもって取り組むことで、消費者に国内農畜産物の価値を理解してもらい「私、食べる人。あなた作る人」ではなく、食と農の距離を縮めることができると考えています。

 ――これはJAグループでなければできないことですね。

 原田 営農指導から始まって生産・加工・流通・小売まで一貫してトレースできるのは農協組織しかないと思います。これをキチンとやりとげることが、日本農業を守っていく一つの方向になると思っています。

◆直販事業を拡大し、「全農マーク」を信頼のマークへ

 ――販推部としてのこれからの事業の柱はなんでしょうか。

 原田 一つは、いまお話した全農安心システムを普及・拡大することです。もう一つは、直販事業の拡大です。
 直販事業の拡大としては、一つは営業戦略づくりです。具体的には、エリア別に重点取引先中心にトップ商談や課題別対策会議を実施し、これを有機的に組み合わせて最大の効果を発揮していこうということです。
 二つ目は、全農グループとして統一販促活動の充実など営業促進機能の充実です。統一販促としては、毎年10万人が来場するフーデックス(国際食品・飲料展)があります。今年も3月に開催され、全国本部7部門、関連会社9社、29県本部が204アイテムを出展しましたし、全農安心システム・プレゼンコーナーも設置しました。商談件数も約280件あり、全農グループを大きくアピールする場として定着しました。また、ここでは直接お客さんと接しますので、営業マンの教育の場としても活用しています。また、今年は17取引先と全農協賛フェアを行いますし、商品プレゼンテーションも積極的に進めてまいります。
 さらに、営業マンを育成するためにマーケティング研修や全農安心システム研修を20回以上開催し、14年度には740名が参加しました。また、イントラネットを活用してマーケティング情報誌を発行しています。

 ――「安心システム」と「直販事業の拡大」を柱に進めていくわけですね。

 原田 全農グループは米、農産品、青果物から畜産・酪農まで国内農畜産物のほとんどを取り扱っているわけですから、国内農畜産物の価値を訴えることで、まるごと全農を買っていただけるようにしたいですね。消費者の視点に立った提案をしたり、提携して一緒になって商品開発をするなど、積極的に国内農畜産物の販売促進を進め、そのことで「全農マークがついているなら安心だ」と信頼されるように、各部門・会社と協力して頑張っていきたいと思います。 (終わり)

(2003.9.25)


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