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コラム


大地の芸術祭にひとこと

 「大地の芸術祭―越後妻有アート・トリエンナーレ2000」をある画家に誘われて、見に行った。東京から新潟方面に、関越自動車道のドライブは3時間、六日町ICを降りて、更に小1時間、山間を縫って走ると十日町の受付会場に到着した。トリエンナーレとは3年に一度のイベント芸術祭のことである。

 新潟県の十日町市、川西町、津南町、中里村、松代町、松之山町の農村地帯6つの市町村が協働で資金を出し合い、「村おこし」。その額6億円とも云われるが、世界32カ国から最前衛の若くかつ著名な芸術家140人余りを集めて自然の中に作品を展示してある。総合デイレクター北川フラム氏は地元新潟の出身。こよなくこの美しい地域を愛する気持ちがガイドブックの巻頭言から伝わってくる。

 この地は雪の多い山岳地帯、米作りの棚田がある、冬の間は絹織物の原料になる養蚕業により生計を立てる、勤勉で典型的な日本の農村地帯であった。半世紀に渡る日本経済の変貌は、ここで生まれた若者達を都会に駆り出し、村は後継者不足で過疎化していく、残った住民は高齢化する。高速道路網からも外れ、上越新幹線からも遠く取り残されたこの地域はすばらしい自然が残っている。「人間は自然に内包される」を主旨とするアート会場にはふさわしい地だ。

 120ヶ所の現場全てを見るには2泊3日が必要とあって、時間が足りない。あらかじめ予定したポイントへ向った。松代町のふるさと会館前に駐車すると、眼前の山腹にアグリカルチュア・アートともいえる美しい棚田が迫る。ロシアの作家ガバコフ氏の作品は農夫がその棚田の中で作業している彫刻である。眺めていると農夫達が動き出し農作業しそうだ。アートに癒されるとはこのことか。

 次に隣の松之山町に入る。ススキや萩の花が道路の真中まで伸びている田舎道、小さな表示で川俣正プロジェクト作品とある。道端に「はぜ」がつぎつぎと現れる。稲刈りには早いし、はぜのしばり目は白いビニールひもがあったり、実用のはぜではないのに気付く。

 背後には本物の民家があり、秋の農村風景を記憶するために、小道具としてアートのはぜが使われている。遠くから空と雲と山をトータルに眺めればその光景は農村の一枚絵である。農家育ちの自分はその絵景色を見ると昔の夢に浸る。刈り取った稲を荷車に乗せて夕暮れに家路をたどる。稲をはぜに干す作業を少年はよく手伝った。高いはぜに昇って体を乗りだし、稲束を受け、それを股裂きにして、はぜにかける作業は少年の役目であった。母と祖母は下から稲を一束づつ放り投げて少年によこした。早すぎても遅すぎても受け取れない。アウンの作業リズムがあった。はぜに「稲かけ」が終わると家族農業の一日が完了する。はぜでゆっくり天火乾燥したお米はおいしい。稲もみを食べにはぜに止まるすずめは人間の敵で害鳥だった。現代はコンバインと乾燥機を使い昔の家族農業数日分をオペレーター一人で半日で済む。松之山町の旧小学校は、児童がいなくて廃校になっていた。教室は農機具の展示場、みの、かさ、そり、わらぐつ、俵、脱穀機、馬具などこの間まで生活必需品だったものがほとんど並べてある。農村も農具もアートとして甦るか?

 ボランテイアの若者がイベントのチェックポイントに大勢いた。彼らが昔の農作業方式で生活し定着することはないだろう。だが、アートで美しい自然とともにこの地に住みつく可能性はある。7月25日から始まった詩情豊かな「越後妻有アート・トリエンナーレ2000」は9月10日で終わった。3年後も楽しみである。(金右衛門)



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