農業協同組合新聞 JACOM
   
コラム ―― ひとこと
狂牛病にひとこと

 BSE(牛海面状脳症)は牛、羊はスクレイビー、ヒトはクロイツフエルト・ヤコブ病と呼ばれる。細胞タンパク質プリオンが異常化して、神経系統が侵される病状は同じである。ヒトがこの病気に懸ると、まず口がもつれる、次に目が侵され新聞も読めなくなる。やがて脳の中枢神経に来て足腰が立たなくなる。発症すると早くて3カ月、長くとも1年半で死亡すると専門医者はいう。初期の頃、ヤコブ病の脳手術で治療に当たった大学病院の医師2人がヤコブ病に感染し、まもなく死亡した。そのため法定伝染病に指定されたという。現在も東京都内だけで毎月1―2人の患者が報告されている。全国にならせば相当な患者数になる。9月から1―2頭のBSE牛が発見されたと大騒ぎするどころの数ではない。
 病原の元をたどれば、ニューギニアの人種にたどり着くと言う。死者を葬る時、近親者が死人の内臓やヒトの肉を食べる儀式があった。その地域にヤコブ病患者が異常に多く発生、その習慣を止めてから患者の数は減ってきたという。この事を突きとめた人はノーベル賞を受賞した。
 共食いという「神」をぼうとくした行為が、ヤコブ病の原因であるとすれば、病気になった牛の肉骨粉をエサにすれば、食べた牛がBSEに懸ることは可能性があるような気もする。ヒトのヤコブ病が人に、牛のBSE病が牛に感染することは推測できる。牛肉を食べたヒトがヤコブ病になるかどうかはもっと時間が経たないと分からない分野だろう。
 農水省は、「権力」をもって全ての国からの肉骨粉等の輸入を一時停止した。また国内における肉骨粉の製造・販売も停止することにした。お役人はそれで国民やマスコミを納得させたと思うかもしれないが、健康な牛は捨てるところがなく、原料や素材として利用されている。迷惑を被るのはいつも現場である。一例として、有機肥料業界が被害を受けている。肉骨紛を肥料にする分には、硝酸態チッソなど無機質態で作物に吸収されるし、プリオンタンパク質を直接に作物は吸収することはない。植物体内で増殖することもないと農水省自身が報道している。にもかかわらず、肥料としての使用にも上記輸入停止と販売停止措置は適用されている。だから、肉骨紛を原料とする有機肥料業界は原料不足で深刻。
 一方、全国の倉庫の中には処理しきれない肉骨紛で満杯。殆どが正常品のはず。農水省の生産資材課が弱いからと愚痴を言う業界関係者もいる。飼料への横流し防止のための出荷停止と農水省は述べているが、これだけ問題になっているのに、いまさら肉骨粉等を牛に食べさせようとする酪農家は無いと思う。補助金や助成金が欲しいのではない。政府は自由に仕事が出来る環境を整えてくれるだけでよい。農家や業界の人々を農水省は信頼して、かつ国内の仕事を守ってほしい。国産は安全という今までの消費者の認識を揺るがすようなことはしないでほしい。皮肉にも、検査が厳しい輸入牛肉は安全ですというハンバーグ店が現れる始末である。狂牛病に関して正確な情報を国民に伝えなかった農水省の役人の責任は重い。 (金右衛門)

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