農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム ―― ひとこと
米国最大の農協の倒産にひとこと

 穀倉地帯、米国中西部のカンサス市を本拠とする農協ファームランド・インダストリーが去る5月末連邦破産法11条に基づき倒産した。農家組合員60万人。肥料、種子、石油製品などをローカル農協や組合員農家に供給している米国最大の購買・販売農協である。
 1990年代の業績好調時には経済雑誌フォブスで一般企業に並んで収益170位だった名門農協。日本との取引も肥料で過去にはあった。倒産の原因は主力製品である肥料の落ち込みと社債の早期償還を迫られ、抗し切れなかったことにあると報じられている。昨年8月決算では90百万ドル(約110億円)の赤字、その前年は29百万ドル(約35億円)の赤字、そして本年度上半期の2月決算は49百万ドル(約61億円)の損失計上だった。
 ファームランドの会長は任期2年を待たずに、上半期が過ぎた5月初めに58歳の若さで責任をとって辞任。従業員は本部カンサス市には900人、海外を含めると9000人が働いている。倒産日の2日前従業員の給料が小切手で支払われ、24時間以内に現金化しないとその小切手は紙切れになると通知されたという。ファームランド農協の資産は27億ドル(約3380億円)、負債は19億ドル(約2380億円)と裁判所には報告され、債務超過ではなく、キャッシュフローに問題があった。5月31日には月末支払い分10百万ドル(約12億円)と2月に借り入れた短期資金500万ドル(約600億円)の返済日が重なったことが、倒産の直接の引金になったという。
 ファームランド農協の子会社には全米4位の牛肉パッカー会社があり、孫会社に豚精肉会社、肥料販売会社、飼料販売会社もある。別に5500人の従業員がおり、ファームランド農協の倒産とは関係なく関連会社は操業を続けると幹部は明言している。倒産の噂の前に、米国最大の食品会社スミス・フィルド社が期末支払い分と短期借入れ金返済を含めて、ファームランド農協の買収に動いた。また、肥料アンモニア工場は穀物商社カーギルが買収の意向を示した。しかし、ファームランド農協執行部は11条に基づき倒産し、更正の道を選んだ。これまでに飼料部門の売却、国際部門の閉鎖、コスト削減など経営努力は続けてきたが、今後更にレイオフ・リストラと厳しい再建の議論がつづく。
 米国農務省は、この倒産を重く見てワシントンからカンサス市のファームランド農協本部へ調査員を派遣した。関連会社の精肉工場の操業継続は畜産農家の利益保護につながるとコメントしている。年間3万頭出荷するある豚飼育農家は今のところ、豚肉市況は良好だし、農協からも代金は入っている。倒産は肥料の悪化がもたらしたもの、豚肉が原因ではない。もし支払いが停止されれば、3万頭の生豚が畜舎に残されると将来の不安を隠さない。
 米国のファームランド農協は肥料から出発したことなど全農と良く似た農協組織である。対岸の火災とせず、農業・関連会社に問題山済みの昨今、日本のJA連合会は情勢をみきわめた冷静な運営判断が求められている。(金右衛門)

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