農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム ―― ひとこと

卒業シーズンにひとこと

地についたアイデアを

 春3月は卒業式シーズン。若い人には胸踊る季節。年老いたシニア世代にも成人学校での期末授業があった。
 東京農業大学の「土と農の交流園」講座、果樹コース。生徒30名の平均年齢は推定で65歳以上、講師は元農事試験場長のA先生、もちろん70才を超えておられる。週1回の授業で1年のコース。皆勤賞を頂く人も数人いる。昨年4月開講時の授業は、「果物を食べる人は長生きします。私が実証しようと頑張っています。日本の果樹・果物は世界一です」の言葉で始まった。先生も1年間皆勤、全国園芸協会の相談員もされている。
 果樹について最も多い質問は、(1)果物の木を庭に植えたが、肥料をやっても実がならないのは何故か、(2)途中で実が落ちるのは何故か、(3)何年たっても花が咲かないが、どうしたらよいか等である。最後の授業は、これら園芸愛好家への返事についての解説であった。果物の木が元気よく伸びることは、同時にその木に花芽がつかないことでもある。従って肥料、特に窒素肥料をやらないこと。木の成長に使われてしまうから。次に、剪定もしない方がよい、枝葉をよけいに強くして実がならない。
 正解は、根っこを切るか、枝の環状剥皮をすれば、たいていはその木に実がなる。移植したら花が咲いたというのは根が切れたことだし、環状剥皮とは、皮の部分を数センチ輪切りにすることである。葉に貯めた養分が根っこへ下降するのを枝の上で強制的に食い止める方法である。昔、虫が木の皮を食うと実がよくなることからこの方法を発想した。でん粉が枝に蓄積されないと芽がでない。芽がなければ実もならない。若い木はでん粉を枝に貯めない、どんどん消費するのみ。ある程度の年齢にならないと花芽はつけない。柚子、柿、枇杷などは放っておけば20年も実をつけない。人工的に実をならすにはこの環状剥皮が最も効果がある。木をいじめないと実がならないのは果樹も人間も同じであると教えてくれる。
 もう1つの原因は、自分の花では実がならない「自家不親和」がある。近親結婚を果樹は自然に避けている。りんご、なし、梅、キウイ、ブルーベリー、栗、あんず、さくらんぼなどは1本の木では実がならない。2本あっても相性もあり同じ品種では具合悪い、花の咲く時期が同じものでないといけない。1本で結実する果樹は、イチジク、桃、ぶどう、柿、ラズベリー、ブラックベリー、かんきつ類はほとんど大丈夫。ただし白桃はだめ。家庭での果樹栽培は、1本の木で実のなるものがいい。雄しべと雌しべが別々の果樹もあるから注意が必要とか。柿、キウイ、イチョウ、ヤマモモなどがその例である。
 昔は虫がたくさんいて受粉を助けていたが、現代の農業では人工受粉である。農家には大変な作業であると先生はおっしゃる。農学部に席を置いた人は当然知っている知識だろうが、JA連合会職員で都会育ち、文化系もいる。価格の高い、安いで流通に精通したつもりになり、事務的日常業務に埋没されてしまう職員が多いのはもったいない。繁忙期に農家を訪問し、農作業を手伝うプロジェクトはどうだろうか。実技に参加すれば、霞ヶ関の発想とか大手町農民とか揶揄されなくなるし、地についた新しいアイデイアも浮かんでこよう。OBの反省も込めて。(金右衛門) (2003.3.18)

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