農業協同組合新聞 JACOM
   
コラム ―― ひとこと

同級会にひとこと

 こまめに同級会へ出席していると、懐かしさも感ずるが違った社会を見てきた人たちだから、異業種交流のようになる。たまたま隣の席に座ったN君は、大学卒業と同時に家業を継いで40数年。滋賀県の長浜町に伝承される地場産業「長浜ちりめん」問屋の主人である。ちりめんとは絹糸に縒りを掛けて織り上げる、肌触りが優しい風合いをもち、常にさらっとしている生地。京都の「丹後ちりめん」と並び称される。他の同級生達は63、4歳ともなればほとんどが定年退職し、年金を主な収入源としながら、趣味や夫婦2人の生活を忙しくしている。
 現役の第一線で働いているのは1割程で、大企業の役員になった人もいてミニ飲み会に顔出すほど暇ではないようだ。不況で破産、夜逃げした男、親譲りの銀座の土地を他人の借金の保証人になったばかりに、騙し取られて行方不明になった男もいて酒席の話題にはこと欠かない。N君のように家業を継いで、転勤もなく生まれた土地で長く仕事して来たのが一番安定し且つ充実した人生に見える。
 和服の時代は過ぎ去ったし、繊維業界も不況で、自営業のやりくりが大変ではないかと懸念する同級生を尻目に、「君達の奥さんや娘さんの訪問着、留袖、振袖など俺に言えば安く買えるよ」と羽振りの良さを披露していた。原料は手ごろな値段で日本に輸入され、国内で染め、縫製と加工して高価な和服になる。
 原料の白生地はブラジル産が主流になりつつある。中国産は品質にばらつきがあり、売り手が偉そうに言い過ぎる。コスト的にもブラジル産に競争力があるという。ブラジルは移民した日系人が桑畑を栽培し、蚕を生産している。天然の蚕も生息していると聞く。
 明治時代から栄えた日本の養蚕業は2000年には姿を消した。長野、新潟、群馬など、古い農家には未だお蚕さんを飼っていた2階屋がある。蚕のえさになる桑の木を育てる桑肥料専門業も衰退した。桑畑はなくなったが、和服加工業は残っている。
 ブラジル転勤のまま大手メーカーを定年退職し、ブラジルに居残ったM君もいる。彼の言い分は、ブラジル移民した農村に住む日本人の多くは裕福ではない。約70万人の日系人の中には義務教育を受けられない2世3世もいる。家屋の水周りの衛生状態が悪くて、蚊や蝿が発生、マラリアなどの伝染病・皮膚病を誘発する。日本の水処理技術をその家で少し施せば、半年もあればその家族の病気は治る。日系移民の人たちに少しでもお役に立てればとボランティアで相談に乗っている。
 またブラジル大豆の輸出を手がけ、日本の納豆屋さんへ原料としてブラジル産大豆を販売する。世界の大豆の流通はユダヤ系商人のシンジケートに組み込まれ、自由勝手にはできない。大きく仕事を広げればシンジケートにつぶされる。細いルートの中で小さな専門的動きに留まる。
 日本の農業は産業としては衰退中だが、世界のあちこちで日本人の農業専門技術が生きて引き継がれている。日本の土地は減反で余っている。種さえ蒔けば、桑の木も、大豆も育つ。その気があれば、そして機運が高まれば再び日本も農業が復活する、その基盤はあるはずだ。(金右衛門)。 (2003.7.15)

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