農業協同組合新聞 JACOM
   
コラム ―― ひとこと
定年後の農家にひとこと

 「人生の最後はファーマーが理想」といったのは国鉄総裁(現JR)になった石田翁の40年前の言葉である。65歳から本格的に農業をはじめて昨年300万円の農業収入を得た身近なビジネスフレンドがいるので取材した。
 彼は、高度成長期を含む40数年間、海運会社の営業部長や常務、専務なども経験しサラリーマン人生は成功裡の定年退職だった。現役時は海外から肥料原料やとうもろこし、大豆などの飼料穀物を日本に大型船で運ぶ仕事。海上運賃取り決めにはタフな交渉相手だった。アグリビジネスを通じて農協組織、肥料や農薬の事も耳学問としては知っている。しかし、それは流通部門であり、栽培ではない。栽培は趣味で家庭菜園を若い頃から楽しんでいたにすぎない。
 3年前、定年時に選んだ住いは栃木県那須町。人口2万7000人、観光客500万人という農業と観光の町。東京から180km新幹線なら1時間で行ける。現役時代にゴルフで那須に行く機会があり、この地の景観は気に入っていた。皇室の御用邸もあるくらいで、夏は涼しい。山々に遮られ、台風が来ても上空を通過し平地の農産物に被害を与えることは少ない。
 移住してまず、10a程の畑を買おうとしたが、農地法の壁で農家でない者は農地を買えない。それでも家庭菜園でできた野菜を近所に配っている時に、パン屋の親爺と出会う。こんな美味しいレタスならパン屋に納入してくれと注文を受けた。やがて生産者の名札を付けた小さな野菜コーナーをパン屋の店先に設け、レタス以外の野菜も並べるようにした。パンを買いにきた客は野菜にも目が行く。野菜から地元の人との付き合いの輪が拡がった。ある地元農家から息子の嫁に野菜の作り方を教えてくれと頼まれる。耕作放棄していた畑を使って、野菜づくりを始めた。土地問題はこれでクリア。
 グリーン・ファーム・Oの説明書によれば、畑の野菜は土の豊かさによって決まる。土の通気性と保水性。そのためには有機物堆肥の投入が必要。土中の微生物が堆肥を食べて腐植し、土の団粒化を促進する。有機肥料を主力、畑作業は機械化でなく手作業で栽培している。
 大量生産はできず、多くの消費者に供給できないのが弱点という。葉菜ではチンゲンサイ、ハクサイ、レタスなど31種類、果菜では枝豆、トマト、ナス、ピーマンなど18種類、根菜ではゴボウ、サトイモ、人参など15種類、無農薬・有機高原野菜・ハーブ。多品種少量生産。地元は収穫当日、その他地域は翌日午前中に配送する。だから新鮮と胸を張る。販売先は飲食店など約50軒、どこも口コミで拡がった、包装も発送も自分でする。働き手は一人だから生産が追いつかないぐらい注文がある。良い物を作れば売れる。大規模化しなければ日本農業が競争で負けるという考え方は不思議だと首をかしげる。
 休日は近隣の商店主や医者等と付き合いゴルフを楽しんでいる。昔社用で鍛えた腕前はここでは強い。定年後の農業への新規参入の成功事例。(金右衛門)

(2005.3.16)

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