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コラム
反射鏡

自立した民間組織へ

  最初に自己紹介を兼ねつつ、キイを叩く自分なりの若干の考えを整理しておきたい。生粋の農協マンと自負していたが、50歳以降のこの16年を改めて振り返ってみると、何とまあ、わき道と柵の外ばかりを歩んでいたのかと、我ながら驚いた次第。
 私事になって申し訳ないが、海外に5年余、全共連(含む関連組織)が3年、証券界で6年余、フリーになって約2年である。全共連関係の3年も一般企業への融資業務が中心であった。まさしくわき道と柵の外である。農協関係紙に物を書く資格があるのかと考えるのが当然であろう。ところが、ソフトなれども豪腕・辣腕のS女史の巧みな操縦にのせられて、気が付いてみたら禿頭から湯気をたてながら、パソコンと向かい合っている始末。摩訶不思議といわざるを得ない。
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 農協組織の閉鎖性が強く指摘されてから久しく、特殊世界との印象をもって眺められていることも否定は出来ない。小生自身もそう感ずることがしばしばである。基本は柵に阻まれて、人の行き来不足にある。
 柵外の世界に通暁しようと十数年、なつかしの故郷とのよりを戻しつつあるのがここ2年。考えてみるとこのキャリアも捨てたものではない。となると、この風来坊にもそれなりの役割がありそうである。そこで、無知を承知で、勇を鼓して紙面を汚すこととした。最初オズオズ、慣れるにしたがって…。加藤前衆議院議員ではないが、人さまより考えてきたという生意気な自負をたよりに。
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 証券業界に身を置いていた折は、社内で農協の活動と組織についての説明にかなりのエネルギーを費やした。証券会社や投信会社にとって農協ならびに連合会(信用・共済)は大のお得意先である。顧客本位であれば顧客の組織・活動について正確な知識を持って然るべきであろうと考えがちである。が、思いのほか彼等は農協については関心もなく知識の度合いも低い。
 柵外の連中が日参してくるからには、俺達のことを理解してて当然と、柵内の人々は考える。ところが、彼等のビジネスにとって顧客の利益は二の次三の次なのである。顧客の属性を調べ上げ、真の需要は何であるかを把握して、攻め込んでくるほどのマーケット感覚はないとみるべきであろう。
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 「全中てぇ何だ」との問い、この説明も難しい。彼等は農水省直属の下部機構の一つと思い込んでいるのである。「基本的には民間組織たる農協の1組織である」と当方は力説。相手は納得いかぬ気ではあるが、それほど力む話題でもあるまいと引き下がっていたのであろう。ところが、ご存知のよう、小泉改革の一環で、中央官庁の関連組織整理のなか、農水省関係としては全中を対象とする旨のニュースが流れた。「それみろ純然たる直属機関じゃないか、だからお前の言うことは‐‐」と勝ち誇った顔に囲まれた次第。制度上の細部はどうでもいい、問題は彼等が官の組織と思い込んでいることである。その罪はそう印象づけた農協サイドにもあるといわねばなるまい。農協としての広範な広報活動が、より強く求められる所以である。
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 官との関係も考えねばなるまい。農業・農村の置かれた状況からして、行政の支援は必要であり、これを大いに活用することには、いささかの疑念もない。ポイントは自立した民としての意識をきちんとして持つかどうかであろう。貧しかりし農の時代からの官よりかかりの流れで、潜在的に半官半民意識が色濃く残っているようである。これからどう脱皮するかが問われることとなろう。
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 古巣にお許しを頂いて、共済事業に例をとろう。農協共済事業は民間の生保・損保、官の簡保と競合して今日にいたっている。いうまでもなく農協共済も民間事業である。ところが生保・損保(生・損保)を民保と称する習慣があった。かつてほどではないが今日にいたっても、事業計画書等にまで僅かではあるが散見される。重箱の隅をつつくような話との批判もあろう。小生はそうは思わない。とるに足らぬ一字句の使い方に半官半民意識の影を強く感ずるからである。
 自立した民間組織としての発展を祈ってやまない。(藤塚捨雄)


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