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コラム
反射鏡

農協の先駆けで、食品業界の刷新を

 久し振りに顔を出した碁会所で、みるも無様な惨敗を喫したせいか、心おだやかでない。
 匹夫のなさけなさ、何かに八つ当たりせねば気持ちがおさまらない。このコラムは、柵外から農協世界へ批判の矢を本旨としていたが、今回はその矢を四方に放ち、怒りをおさめることにしたい。
 ここのところ、人気ドラマ水戸黄門の黄門役の交代が続くと感じていたら、とうとう武部黄門様まで現れる始末である。驚くことに、“消費者本位”を伝家の紋所とした印籠を高々と掲げてである。
 牛肉の偽装問題では“制度は立派であるが、それを悪用する輩のみが悪い”と受け取れる発言をしながら――。制度の設定とその運営のズサンさの責任を荷なうべきは誰か。関係する国会議員の動きを含めて、このことの究明が、もっともっと厳しく為されねばなるまい。
 加えて、民間企業たる日ハムの役員人事に実質的に介入するのは、逆に越権行為である。
 大手百貨店・スーパーなどが、日ハム製品を店頭から撤去したのはそれなりに理解していた。ところが、販売再開についての動きが、どうもスッキリしない。予定変更、再開延期など腰が定まらない。再開したいが消費者の反応がつかみきれない、そこで農水省の販売自粛指導の解除を待ってということになるらしい。こうなると、なぜ商品撤去を行ったかも判らなくなる。自主的な判断ではなく、世間体からの迎合だったらしい。偽装による制度悪用と、その隠蔽を続けた悪徳な業界トップ企業への制裁に、徹するところがあってもいいのではないか。
 消費者も考えねばと思う。飽食が指摘されている時代である。肉類も魚も豊富に出回っている。日ハム製のハム・ソーセージを、食卓から遠ざけても、なんの痛痒も感ぜぬのではないか。この企業のその後の動きをみて、永久ボイコットに踏み切ってもいいのである。
 消費者にはそれだけの力が与えられている。ただ、その自覚に欠けているだけだと思う。
 消費者が動き、スーパー等に圧力をかけ、不正企業を社会から永久に抹殺する。このことが可能な時代になっていると思う。日本の資本主義は、それなりの成熟度に達しているといえよう。消費者の組織化と公正な行動をリードする自主的な機関として、農協と生協こそが機能し得るのではないか。なにも、武部黄門にお出ましを願う必要はないのである。
 ただ、農協の立場も複雑である。全農グループ・茨城玉川農協等の偽装問題、山形県など無登録農薬の取り扱いなど糾弾を受ける立場でもある。しかし逆にいえば、生産・加工・販売・消費を通した問題点、需要と供給両サイドの対立課題の把握も可能であり、刷新・改革の意欲さえあれば、不祥事を契機に、大いなる前進の展望を開き得るのである。このことが食品業界の刷新と発展にもつながるのではなかろうか。今こそ全国連の責任意識とリーダーシップの発揮が強く求められるところである。だが、ここに来て、その端緒が感じられないのは至極残念である。 (藤塚 捨雄)


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