農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
反射鏡

ニュージーランドの印象

 4月から5月にかけほぼ1カ月、ニュージーランド国内各所のドライブ観光を楽しんだ。総勢6名、2台に分乗しての旅行であった。小生、途中から単独行に切り替え、経済・農業事情などについて踏み込んでみたいとの考えを秘めていた。
 ところが、年齢構成等からドライバー役を引き受けざるを得なくなり、最後まで行を共にし、観光旅行に終始する羽目となった。それでも表面的とは言え、同国の実態の一端を見聞することができた。我が国の現状と比較し考えさせられること多く、風景の素晴らしさとあわせ、稔り多き1カ月であったと思っている。
 そこで今回は、その所感のいくつかを報告いたしたい。

 率直なところ、ニュージーランドの歴史・経済・社会はもちろん地理的な位置についても認識度はゼロに近く、オーストラリア大陸属島の後進国程度にしか考えていなかった。
 現地到着後、瞬時にしてその評価は一変した。比較基準の置き所も難しいが、 浅い建国の歴史(1840年)にもかかわらず、社会保障の充実・環境整備など、日本よりも先進性に満ちたところの多い国との印象を強烈に受けた。と同時に、人口が400万人にいたらぬ小国をと、軽く見ていた島国日本育ちの貧弱な見識と狭小な視野を、強く恥じ入った次第である。

 一言で表現すれば、畜産を中心とする農業国と言えるのであろう。国内いたる所、羊と牛の放牧である。どこを走っても、山林や区画のため植林されたのであろう数百メーターも続くポプラなどの並木、さらに放牧地。緑あふれるのどかな自然模様が連綿と展開する。広々としたその真っ只中を、整備された高速道が直線と緩やかなカーブを描いて流れている。あたかも米大陸をドライブしているかの錯覚におそわれてしまう。
 国土面積は我が国の約4分の3とのことであるが、農用地の面積では大きく逆転しているとみられる。農業のあり方が根本的に異なるので、個々についてのデータ比較は無用であろうが、農の位置づけの重みを強く印象づけられた旅行であった。

 自然美と自然保護を賛美していたところ、そうでもないらしい。山林を切り開いて放牧地を中心とする農用地としたのであろうが、そのため滞水力が低下し、土砂崩れの増大を招いているとの批判が強まっているとのことである。世の中、なかなか全て良しとはまいらぬらしい。ひょんなことから水田の効用を改めて思い出したものである。

 食生活は質素である。
 牛・鶏肉とサーモン主体で日本の食卓の領域の広さと種類の豊かさには及ぶべくもない。穀物自給率28パーセントと輸入依存の日本人の食生活につき、矛盾を強く感じたものである。当地のデパートを覗いても“メイド・イン・ジャパン”なる工業生産物が見出し難くなっているなかでは尚更である。食生活も含めて食糧自給のあり方が厳しく問われるのではなかろうか。

 気が付いてみると、すでに千字をはるかに超えているようである。このての報告は現地についての説明も必要なことから、いたずらに字数を喰ってしまった。要領を得ないがここで終わりとしたい。
 最後に一言。“大きいことはいいことだ”に慣れきった小生の高度成長病が痛烈なパンチに見舞われた1カ月であった。 (藤塚捨雄)

(2003.6.5)

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