農業協同組合新聞 JACOM
 
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コラム
反射鏡

冷夏の読書から…米国をより冷静に見つめ、
されど学ぶべき点は…。

 やや残暑は残ったものの今年は冷夏だった。そのせいか、読書のはかどった年でもあった。
 残念ながら、21世紀を見通し、来るべき社会像を描き、それに向けての国民努力を示唆する著作を見出し得なかったが、つぎの3書は読み甲斐のあるものだった。読みづらい横文字が並ぶが、それを嫌ってもおれない時代でもあるので、しばしご辛抱願いたい。
 『ブッシュの戦争』(ボブ・ウッドワード…ウォターゲイト事件の特ダネ記者)、『ブッシュ・世界を壊した権力の真実』(カレル・ヴァン・ウォルフレン…日本に拠点を置くオランダ人ジャーナリスト)と検証・経済失政、経済迷走、経済暗雲の3部作(西野智彦等…時事通信記者)である。
 特段の新事実が明らかにされているわけではないが、小生の抱いている疑問や懸念に、それなりに答えてくれており、得るところ大きかったと感じている。トータルとして感じた点を3点に絞って述べおきたい。

 その1、米国を冷静に眺めるとき。

 テロ対応を新たなる戦争と規定したブッシュ政権ならびに米国そのものの危うさは、イラク統治の躓きで明らかになりつつあるが、問題はより属国の度を強めている日本国の姿である。米国の市場主義の行き着くところは、エンロン社事件に象徴的に示されている。日本の社会主義的保護政策からの脱皮は至上課題であるにしても、米国への政治的服従と市場の優勝劣敗模倣からの脱出は一刻も猶予があってはならない。参考にすることと隷従・物真似とを混同しているような気がしてならない。

 その2、やはり優れた米国の集中力。

 9.11の同時多発テロ以降のアフガニスタン侵攻・占拠、イラク侵攻に至る間、ホワイトハウスを中心としたブッシュ政権の動きを見る時、日本との差に愕然たる思いである。
 大統領を中心に副大統領、国家・国防両長官、統合参謀議長、大統領補佐官が連日にわたり高密度の議論を展開しているのである。それにあわせて陸海空の3軍、CIAなどの情報機関、国務省を軸とした外交組織が、対立を含みつつも有機的な連携を図り兵站外交工作も含み綿密にして広範な調査・検討・準備を短時日の間に展開する。高度に発達した縦割り組織が大統領職権力のもと、統合的に機能発揮する様が詳細に描かれ白日の下にさらされている。情報公開と報道の自由の度合も含めて評価せねばなるまい。イラク侵攻そのものは最悪の政治選択であることとは別にして…。

 その3、危険予知と対応力。

 今日にいたるも我が国の金融不安は解決の展望を見出せずに10年来の低迷にあえいでいる。そのなかで前掲著は1992年から1998年に至る動き、なかんずく住専、三洋・山一證券、兵庫銀行の流れを追いながら大蔵・日銀などの金融当局の先送りと組織防衛体質を明らかにしている。同時に政治家の金融知識の欠如と、官僚依存から来る金融危機対応への認識の低さと事務当局からの情報遮断も暴露されている。危機発生の予見可能な情勢下にあって、対応なきままに無為な時間を過ごした政・官の無能ぶりは明々白々である。
 これでは金融不安が解消されないのも、むべなるかなである。ホワイトハウスの即時臨戦体制と比較するとき、軍事・金融の違いはあるものの、暗然とならざるを得ない。
 3冊を通読して、わが意を得たりと感じた点を、ただ並べてみたまでである。したがって、“だから日本も農協も”、とはあえて申し上げません。(藤塚捨雄)(2003.10.24)

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