農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
反射鏡

共済金の支払いこそ共済事業の根幹
―生保の保険金支払い問題を見て―

明治安田生命社長の辞意

 「明治安田生命社長辞任へ」との72ポ以上の大見出しの記事が飛び込んできた。2月に受けた死亡保険金不正支払処分の責任をようやくとったか、それにしても遅きに失したものだと思った。ところがそれは当方の生来の甘さであって、ナントまたしても新たな保険金不払いが発覚したとのことである。
 さすがに今回は居直ることができず、7月5日の総代会で、辞意を表明するに至ったそうである。当然、就任予定であった生保協会会長の座も辞退することとなる。
 数年前、生保の倒産が続出した。千代田生命、東邦生命、日産生命などは、バブル時の資産運用の失敗が主たる要因であった。プロの金融機関でさえ、倒産あるいは公的資金の導入騒ぎの真っ最中であった。つまりわが国金融界史上、かつてないほどの異常時でもあったのである。その中で、金融のアマチュア機関たる生保の不良債権抱え込みなどの不始末は、やむを得なかったともいえよう。

経営本位・契約者軽視の保険金支払い

 ところが今回の不祥事は、生命保険基本業務中の基本たる保険金支払いにおいて発生したのである。本来払うべき保険金を、いろいろ理由をつけて払わなかったそうで、保険の根幹にかかわる犯罪行為なのである。契約者軽視もここに極まれりとも言えよう。
 合併前の旧明治生命が2002年3月に、「死差益拡大による収益力強化」を経営目標に掲げたことが、今回の事件の主たる要因と言える。「死差益」とは死亡保険の支払い見込み額と実際の保険金支払額との差額のことであり、支払査定を厳しくすれば、それだけ多くの差益を得ることになる。端的に言えば、甘い言葉で契約を募り、いざ払う段になると難癖をつけてケチる類である。
 保険業はまだまだベールに包まれ、利用者もわかりにくい世界とされている。例えば一般に“保険金が下りる”と言われる。“下される”と同じ響きである。この言葉遣いが何に起因するか、その由来は知らない。ただ上から下へといったニュアンスが含まれているように思えるのである。そこには保険金の支払いは、保険会社側にすべて裁量権ありとする発想が、潜んでいるのではなかろうか。保険事業の根幹は保険者・契約者対等の原則に基づく保険金支払いにあることを忘れてはなるまい。

農協共済にも一言

 混同を避ける意味で、保険のみに限定したが、共済とて全く同様である。そこで、ひるがえって、農協共済を見てみよう。幸いにして農協共済にあっては前述したような基本問題は発生していないようである。ただ、契約者の立場に立って、迅速な支払いがなされているかについては甚だ疑問である。過日も小生の亡くなった友人の遺族は死亡共済金の受け取りまでに、思いのほか時間と手間を要したようである。例えば、やや特殊なケースということではあるが、本籍地に関する証明を数種類も求められ、旧本籍地と数回も文書往復したことである。保険・共済の支払いは性悪論的要素を無視し得ない面もあるが、支払いこそ最後のツメどころであり、さらなる改善を望みたい。
 農協共済の平成16年度の支払総額は3兆6000億円を超えたとのことである。農水省の平成17年度予算約3兆円を上回る金額である。大きいこといいこととは言わぬが、支払い業務についての責任がいっそう高まったと言えよう。さらなる努力を傾注されたい。(藤塚捨雄)

(2005.7.15)



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