農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
つくば山麓 野良だより

地域農業を担ってきたのは誰か?

 芽吹き時! 山は新緑と山桜のコントラストが小雨に濡れて美しい。何とも言えない心の安らぎを感じる最高の季節を迎えている。庭ではれんぎょう・こでまり・ツツジ・花見月・皐月など次から次に黄色、白、ピンク、赤と可憐な花を咲かせ、ツバメも帰ってきた。そして突然の春雷…常に農家はこうして自然と共に生きてきたのだと思う。
 いよいよ田植えの季節を迎えた。今ではすっかり機械化され、あっという間に田んぼは土色から、一面早苗の緑に早変わりする。お昼時田んぼのあちこちでは、さながらピクニックのように寿司や唐揚げ、ビールが用意され、野良弁が似合う。集落では田植えに先立ち、例年のように掘りさらいが行われた。「おらげ(家)じゃ食うコメしか作ってねえのに…」と文句を言いつつも、地域のみんなが参加する共同作業だ。久々に顔を合わせる人達の貴重な情報交換の場でもある。別の地域では欠席者から協力金を取る所もあるという。

◆適地適作と歴史の重み!

 4月18日〜20日にかけて九州の福岡・佐賀・長崎を視察する機会を得た。第16回まほろばサミットに参加するためだ。
 北は宮城県から南は鹿児島県の奄美大島まで、全国の『大和』と名の付く12の市町村がこの16年間交流を深めてきた。このサミットも全国の合併の嵐の中で今回が最後となった。行く先々で、「田んぼや畑に今作付けされているの何だっぺ? さすがに作は進んでいんなや。土の色…耕作規模はどうした?」等々、車窓から身を乗り出して仲間と会話が弾み、カラオケやつまみもいらない。同じ農民にしか解らない楽しい(?)性である! 佐賀県に住んでいるというバスガイドさんが会場への道々、一面に拡がる麦畑の美しさと、間もなく取り入れと共にこの田んぼが水田となって緑一色に埋め尽くされる事を誇らしげに話してくれた。
 ところが我が同僚議員(農協理事)の一人がそれを聞くなり、「これだから日本のコメが余ってしょうがねえんだ」…ガイドさんの失笑をかったのは言うまでもない。二毛作は気象条件や少ない耕作面積の中で、この地方の農民が長い年月をかけて苦労して築き上げてきた農の歴史・文化そのものである。このお別れサミットの締めくくりとして、神奈川県の大和市長が「自治体のあり方、町おこし・村おこしの原点を全国の、このまほろば連邦の多くの仲間から教わった。これからもそれを大切に自治体運営に生かしていきたい」と言われた言葉が印象的だった。
 今、日本農業の行方を左右する『基本計画』の見直し作業が進められている。その中で農林水産省は効率的、安定的な経営を図る一定規模以上の農家をプロ農家と位置づけ、そこに集中的に助成する方針を打ち出している。
 もはや小規模・零細農家はいらないということか。我が村の農業をたった2人だけの『認定農家』(今の担い手要件…)では絶対に守れるはずがない! 堀さらいや草刈りといった村の共同作業があるからこそ、長い間『集落営農』を支えてこれたのだ。『ムラ』が守ってきた特有の伝統や文化、風習を抜きにしては日本の農業は語れない。あちこちに点在する荒れ果てた休耕田を見るたびにそう思う。
 国民年金を未納しても、制度のせいにして居直る国会議員。農家の現状を知らない官僚。こんな方々に、大切な日本農業の行方を決められたくない。
(茨城県大和村在住 農業) (野沢博) (2004.5.25)



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