農業協同組合新聞 JACOM
 
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コラム
つくば山麓 野良だより

農家のプライドと現実

 稲穂が黄金色に頭をたれ、いよいよ収穫真っ盛りを迎えた筑波山麓では、今あちこちでコンバインのエンジン音が鳴り響き、荷台にコンテナを乗せた軽トラがならぶ。30キロ以上あるもみ袋を、奥さんや子ども達がせっせと運ぶ風景はすっかり見られなくなった。米農家にとって、田植えから始まり、最後の刈り取り。年に一度の最大のイベントである。それはまた1年に1日か2日しか使われない田植機やコンバインが大活躍する場でもある。収穫の喜びと共に、1ヘクタールや2ヘクタールの田んぼにこんな過剰投資を…?といつも考えさせられる。当地方では昨年に比べ、10アール当たり1〜3俵の減収だと言われている。そしていわゆるヤミ米は1俵数千円の値上がりだとか。
 今朝、東北岩手県の友人に電話した。米の収穫見込みは良い人で平年作の5〜6割、ひどい人は皆無か1〜3割だと言う。もう一件の農家の母親も『全然ダメだ!今年は買って食わねばなんねぇ…』と吐き捨てるように言って、早々に電話を切られた。(収穫は場所によってかなり開きがあるので、現状では断定できない。)1番悲しかったことは『米に頼る農家が多いので地域全体がすっかり元気を無くしている。』という話だった。また北海道の友人は、今年農業に見切りをつけて、かなり離農が進むのではないか…と心配しているという。折しも“作物泥棒”の異常発生!何ともやりきれない気持ちになる。
 先日、我が“グリーンサミット大和”で、消費税の学習会が開催された。今年から課税売上高が1000万円を超える場合は消費税の課税対象となるからだ。講師はつい数年前まで農家を徴税でいじめていた(?)と自称する「元税務署員の先生」。税理士になってみて初めて、『農家から税金を取るほど農家が儲かっていないことがよく解った!申し訳ないことをした!』と言われた言葉が、いかにも本音らしくて、面白かった。真壁郡一帯は小玉スイカと抑制トマトの一大産地を築いている。あれほど資材や農薬・肥料を投入しながら、消費税の対象農家になっていないことは学習会の後の“飲み会”で酒を酌み交わすほどに…明らかになってくる。『とてもじゃないけど、ホンとはこんなところで酒飲んでる余裕ねんだ!』みんなプライド(?)があるから資材代払えないなんて言わない。今年はスイカもトマトも大幅な減収だ。これが農家の現実だと改めて思う。
 一方かつて『白菜御殿』が建った筑波山麓のあっちの地域では、『まるで、外国に来たみたい!』と言われるほど、外国人を雇用しての大規模な農業経営が展開されている。こちらもまた生き残りをかけた壮絶なバトルが日々繰り広げられている。法人化して仲間と組織化したり、出荷組合を新たに作った農家もいる。しかし、彼らは「御殿」に住んでいても、実は大半の農家は、畑で朝も昼も“野良弁”をかき込みながらの生活で、ゆっくり家庭の団らんを楽しむゆとりがない。おそらくサラリーマンの2倍近く働いているのではないんだろうか?これも日本農業の現実である。(茨城県大和村在住 農業) (野沢 博) (2003.11.10)

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