農業協同組合新聞 JACOM
 
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コラム
つくば山麓 野良だより

風評被害とささやかな抵抗!

 当地方では、すっかり梅のたよりがきかれる季節になりました。昨年は10年ぶりの米の不作や農産物の大暴落等、農家にとっては受難の年だった。今年こそは良い年に! と思っている矢先、アメリカのBSE問題、鳥インフルエンザの発生など新年早々から農家は袋叩きだ。
 昨年10月「テレビ朝日ダイオキシン報道訴訟」の最高裁判決で、農家側が、実質逆転勝訴した。テレビ朝日系の報道番組「ニュースステーション」が、埼玉県所沢市産の野菜から高濃度のダイオキシンが検出されたと報道され被害を受けたとして、農家29人が同社に損害賠償などを求めた訴訟である。
 報道直後、スーパーなどの取引中止が相次ぎ、20日間で県内の農家の損害はホウレンソウを始め4億円に上ったと言われている。「法廷は農家のプライドをかけた戦いの場」だったと振り返る原告団長の金子さん。風評被害と闘い約5年の歳月が流れた。
 そして同じ年、茨城県でも東海村の臨界事故が発生した。事故の内容はともかくとして、農業や漁業がこの事故でこうむった被害は計り知れない。茨城産の農産物というだけで、買いたたかれ、廃棄処分になった。特産物のサツマイモや白菜・レタスなども大量に行き先を失った。県ではこの災害対策費の一部を「茨城県産」の箱を「無印」に変える費用に充てたという。そしてその前は“O157”発生時の「かいわれ大根犯人説」、ごく最近では霞ヶ浦の鯉ヘルペス問題等(全国の半分を出荷してきた一大産地はおそらく消滅するだろう…)数え上げたらきりがない。農・漁業は常に『様々な災害』との闘いの歴史であったと思う。
 今、農産物の“違法表示”が大問題になっている。JAS法が改正され、さらに内容の表示は厳密になった。輸入牛肉を国産と偽ったり、半年前の卵を販売したり…そんなことは論外だ! しかしこれまで本州産メロンが夕張メロンに化けたり、他産地の米が魚沼産コシヒカリにグレードアップするのはいわば「流通界の常識」ではなかったのか?「看板に偽りがあってはならない!」に決まっているが、産地の箱の名前だけで、中身を決めつけられて、買い叩かれた農家はたまったものではない。
 昨年、NHKは群馬県の嬬恋村のキャベツを特集した。消毒回数39回を半分の19回に減らして減農薬を目指すという。連作障害と昨年の長雨と低温の中で、農家が根こぶ病や菌核病・株ぐされ病と闘いながら、薬の散布回数を減らし、あるいは微生物農薬の使用で、いかに安全なキャベツを生産しようと努力しているかをテーマにした番組だったと思う。
 しかし残念ながら視ている者は絶対にそうは思わない。早速次の日何人かの消費者から「あんなキャベツ食べられないよね!」と言われた。生産者も「近所にあげても喜ばれない…」と嘆く始末。
 消費者が本当に安心して農産物を手に入れるとしたら、自分でそれを作るか、絶対的に信頼できる生産者と連携してのいわゆる“産直”しかない。でもそれを一般化するのは不可能だ。だから消費者はテレビや新聞などのマスコミ報道に右往左往せざるを得ない。マスコミの役割は今や、あまりにも大きいことを関係者は本当に自覚しているのだろうか? はなはだ疑問である。
 消費者が安心して口にできる農産物を供給するために、また安定した価格を確保し、農業で暮らしを成り立たせていくためにも、農家の地道な努力がすでに今年も始まっている。(茨城県大和村在住 農業) (野沢 博)(2004.2.6)

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