農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

幽霊と花と
挿絵:種田英幸
文  :種田庸宥 日本福祉大学客員教授



昨日生まれたタコの子が…

昨日生まれたタコの子が
タマにあたって名誉の戦死
タコの遺骨はいつ帰る
骨がないから帰れない
タコの母ちゃん悲しかろ
         『湖畔の宿』替え歌

「君死にたまふことなかれ」
          与謝野晶子

ああ、弟よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
末に生れし君なれば
親のなさけは勝りしも、
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
二十四までを育てしや。



故郷に帰った英雄

 太平洋戦争中の話。杉並区成田東を流れる善福寺川のそばの田圃には、夜になると大勢の人の声やら姿が見えてにぎやかだというが、人が近づくと誰もいない。それは若く戦死した兵たちが亡霊となって集ってきていたのだ。

 東京都・小沢良吉/談


子を育てた幽霊

 昔ある所の奥さん子供生まれるがねなって死んでしまはったとお。旦那はんよわってしもて泣いてはったれど、葬式も終わって埋めてしもうたがやとお。
 そっからどっだけ経ったがか知らねど、埋めてしもうてから、子供(ねね)生まれたちや誰も知らんもんやけで、あっかぁる(安心)しておったとお。いつの間にやら四十九日のお粥もろうに来た乞食めたい格好した者、死んだ奥さんそっくるやったいう話が広がったとお。
 そしたらその話とうとう旦那はんの耳に入ってしもうたとお。旦那はんいくそってしもうて、次の朝またお粥もろに来たもんやけで、かくれてその後つけて行ってみたら、奥さん埋(うず)めた墓の所でぴしゃっとわからんようねなってしもうたとお。
 一ぺんならなんやれど、二へん、三べんと重なったら皆んな気しょく悪なってしもうてそこ掘ってめんまいか(みようではないか)ちゃう話になったとお。
 そしていよいよ掘ってめたら死んだ奥さんの腹から子供生まれて、ころころになって口の端にお粥泥々についておったとお。そっで旦那はん子供つれてこらはったがやれど、親の子を思う一念ちゃこういうもんやてえ、言うて皆いくそったとおい。

 富山県・「越中射水の昔話」伊藤曙覧・三弥井書店



花火

一 どんと なった。
  花火 だ、
  きれい だな。
  空いっぱいに
  ひろがった、
  しだれやなぎが
  ひろがった。

 

 

二 どんと なった。
  何百、
  赤い 星、
  一どに かわって、
  青い 星、
  も一度 かわって、
  金の 星。
              文部省唱歌

 

 「心に染みいる日本の詞歌」(塩田丸男)の“諳んじたい名作一八二選”に、戦中・戦後、私たち児童が歌った「湖畔の宿」の替え歌“タコの子の戦死”があげられています。
 こうやって詠み直してみると、この替え歌は、遺骨が帰ってこなかった、この前の戦争批判を前面に打ち出した、すぐれた反戦歌だったのですね。
 そこで、日本の代表的な反戦詩「君死にたまふことなかれ」と並べてみました。私は名もない、民衆の歌のエネルギーに、今さらながら驚きます。

 私は50年前上京して、本屋の配達のアルバイトを始めました。井の頭公園の南側の田園地帯でした。
 土佐の山奥の小学校低学年の頃、隣の地主のお姉さんが、土蔵から出してくれた絵本(キンダーブック創刊号)を見て、「こんなに広々とした田や畑、雑木林に小川に神社などといった場所が、この世にあるのだろうか?」と思ったファンタジーの世界は、実はこの杉並善福寺川周辺を写生したものだったのです。
 さて、この私にとって懐かしい、善福寺川の幽霊をとりあげました。ここには広々とした丘もありましたから、戦中には練兵場もあったでしょう。
 そこへ、若くして戦死した兵士たちが、夏の夜、みんなでもどってくるのです。これは松谷みよ子「現代民話考U・軍隊」からです。松谷さんは、宮川さんの「ホタル」も紹介しています。
 “終戦後の善福寺川にはホタルが沢山飛びかい、そこで耳をすますと、カヤカヤと人のささやく声がする。沢山の兵隊の魂がホタルになって帰ってきたのだ、と人々は語り合った”。
 どちらも、戦争への民衆の想いが凝縮された話ですが、私は、日本中どこにもある、赤ん坊を守る母の幽霊が好きですが、みなさんはいかがですか。
  最後は、夏らしく「花火」でしめましょう。
  画家・種田英幸さんは、どんなカラーストーリーをつくってくれるでしょうか。

(2004.8.26)

社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。