農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

谷ごと農場の構想と実践

 大分県竹田市九重町地区に、「谷ごと農場」がある。大野川の源流地域で、いうまでもなく中山間地域で、8つの谷に分かれているが、この8つの谷をまとめて地区全体を「谷ごと農場」と名付けて多彩な活動をしている。中山間地域等直接支払制度の発足にあたって、全国で真っ先に非農家も含む166戸全戸加入の集落協定(会長、後藤生也さん、75歳)を締結したところである。
 九重野地区は中山間地域交付金を2537万円(農地面積121ha)を受け取っている。このうち3分の1の845万円は耕作・農地管理者へ直接渡しているが、残りの3分の2の1692万円は「共益金」として積み立て、事務費・事務局費(130万円)を除いた分はすべて、「攻めの事業」と「守りの事業」に大別して活用している。「守りの事業」は農道補修事業や水路維持補修事業であり、当然必要とされるものである。九重野地区の面目躍如たるところは「攻めの事業」にある。その事業の主なものは、(1)受託組合育成事業、(2)農産加工所建設事業、(3)ライスセンター建設負担金、(4)都市・農村交流事業、(5)実証圃助成金、(6)一般作物推進費その他となっている。これら事業の金額については煩雑になるので割愛するが、「攻めの事業」に計上された予算を原資にいろいろな補助金を導入し、活かしつつ地域農業の活性化につなげているのである。
 そこで、この「攻めの事業」の特徴を簡潔に紹介しておこう。
 まず受託組合である。もともと九重野地区には共同のライスセンターとコンバイン1台で稲刈りの受託の前史があった。それが転作強化の中で発展し稲作、大豆、そばなども受託する組合へと発展し、さらに中山間地域等直接支払制度の発足とともに、組合の基盤充実へと努め飼料作物の収穫なども可能になっている。この受託組合の活動のもとで厳しい耕作条件の中にありながら、耕地利用率は実に180%、セイタカアワダチソーが一本も見られない景観になっている。
 第二は農産加工施設である。地区の女性たちで作る若葉会(会長、佐田京子さん、会員16名)はもともと地区内の農産物加工を細々とやってきていたが、中山間交付金制度の発足で一挙に開花する。毎年300万円の予算、5年間で1500万円。これを地元負担金として、総工費5000万円の加工所「みらい工房若葉」が平成14年5月に完成した。主力商品は、九重野特産の青大豆を使った豆腐、そして味噌、酒まんじゅう、ゆで餅、そばまんじゅう、かりんとうなどの菓子類、多様な総菜。売れ行きは右肩上がりである。
 第三はグリーン・ツーリズム。まだ緒についたばかりであるが色々の目玉が出てきている。その一つが円形分水公園。先人の知恵でこの地区には用水を均等に配分するように工夫した円形の分水施設が70年前の昭和9年に作られていた。この貴重な遺産を現代に活かし公園づくりを行い、また緩木(ゆるぎ)神社の景観を活かしつつ、都市・農村交流の新たな舞台作りに地区民一体となって汗を流している。
 いま一つ注目すべきことは、河野達雄さん(70才)たちのすすめている「谷ごと牧場」の活動である。水田、畑そして荒廃地4.1haを1谷そっくり囲っての放牧による和牛の飼育と生産を河野さんはすすめてきた。陽当り良く運動十分な母牛からは、健康な牛が生まれ、あり余る草を十分に食べて育った子牛は、なんと7カ月で体重が280kg、1日の増体量は1.2kgという。いま、アメリカのBSE問題以来、子牛価格は高騰を重ねている。荒廃地はもちろん里山も含む「谷ごと牧場」には将来展望が明るいと言う。
 中山間地域等直接支払制度の発足から、私は、この九重野地区のリーダーの皆さん方とは昼は理論を、夜は一献傾けながら議論を重ねてきた。いわば地域活性化塾である。それがいま大きく稔りつつある。しかし、これからが本番である。頑張って頂きたい。

(2004.11.2)


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