農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

競と協


 ここ20年程前から、私は全国各地で講演を頼まれた折、その講演のしめくくりに一句を掲げてこれからの方向と展望を説いてきた。
   我は我
    されどなお問う
     共と協
 五七五調になっているが季語が無いので川柳と言うことになろう。その意図するところを簡潔に説明しておきたい。
 「我は我」という言葉に込められた意味は「個の自立」、「自己責任の原則」ということであり、さらにそこから「市場競争原理」という現代の経済社会の原則を表現しようとしたつもりである。
 「されどなお問う」というのは、しかし、農業、農村のことを念頭におきつつ将来展望を構想しようとした場合、市場競争原理の貫徹を主張、強調するだけで、すべての問題が解決するだろうか、そうではないのではなかろうか、と自問自答しようとしているのである。
 では何が必要かつ重要か。「共と協」である。「共」とは古くからの用語で言えば「共同体」、現代的に言えば地域社会ということであり、農村における生産と生活を全体像として考えようということである。「協」とは生産と生活の向上のために、心と力を合わせた協同活動を通して、協力することが必要不可欠ではないかということである。
 以上のことをさらに整理してみるならば、自己責任の原則を前提とした市場経済原理の追求が現代社会の本質であるが、しかし、農業、農村というそれぞれ固有の歴史をもつ地域社会をよりよく生きがいのある望ましい地域に改革し作り上げるためには協同の原則に基づいた住民の自治による主体的活動こそが重要ではなかろうか――こういうことをこの一句で表現したかったのである。
 さて、この私の思想を地で行くような事例に先日出会った。

◆集落営農を基盤に多彩な活動

 農業を柱に多面的な活動をすすめて輝かしい成果をあげている大分県豊後高田市蕗地区の「ふき活性化協議会」と農事組合法人「ふき村」である。国宝富貴寺のある国東半島中央部の中山間地域に立地し、「農業と観光が調和した地域づくり」を目指し、耕地利用率189%という活力あふれる農業を基盤に、地区内の各組織と連携しグリーンツーリズムの推進や農産物の加工、販売など六次産業化の推進など実に多彩な活動に取り組んでいる。
 こうした活動のきっかけは、1995年の圃場の大規模区画事業への着手とそれを契機とする集落営農への取り組みであった。99年に3集落1農場という姿の蕗地区営農組合を設立し、さらに討議と実践を深め、04年に農事組合法人「ふき村」へと発展した。構成戸数は3集落68戸、経営面積22.7ha、常雇1人。水稲(13.8ha)、小麦(18.6ha)、大豆(3.1ha)、そば(5.8ha)、なばな(0.3ha)、合鴨(1000羽)などとなっている(H17年実績)。水田作業の徹底した合理化で多彩な活動分野が広がった。
 農事組合法人「ふき村」には企画部会、作業部会、オペレーター部会、女性部会、合鴨部会などありそれぞれ活発な活動をしているが紙数の制約で特徴点だけ述べておこう。
 アイガモは市の特産である白ネギと相性のよい点に着目、この地区の目玉商品に仕立てあげた。「ふき村」の女性部会が食肉にならない部位も再活用して「ぶんご合鴨めしの素」などを開発。いまでは1万個を超える人気商品となり、ゆうパック商品として注文が後をたたなくなっている。さらにアイガモ水稲同時作も導入、特別栽培米として高く評価されエコファーマーの認定も受けている。
 女性の皆さんは農産物直売所「蓮華」を設立して活動しているだけでなく、別のグループは都市・農村交流(グリーンツーリズム)の基地として、国宝富貴寺横に体験交流宿泊施設「旅庵蕗薹(ふきのとう)」を拠点に、宿泊はもちろん地元で採れる農林産物にかかわりをもつ食の提供やそば打ち、納豆づくりなどの多彩な加工体験の場も創り出している。私は泊まる時間的余裕がなく残念だったが、地産材で造った温泉もある実に美しい旅荘であった。また、頂いた地産地食の昼食は実に見事で美味しかった。
 さらに女性や高齢者は特産の「なばな」の生産に励んでおり、法人の水田を希望すれば適地はどこでも貸し出すことにしている。「なばな」はこの「ふき村」の生産活動への取り組みがきっかけとなって、豊後高田市全体でも飛躍的に伸び1億円を超える目玉商品になっている。
 さらに「ふき村」では市全域を対象に、大豆やそばの作業に機械つきオペレーターを派遣するアグリヘルパー活動もすすめている。この活動を契機に市内の集団転作面積は大幅に増加し、さらに他地区で集落営農組織が誕生するきっかけも作っているといわれている。

◆天皇杯に輝く

 以上、蕗地区の活動のごく一端を述べるにとどまったが、農事組合法人「ふき村」の活動により地域農業の活性化を図り、さらに「ふき活性化協議会」の多彩な活動を通じて非農家を含め地域住民の定住の地を創り出し、UターンやIターン(これまで合計7家族24名、大人12名、子供12名)の希望者が増えてきている。
 さらに地域内だけでなく、「なばな」や「アグリヘルパー事業」を通じて豊後高田市内の近隣地区へも大きな刺激を与え、また国宝富貴寺を訪ねる全国からの観光客に、心に残る暖かさを与えているのである。
 こういう活動の成果が高く評価されたのであろう06年度農林水産祭天皇杯の栄誉に輝いたことを紹介して結びとしたい。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸
 
(2007.4.18)


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