農業協同組合新聞 JACOM
 
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コラム
とんぼの独り言

天然=安全=無毒?

 今の世の中、自然食品だの、無農薬野菜だの、天然や自然を謳い文句にした農産物が多く見受けられる。もちろん、天然ものはすばらしいし、農薬だって使わずに作れるものならそれにこしたことはない。農薬が使われないならトンボもずっと楽をさせてもらえるにちがいない。それに、農薬の散布には、農家にとって少なからずリスクがあるし、お金もかかるからね。
 ただし、考えなければならないのは、ほんとうに天然=安全=無毒と言い切れるかのかどうかということだ。というのも、毒性というものは、あるなしではなく、強いか弱いかで判断されるものだからだ。例えば、よく使われる例だが、天然物の例として塩を考えてみよう。塩にも毒性があって、塩のLD50は3000mg/kgである。このLD50というものは、半数致死量といって、ある量を一度に摂取した場合に半数が死ぬという量である。つまり、体重50kgの人であれば、150g(=3000mg×50)の塩を一度に摂取すれば、100人のうち、50人が死んでしまうのである。
 えっ?!、なんで半数なんだって?そうだよね、どうせ値を示すなら100%死ぬLD100や、多くの人が大半と感じる90%のLD90の方が信憑性があってよさそうだよな。でも、毒性を研究している先生によると、LD100やLD90では、固体差が出過ぎて、毒性の強弱を計るのには不都合なんだって。
 おっと、横道にそれたようだが、とりあえず、人間が生きていくのに必要な塩にも毒性があることはわかってもらえたと思う。
 つまり、極端な言い方すれば塩だって毒なんだよね。なのに何故、人は塩の使用を禁止にしようなどと言い出さないのだろうか。それは、人間の体にとって必要不可欠なものであるからにほかならない。現に人間は、「塩分の取りすぎは体によくない」と適量を上手に摂取するように食べ物とかを工夫している。つまり、毒であっても、きちんと摂取量を調整するようにすれば、人間に役立つものになるということである。
 医薬などは、まさにこの典型だろう。丁度よい量であれば、きちんと病気の症状を緩和してくれるのに、使用量を間違うと命の危険すら出る場合がある。けれども、医薬も「毒で危険だから禁止しよう」とはならない。塩と同じように利点(=人間の病気を治す)があるから、禁止せず上手に使っていこうではないかということなんだろう。
 では、農薬の場合はどうであろうか。農薬は、作物を病害虫や雑草から守ってくれるという立派な利点があるのにも関わらず、毒性の強弱などもおかまいなしに「毒だから使うな」となる。世の中には、農薬よりも毒性の強い医薬品や嗜好品、かび毒などの天然毒があふれているのにである。なんだか、矛盾しているよな。農薬だって、利点を生かす正しい使い方というものがあるんだから、上手に使って、元気な作物を育てればいいのにと思うのだがいかがであろうか。(田端とんぼ)

(2006.12.1)



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