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コラム


「ツバメ」

 “麦秋”はどうやら梅雨に遭わずに乗りきったようだ。梅雨といえばツバメ。我が家の軒下に今年はツバメが巣をつくった。玄関の屋根を支えるレンガの貼った柱にお椀型の巣が張りついている。雛は5羽。親鳥がせっせと黄色い嘴を開けた雛に餌を運ぶ。
 『ツバメが巣をつくるとその家に吉事がある』と、昔言われたそうだが、我が家は今、母親の介護で大苦戦。事情があって昨年から同居、80歳になる。長年の農作業で腰は曲がってはいるものの、スタスタ歩けるし、体に大して悪いところはない。問題は心。
 医者の診断によると老人性ウツ病。一番の迷惑は女房。突然の同居に加えて、病人の介護。女は3つの顔を持つという。妻の顔。母の顔。社会の顔。子育てに目処がたち、亭主は元気で留守がいいの類で、妻と母の顔はそろそろ卒業。これからやっと社会の顔、自分の世界にと思いきや、姑の介護で4つ目の顔、昔風にいえば「嫁」の顔を持つ羽目に。
 これでは介護地獄に落ちると、介護認定を申請。認定は要介護1、これで何とか公的介護サービスが受けられると思ったところ、そう簡単ではない。例えば、介護保健施設に入所するには心身の状態が悪すぎてはいけないらしい。とくに、そこは体のケアはともかく、心のケアまで手がまわらないようだ。
 東京都の調べでは、50代の勤労男性の5人に1人強が現在介護中。女性では4人に1人とか。「亭主の代わりはないが、市長の代わりはある」の名せりふを吐いたどこかの市長ほど、家庭と仕事を持つ中高年には介護に専念する余裕がない。
 女に3つの顔がある、というが男にもある。夫の顔。親父の顔。仕事を持つ社会の顔。今まで懸命にこの3つの顔を支えてきたが、これに今度は親の介護が加わる。4つ目の顔、“介護の顔”とでもいうのだろうか。
 女も男も4つの顔を持たねばならない難儀な世の中。精々、介護の社会的サポートの充実を待つしかないようだ。ツバメの巣を観察していると親子関係はすこぶる良い。女親が餌を探している間、男親は巣を外敵に荒らされないように見張っている。ところでツバメの舅や姑は……。
 (だだっ児)



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