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コラム


「ぼけている暇はない」

 名文、いや、われわれ国民の道標である「法」がまた1つ消えようとしている。
 「農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは・・・・・公共の福祉を念願するわれら国民の責務に属するものである」旧農業基本法の前文。農業のための、そして農業者のための基本法、「日本農業の憲法」と言われたこの格調の高い法律は数年前に消えた。
 今度は、現行憲法そのものが危うい。憲法前文には「日本国民は、(略)政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し・・・・・」と、人類普遍の原理といわれる「国民主権」、「平和主義」を高らかにうたっている。戦争の放棄をうたった第9条もすこぶる格調の高い名文。
 今、国会に、「有事3法案」や「メディア規制2法案」が上程され、審議されている。有事、国語辞書には「戦争・事変や特別大きい天災・人災など、緊急の事態が起きること」とある。法案の中身を知らないと、有事の際は、自衛隊がわれわれ国民の生命・財産を守ってくれる、個人のプライバシーを保護してくれる優しい法案と錯覚しかねない。
 世界は冷戦構造が崩れて、アメリカの一人勝ちになった。有事法制は、そのアメリカの世界制覇に日本を加担させようとするねらい。そもそも、日本は、戦争放棄をうたう憲法9条をもつ国。戦争をやってはならない、戦争に協力してもならないを国是としてきた。
 その憲法に明確に違反する法律が堂々と上程される。しかも、国民の目がカウントダウンのサッカー・W杯にくぎ付けにされる時期を選んで。まさに、どさくさ紛れ。
 メディア規制法案といわれる個人情報保護法案も、国民の耳目をふさいでしまう悪法。作家の城山三郎さんが「この法律ができたら『言論の死』の碑を建て、賛成議員全員の名前を残す」と、猛反対するほどだからうなずける。
 旧農業基本法が、魂のこもらない食料・農業・農村基本法に変わり、農業者は道標を失った。今度は、憲法が骨抜き、改悪され、「日本が戦争をできる国」にする。冗談も程々に。それこそ国が滅びる。城山三郎さんじゃないが「ぼけている暇はない」ようだ。(だだっ児)


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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